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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第二章

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29/112

「サハギンのヒレ」×「骨棍棒」

 翌朝、僕たちはダンジョンへ向かう前に、ギルドへ立ち寄った。

 新たな発表でもあるかと期待していたが、とくに目立った告知はなかった。


 ただ、一つだけ気になる変化があった。

 以前、トレントのダンジョンに関する情報がまとめられていた掲示板の横に、今度は「サハギンのダンジョン」についての情報が貼られていたのだ。


「ねえ、見てみて」

 掲示板を指差すと、リリエットもすぐに気づいた。


「……これは昨日、ネルコが言っていたことと一致するな」


 三階層まではサハギンが出現し、四階層からはリザードマンが現れる。

 さらに、二階層以降はサハギンが複数体で出現する可能性があるという。

 注意点として書かれていたのは、一部の個体が持つヒレの毒性だった。


 ヒレが緑色の個体は毒、黄色の場合は麻痺――いずれも致死性はないが、戦闘中に受ければ厄介な状態異常になるとのことだった。


「毒、か……やっかいだな」

 リリエットがぼそりとつぶやく。


「そうだね。だから、あまり人気がないのかもしれない」


「だが、私たちには融合がある」

 リリエットは僕の耳元へ顔を寄せて小声で言った。


「毒や麻痺の性質を持つ素材……融合すれば、面白い効果が生まれるかもしれないな」


「う、うん……たしかに」

 不意打ち気味の囁きに、思わず声が裏返ってしまった。


 スキルの話は普通、軽々しくしない。だから気を使って耳打ちしてくれたんだろうけど、僕の方が動揺してしまった。


 とはいえ、リリエットの言うことはもっともだ。毒や麻痺といった状態異常の性質を装備に取り込めれば、戦略の幅は大きく広がる。


「他に情報はなさそうだし、行こうか」

 僕はできるだけ平静を装って言った。


 僕らはギルドを後にし、南門の先にあるサハギンのダンジョンに向かった。


 ***


 サハギンのダンジョンの入り口をくぐると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


 床は他のダンジョンと同じく石畳だが、わずかに湿った匂いが鼻をかすめる。

 天井からはところどころ水滴が垂れており、ぽつ、ぽつと一定の間隔で地面を濡らしていた。


「少し湿気があるな……」

 リリエットが低くつぶやく。


「うん。足元は滑りそうってほどじゃないけど、注意して進もう」


 薄暗い通路をしばらく進んだところで、前方に気配が現れた。


 ――サハギン。


 湿った空気の中から現れたのは、魚と人間を足して割ったような異形の存在だった。


 ゴブリンより一回り大きいが、成人の人間と比べればまだ小柄。緑がかったぬめりのある肌に、ギョロリとした目、口元には鋭い歯が並んでいる。


 人型ではあるが、脚は短く、腕はやや長めで、水棲生物の筋肉のつき方を思わせた。手には骨のような棍棒を握っている。


「来るよ」


 炎蜥蜴の斧を構え、迎え撃つ。


 敵の動きはそこまで素早くはない。棍棒を振りかぶって突進してきたところを、リリエットが横から聖銀の剣を素早く振るった。


 サハギンが怯み、僕とリリエットを一瞬見比べ、どちらに攻撃するか迷ったようだ。


 その隙を逃さず、僕は斧を振り抜いた。


 ズバァッと、赤い刃がサハギンの胴を裂く。

 炎が迸ったが、期待していたほどの勢いはなかった。


 あれ?

 炎の広がりが鈍い?


 湿った皮膚が、炎を弾いている……というより、吸い込んでしまっているような手応え。

 水気のある外皮が、火の勢いをわずかに抑えているのかもしれない。


 とはいえ、攻撃そのものは十分通用した。サハギンはそのまま倒れこみ、手に持っていた棍棒を残して光の粒となって消えた。


「見た目にしては、動きは鈍いな」


「うん、ゴブリンとそんなに違わないかも」


 拾い上げた棍棒は、先端がごつごつとした骨でできており、多少なりとも素材として使えそうだった。


 鑑定。


 《骨棍棒:片手槌 攻撃力1》


 一応、武器扱いらしい。


 バックパックにしまい込んで再び歩き出す。


 次に遭遇したサハギンは武器を持っていなかった。

 その代わり、低く身構えたかと思うと、突然飛び込むような勢いで突っ込んできた。


「来るぞ」

 リリエットが注意を促した。

 

