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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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「骨棍棒」×「骨棍棒」

 融合の光が消え、僕の手には一振りの短剣が残った。


 刃は細身で湾曲しており、その半分――切っ先側には、明らかに金属ではない素材が使われていた。


 淡い黄色の半透明の繊維が、魚のヒレのように扇状に広がっており、

 まるでヒレが刃に溶け込んだような異質な構造だった。


 鑑定。

 

 《パラライズフィンダガー:片手剣 攻撃力3 麻痺効果(小) ※ユニス以外が使用すると破損》


 手首を軽く動かしながら、刃をじっくり観察するとヒレの部分が微かにしなる。


 光を受けた刃の境界線は滑らかに繋がっているが、ヒレと金属の境目ははっきりと目で見てわかる。


「できたのか?」


 リリエットがすっと隣に寄って聞いてきた。


 異質でありながら、どこか美しさを備えた見た目につい見とれてしまっていた。


「うん。名前は《パラライズフィンダガー》だって、麻痺効果(小)がついてるね」


「ほう、それは狙い通りだな」


 彼女が目を細めて刃を覗き込む。その視線は、いつになく真剣だった。


「ヒレの繊維がそのまま刃の一部になっているようだな。だが……これは、ちゃんと斬れるのか?」


「たしかに、火力はあんまり期待できないかも。攻撃力3ってなっているから融合する前より落ちちゃってるね。」


 実際、手に持った瞬間に感じたのは“鋭さ”ではなく、“しなやかさ”だった。

 サハギンのヒレは鋭いが金属の刃には及ばない。切り裂くというより、痺れさせることに特化したような武器だ。


「ふむ……直接的な威力は低くとも、足止めには使えるかもしれんな」

 リリエットは腕を組み、静かに頷いた。


「うん、とにかく一度試してみたいね。サハギンの相手だったら刃は通ると思うから」


「そうだな。

 ところで何という名前だったかもう一度言ってくれるか」


「パラライズフィンダガー」

 僕は少しゆっくりと発音した。


「長いな」


「長いね」


 ふたりで顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。


 ***


 翌朝、ダンジョンの入り口に立った。

 手にはいつもの炎蜥蜴の斧、そして腰には新たに作ったパラライズフィンダガーが収まっている。


「じゃあ、一階層で単独の棍棒持ちがいたら、ダガーで戦ってみるよ」


「承知した。たしかに棍棒持ちの方が攻撃を防ぎやすいな」


 武器を持たないサハギンは、ヒレを使った体当たりをしてくる。

 皮肉なことに、棍棒を持っている個体の方が予備動作が大きく、対処しやすいのだ。


 一階層を進んでいくと、さっそく単体の棍棒持ちのサハギンを発見した。


「よし、ダガーを試すよ」


 斧を背に回し、パラライズフィンダガーを手に取る。

 リリエットは軽く頷くと、やや後方に構えて待機した。

 聖銀の剣の威力は高く、うかつに攻撃すると実験にならない。


 サハギンが棍棒を振りかざし、こちらに突っ込んでくる。

 僕はしっかりと盾を構え、その衝撃を受け止めた。


 カツンッ!


 力をいなし、間を詰めて反撃。

 狙ったのは鱗の少ない腹部。

 パラライズフィンダガーがしなるように動き、ヒレの刃がサハギンの皮膚を浅く切り裂いた。


 その瞬間――


「……!」


 サハギンの身体がびくりと跳ね、次の瞬間、ピク……ピク……と、わずかに痙攣し動きが止まる。


 すごい。本当に麻痺している。


 僕は追撃をせず、そのまま観察を続けた。

 いち、に、さん――心の中で三つ数えた頃、サハギンの身体が再び動き出した。


 棍棒を振り上げ、怒りにまかせて襲い掛かってくる。


 もう一度、攻撃を防ぎながらダガーで腹を切る。

 だが――今度は麻痺は起こらなかった。


「リリエット!」


 呼びかけと同時に、リリエットが踏み込む。

 聖銀の剣が二閃。鮮やかな二撃で、サハギンを倒した。


 息をつく。


「ふむ……本当に麻痺したな。これはかなり強力なのではないか?」


「そうだね。ちゃんと効いた。

 でも、二回目はダメだったね」


「もう少し、試してみるか」


 その後も何度か単独のサハギンを相手に、実験を続けた。


 結果として分かったのは、最初の一撃は麻痺が必ず入るということ。

 麻痺時間は個体差があるが、だいたい三秒前後。

 一度麻痺させた後は、同じ個体にはそれ以上効かない。

 耐性がついてしまうのか、それとも別の条件が必要なのか……現時点では検証しきれなかった。


「まあ、検証はこのくらいでいいかもね」

 僕は地面に落ちたドロップアイテムを拾いながら言った。


「一度しか効かないとはいえ、十分な効果だな。初撃で足を止められるのは大きい」


「うん、でもサハギン相手なら、最初から斧で倒したほうが早いかもね」


「確かに。今のところは非常用の武器……といったところか」


 リリエットの言う通り、使いどころは選ぶだろう。

 けれど、それでもこの武器のポテンシャルには、まだ伸びしろがある。


「でもさ。これに毒のヒレも融合したら、もっとすごい武器になると思わない?」


「ほう。麻痺と毒……両方発動したら、さぞ強力だろうな」


 リリエットの目が、わずかに輝く。


「よし、じゃあ今日は三階層の階段を探しながら、毒ヒレ持ちを探してみよう」


「ああ、楽しみだ」


 リリエットが穏やかに笑った。


 ***


 だが、何度サハギンと戦っても、毒ヒレを持つ個体には出会えなかった。

 三階層への階段を先に見つけてしまった頃には、僕らのバックパックはヒレと骨棍棒でいっぱいになっていた。


「どうする、ユニス」


 リリエットが振り返る。


「まあ、しょうがないね。今日はここまでにしよう」


 きっと、毒ヒレ持ちの個体をわざわざ出てこいと願っているのは、僕らくらいだろう。


 帰りの戦闘でも、毒持ち個体は一体も現れなかった。


 ***


 帰り道。


「今日の融合はどうするのだ?」


「そうだね……」


 すっかり毒ヒレに期待していたので、急に選択肢が乏しく感じてしまう。

 ヒレと骨棍棒の組み合わせはすでに試したハリセンで、さすがにもう使い道はない。

 装備中の武器や防具を無理にいじる気にもなれなかった。


「うーん、骨棍棒を二つ混ぜてみようかな」


「なるほど。ゴブリンの棍棒の時はウッドスピアになったのだったな」


「うん。もし骨の槍ができたとしても、今すぐ使えるかは微妙だけど……さらに融合すれば何かの役には立つかもしれないしね」


「たしかにな」


 リリエットも、どこかがっかりしたような様子だった。

 夢見た毒+麻痺のダガーは、ひとまずお預けだ。


 ギルドに戻ると、骨棍棒を二本だけ残して他の素材を売却し、宿へ戻った。


 ***


「じゃあ、行くよ」


 骨棍棒を左右の手に一つずつ持ち、意識を集中させる。


「うむ」


 リリエットも、少しだけ期待を込めた表情で見守っていた。


 融合。

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― 新着の感想 ―
最近融合の頻度増えてきて楽しいです!次は何ができるかなー!
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