「棍棒」×「棍棒」
ダンジョンには何度来ても、やっぱりどこか緊張する。
棍棒持ちのゴブリンならまだしも、たまに出るナイフ持ちのゴブリンは下手をするとこちらは大怪我したり、もっと悪くすると殺されることだって考えられる。
それでも今日も僕は、いつものようにゴブリンを狩り続ける。
冒険者になると決めたときから、死を覚悟の上だ。
慎重に、丁寧にゴブリンを処理していく。
ゴブリンソードは昨日の融合でゴブリンソード+1になっているけれど、正直なところ違いは分からない。
そもそも、ほとんど一撃で倒しているのだから、特攻効果が1%増えたところで体感できるはずもない。
本日、10体目のゴブリンを倒して、ドロップアイテムの棍棒を拾う。
バックパックは半分ほど埋まっている。
ふと、ちらりと二階層に降りてみようかと考える。
冒険者になってからこの一ヶ月、僕はずっと一階層だけを回っていた。
その理由は単純だ。
一階層のゴブリンは単独で現れる。
二階層以降になると、ゴブリンが二体でつるんでいることがある。
しかも、こちらが一体に集中している隙を突いてもう一体が襲ってくる――なんてことも。
危険だ。
どんなにゴブリンソードが強力でも、攻撃を受ければ怪我をする。
僕はまだ軽い皮鎧しか持っていない。
ゴブリンは決して侮っていい敵ではないのだ。
やがてバックパックが素材でいっぱいになり、僕はいつものようにダンジョンを後にした。
ギルドへ向かう道すがら、今日の融合について考える。
今日のドロップアイテムもいつもと変わらず、「ゴブリンの牙」、「棍棒」、「ナイフ」の三種類。
それぞれ鑑定すると
《ゴブリンの牙:素材》
《棍棒:片手槌 攻撃力2》
《ナイフ:片手剣 攻撃力3》
やはり、ダンジョンのドロップアイテムはすべて鑑定ができた。
装備も鑑定する。
《ゴブリンソード+1:片手剣 攻撃力12 ゴブリン特攻+101% ※ユニス以外が使用すると破損》
《鉄の盾:中盾 防御力10》
《皮の兜:兜 防御力1》
《皮の鎧:鎧 防御力2》
《皮の小手(右):小手 防御力1》
《皮の小手(左):小手 防御力1》
《皮のグリーブ(右):脛当て 防御力1》
《皮のグリーブ(左):脛当て 防御力1》
《皮の靴(右):靴 防御力1》
《皮の靴(左):靴 防御力1》
どうやら、装備も鑑定可能のようだ。
元々僕が今装備している防具はすべて、ギルド公認の鍛冶屋で買ったものだ。
ギルド公認の鍛冶屋はダンジョンのドロップアイテムを加工して販売しているという話だ。
ドロップアイテムを素材にしていれば、鑑定できるのかもしれない。
さて、この中で何を融合するかが問題だ。
ゴブリンソード+2にしても、きっと変化はわずかだろう。
特攻効果がまた1%増える程度だ。
別の組み合わせを試したい。
たとえば……ゴブリンソードと棍棒。
……万が一、棍棒ソードみたいな妙な武器が出来たら笑い事ではない。
他の装備も同様だ。
冒険者になるために半年ほど辛い肉体労働に堪えて、ようやく手に入れた装備たちだ。
使い物にならなくなったら大変だ。
だったらいっそ、ゴブリンのドロップアイテム同士で融合してみるのはどうだろう?
ゴブリンの牙。
ギルドがこれを買い取っているのは、ダンジョンから魔物が外に出るのを防ぐ意味があるからだ。
誰も探索しないダンジョンはダンジョン内に魔物が溢れ、やがて外にまで魔物が出てくる。
そのため、ギルドはダンジョンのドロップアイテムを買い取り、冒険者に金を渡す。
いわば治安維持に対する褒賞だ。
さらに、ゴブリンの牙は砕いて畑の肥料にもなる。
……もし牙を二つ融合して、ただの肥料ができたらガッカリだ。
棍棒はどうだろう。
試す価値があるかもしれない。
棍棒を鑑定すると、《棍棒:片手槌》と出た。
立派な武器だ。
ギルドでは大抵、薪として使っているらしいけど、それでもちゃんとした武器だ。
ナイフも融合候補に入るかもしれないが、これは鉄として再利用できるらしく、買い取り価格も高い。
無理に融合して損をするのも避けたい。
よし、次は棍棒を二つ融合してみよう。
ギルドに到着し、棍棒二本を残して、残りの素材を換金する。
220ゴルド。
また記録更新だ。
宿に戻り、食事をとる。
今日も当然のようにエールを頼んだ。
「最近、羽振りがいいわね」
ネルコがジョッキを運んできながら、いたずらっぽく言う。
「今後はもっと良くなるかも」
僕は得意げに胸を張って答える。
「……あんまり調子に乗っちゃダメよ」
いつもより少し真剣な顔で、ネルコが続けた。
「今まで何人も、常連さんがダンジョンから帰ってこなかったの。だから――」
その言葉に、僕は思わず背筋を伸ばした。
「……無茶はしないよ」
僕は神妙に頷いた。
翌朝。
棍棒と棍棒を手に取って、融合スキルを起動する。
「融合」
光があふれ、二本の棍棒が融合されていく。
《ウッドスピア:両手槍 攻撃力4 ※ユニス以外が使用すると破損》
「……そうきたか」
ウッドスピアの長さは1mほどで、先端は尖っているが木製だ。
これを武器にしてダンジョンに潜るのはかなり無謀だろう。
ちょっとだけ残念。
それでも、融合というスキルの可能性にワクワクしながら、僕はウッドスピアを部屋に置いて、今日もダンジョンへと向かった。