「フレイムアックス」×「リザードマンの牙」
「リリエット、最後の攻撃、すごかったね。
でも、怪我はない?」
僕は隣のリリエットに声をかけた。
「ああ、大丈夫だ。
盾で受けられたしな」
リリエットはさらりと答えた。
「でも、かなり吹き飛ばされてたけど……」
「あれは、私が自分から後ろに飛んだのだ。おかげで衝撃もそこまでじゃなかった」
なるほど、だからあんなに綺麗に着地できたのか。
「そういうのも訓練してたの?」
「いや、だが……体が勝手に動いた」
リリエットは少し不思議そうに笑った。
最近のリリエットの成長は凄まじい。
さっきのリザードマンの顔面を狙った突きも素晴らしい速度だった。もしかしたら彼女が得たという連撃スキルが関係しているのかもしれない。バタバタしていて、その辺の話を聞きそびれてる。
あとで時間があるときに聞いてみよう。
「お嬢様、ユニス様、ご無事ですか!」
セバスが汗を拭きながら駆け寄ってきた。
「ああ、大事ない」
「肝が冷えましたよ……しかし、早めに出発したほうがよいでしょう。他にも魔物がいるとしたら、都市に近いほうが安全です」
「そうだな、行こう」
リリエットが頷いた。
僕は急いで地面に落ちていたドロップアイテムを拾い上げた。どうやら牙のようだ。鑑定。
《リザードマンの牙:素材》
これは融合に使えそうだ。
再び馬車に乗り込み、揺れる車内で一息ついた。
幸い、それ以上魔物に遭遇することもなく、僕たちは無事に迷宮都市の南門へとたどり着いた。
「私たちはここまでで十分だ。セバス、お前はどうする?」
「私はこの後、ギルドに向かいます。
お嬢様を送り届けていただいたお礼の書簡を、男爵様から預かっておりますので」
「そうか、すまないな。では、達者でな」
「もったいないお言葉です。……しかし、お別れの前に、お嬢様に一つだけ差し出口をよろしいでしょうか?」
「うん? ああ、構わないぞ」
「お時間がありましたら、奥様とルーク様にお手紙をお書きになっていただければと。男爵様は“討伐するまで敷居はまたがせない”と仰いましたが、手紙なら問題ないかと存じます」
「ああ……そうだな。助言、感謝する」
「ありがとうございます。では、お嬢様、ユニス様、失礼いたします」
そう言って、セバスは馬車をギルドの方へと進めていった。
「僕らは宿に行こう。……うっかりしてたけど、ゴードンさんやネルコに何も言わないで来ちゃったからね」
「確かに。心配しているかもしれないな」
宿に着くと、案の定ネルコがカンカンだった。
「ユニス! リリエット! あなたたち、今までどこ行ってたの!」
ネルコは怒った顔で僕らを出迎えた。
「いや、ちょっとね……」
「もう、何も言わないでいなくなるんだから!
私、もしかしてって思って心配してたんだから!」
やはり、心配をかけてしまっていた。常連がダンジョンから帰ってこなかった経験があるという話を思い出す。
「ごめんね。ちょっとバタバタしてさ。今日からまた頼むよ」
そう言って、80ゴルドをカウンターに置いた。
「すまなかった。ネルコ殿、心配をかけた」
リリエットも頭を下げ、宿代を置いた。
そういえば、いつの間にかリリエットのことを「ルーク」じゃなくて本名で呼んでいる。
リリエットはいつも僕より早くに起きているようだから、僕が知らないところで色々と話していたのだろう。
「もう……私、掃除に戻るから!
お父さん、ユニスたちが帰ってきたよ!」
ネルコは掃除道具を手に奥へと戻っていった。
「おう、お前たち、無事だったみたいだな。
ちょうど魔物の騒ぎもあったし、俺も心配してたんだぞ」
ゴードンさんが厨房から顔を出して言った。
「魔物の騒ぎ……ですか?」
「南のダンジョンから魔物があふれたって話だ。冒険者や都市の兵士が対応したそうだがな。新しいダンジョンが見つかったってタイミングだったから、冒険者の分散が原因じゃないかって噂になってるぜ」
南のダンジョンといえば、リザードマンが出るダンジョンだ。
どうやら街道で遭遇したリザードマンは、その騒ぎで打ち漏らされたものだったらしい。
それにしても新しいダンジョン……?
「それって、トレントのダンジョンのことですか?」
「いや、そっちとは別。昨日発見されたらしいぞ」
「またですか……」
立て続けの出現。これはただごとじゃない。
「これでこの辺りに八個のダンジョンがあるってことだな。騎士団が動くか、ギルドが報奨金を出すんじゃないかって噂になってるぜ」
迷宮都市はダンジョンの恩恵で成り立っている。しかし同時にダンジョンから魔物があふれるリスクもある。
増えすぎれば、間引くことになる……それが今回の話かもしれない。
「すごいことになってますね」
「まあ、まだ噂だけどな。そのうちギルドが何か発表するだろう」
ゴードンさんはそう言い、厨房へと戻っていった。
「……ダンジョンが増えたのは、我々には好都合かもな」
リリエットが言った。
「確かに。選択肢が広がるもんね。
晩御飯のときにでも、今後の作戦会議をしよう」
「そうだな、賛成だ。……だが、その前に先ほどのリザードマンの素材、融合するのだろう?」
リリエットはニヤリと笑った。
すっかりお見通しのようだ。
「うん。見てく?」
「当たり前だろう」
彼女は当然のように言った。
僕たちは部屋に入り、荷物を置いて一息ついた。
「さて、何を融合するのだ?」
「フレイムアックスにしようかと思ってる。上手くいけば強い武器になるかも」
「なるほどな、それもいつもの直感か?」
「いや、今回は直感ってわけじゃないんだ。
でも、ゴブリンソードのときみたいに、リザードマンに有効な武器になるかもって思ってさ。」
「なるほど。
それは楽しみだな!」
リリエットは目を輝かせ、わくわくした様子で僕を見ていた。
「じゃあ、いくよ」
僕は、リザードマンの牙とフレイムアックスを手に取った。
融合──!
光が交差し、牙と斧が混じり合う。
──手元に残ったのは、一振りの片手斧だった。
深い赤を帯びた金属の斧。刃の根本には、牙のような装飾が刻まれている。
鑑定。
《炎蜥蜴の斧:片手斧 攻撃力13 炎ダメージ+4 ※ユニス以外が使用すると破損》
「できた……!」
フレイムアックスの完全な上位互換。見た目も、性能も、格段に向上していた。