 咄嗟に身を引きながら盾を構えて観察する。


 背中のヒレが鋭く伸びていて、いかにも危険だ。


 もし防具で覆われていないような部位に当たればただではすまなさそうだ。


 だが、こちらには盾がある。盾でうまく受け流し、態勢を崩したところをリリエットが仕留めた。


「ヒレにだけは注意だな。鋭い刃物みたいなものだ」

 リリエットが冷静にいった。


「そうだね。このタイプは、もしかすると毒や麻痺のやつかもね。ヒレの色、見えた?」


「ああ、だが今回は普通だったな。だが、見分けがつくように気を配っておいたほうがいい」


 ドロップアイテムも鑑定してみる。

 《サハギンのヒレ:素材》


 確かに、特に毒がある個体ではなかったようだ。


 その後も慎重に進み、同じようにサハギンを倒しながら進んだ。


 そして、二階層への階段を発見したところで、僕たちはその日の探索を切り上げることにした。


「……今日は、ここまでにしておこうか」


「そうだな。初見にしては十分すぎる収穫だった」


 来た道を引き返し、ダンジョンの外に出る。


 結局、今日は毒を持った個体とは会わず、ドロップアイテムは骨棍棒とサハギンのヒレの二種類のみだった。


 ***


 迷宮都市へと続く街道を歩く帰り道、僕たちはサハギンのダンジョンについて意見を交わした。


「とりあえず、一階層は問題なかったね」

 僕が言うと、リリエットは軽く頷く。


「そうだな。不人気なダンジョンと聞いていたから、もっと手ごわいかと思っていたが……」


「確かにね。……でも、ゴブリンよりかは厄介だと思ったよ。

 僕らはしっかりと防具を揃えているし、金属製の盾も持ってる。

 だからサハギンの攻撃は、今のところ大きな脅威じゃなかった」


 その言葉に、リリエットは小さく息を吐いて言った。


「なるほどな……防具を揃えられる者がすべてではない、か」


 ダンジョンという場所は、常に危険と隣り合わせだ。

 望んで冒険者になった者もいれば、他に選択肢がなく、碌な装備も持たずに潜る者もいるだろう。

 そんな人たちがどれだけ生き残れるのか、想像するまでもない。


 そんなことを話しているうちに、僕たちはギルドに着いた。


 骨棍棒とサハギンのヒレをひとつずつ残し、残りは売却した。

 どちらも一つ10ゴルドと、決して高くはない値段だった。

 合計で今日の稼ぎは320ゴルド。苦労のわりに報酬は控えめだ。


「この買い取り価格の低さも、不人気の理由だろうね」

 僕が苦笑まじりに言うと、リリエットも小さく笑った。


 ***


 宿に戻ると、彼女は当然のように僕の部屋へついてきた。


「今日は融合するんだ?」

 目を輝かせて訊ねてくるその姿に、思わず笑ってしまう。


「せっかく新しい素材が手に入ったからね。今日は骨棍棒とサハギンのヒレを融合しようと思う」


「ふむ。あのヒレは鋭かったからな。ナイフのような武器ができるかもしれないな」


「そうだといいね」


 素材を両手に持つ。骨棍棒と、サハギンのヒレ。

 どちらも手触りが独特で、明らかにこれまでの素材とは性質が異なっている。

 僕は静かに深呼吸して、スキルを発動した。


 融合


 光がふわりと素材を包み、部屋の空気が一瞬だけ静止する。


 ――そして、現れたのは。


 見た目は薄く扁平な槌。ヒレそのものを、骨の棍棒の柄に無理やりくっつけたような構造。


《サハギンハリセン:片手槌 攻撃力1 ※ユニス以外が使用すると破損》


「……ハリセン?」


 手に取ってみる。

 

 振ってみるとヒレが広がり「パシンッ!」と乾いた音が響くだけだった。


 何これ…?

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ネ、ネタ武器だぁあああああ!!!!
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