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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第一章

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家出娘の帰還

 僕はリリエットの背中に恐る恐る手を回した。 


 リリエットの小柄な体が、震えるほど僕にしがみついていた。


 しばらくして僕はそっと両腕を緩めると、リリエットも静かに離れていった。


 リリエットの顔は赤く染まり、笑顔を浮かべていた。

 だが、その頬には涙の跡も残っていて、

 どう表現していいかわからない、複雑な、けれど温かい表情だった。


「泣いているの、リリエット」


 僕がそっと尋ねると、リリエットは首を横に振った。


「いや、これは……嬉しくて涙が出たのだ。こんなことは、初めてだ」


 笑って、リリエットは言った。


 そして、少し顔を伏せながら、恥ずかしそうに言葉を付け加える。


「その……すまなかったな。舞い上がってしまって……」


 リリエットの耳まで赤く染まっている。

 あまりに素直なその様子に、僕の胸も妙にざわついた。


「えっと……僕も、嫌じゃなかったし……」


 胸がドキドキして、自分でも何を言っているのかよくわからなかった。

 顔が熱い。


「そ、そうか……。

 いや、とにかく、無事にポーションが手に入ったのだ。

 私は一度部屋に戻って、着替えてくる。それから、夕食のときにこの後の算段をつけよう」


 リリエットは慌てて顔をそらしながら言って、ドアの方へ向かった。


「そうだね。わかったよ」


 僕も慌てて頷いた。


 リリエットは最後にちらりとこちらを振り返り、ほんの少しだけ微笑んで、部屋を出ていった。


 ***


 夕方、僕たちは宿の食堂で合流した。


 テーブルには、こんがり焼かれた腸詰と蒸かし芋、そして少しの葉野菜が運ばれてきた。

 僕が一番好きな組み合わせだ。

 そして何より──今日は追加でエールを頼んだ。


 リリエットとパーティを組むことになったあの日、乾杯して以来、僕はずっとエールを頼んでいなかった。

 なんとなく、弟のためにポーションを探しているリリエットの姿を見ると、そんな気分にはなれなかったからだ。


 でも、それも今日までだ。


「乾杯!」


 僕たちはジョッキをぶつけた。


 エールを一気に半分ほど飲む。

 久しぶりのエールは、驚くほど美味しかった。

 きっと、それはエールの味以上に、達成感のおかげだろう。


「改めて、ありがとう、ユニス。

 貴方がいなかったら、ポーションを手に入れることはできなかった」


 リリエットはまっすぐ僕を見て、深く頭を下げた。


「どういたしまして、リリエット。……でも、お礼はまだ早いよ。

 ルークにポーションを届けないとね」


「ああ、そのことは相談したかったのだ。

 家に帰る手立てを考えなければならない」


 リリエットは一度、言葉を区切った。


「私の家はコルヴィアという地方にあり、この都市から馬車で丸一日の距離がある」


 少しだけ躊躇いながら、リリエットが続ける。


「その……一緒についてきてくれるか?」


「なに言ってるの、ここまできて、逆に僕を置いて一人で帰るつもりだったの?」


 僕は呆れたように笑った。


「いや、そんなつもりは……!

 だが、距離もあるし……」


「馬車で一日なら、最悪、数日歩けば行けるよ。

 それに、そもそもリリエットはどうやってここまで来たの?」


「私が来たときは、迷宮都市への食糧を定期的に運ぶ馬車の荷台に隠れてきたのだ」


 迷宮都市には畑も牧場もほとんどない。

 食糧は周辺の村や町から運び込まれている。その代わり、都市はダンジョン由来の品を輸出しているのだ。


「随分、思い切ったことをしたね」


「今思えば無茶だったな……。

だが、あの時は一刻も早くポーションを手に入れたかったのだ」


「まあとにかく、じゃあ今度は同じように馬車で行こう」


「しかし、二人となると隠れるのは難しいのではないか?」


「何言ってるの。今度は家出じゃないんだから、隠れる必要ないよ。

 ギルドに相談してみよう。食料の定期便があるなら、こっちからも馬車が出てるはずだよ」


「そうか、確かにそうだな」


「じゃあ、明日、朝一でギルドに行ってみよう!」


 ***


 翌朝。


 僕たちは抗生ポーションを大切にバックパックにしまってギルドを訪れた。


「コルヴィアに行く馬車を知りませんか?

 どうしてもそっちのほうに用があるんです」


 受付の女性に事情を説明した。


「コルヴィアに?

 それは…あるにはあるけど、ちょっと確認が必要ね。

 少し待っててね」




 女性は奥へと消えていった。

 しばらく待つと、がっしりとした体格の男性が代わりに現れた。


「コルヴィア方面に行く馬車を探しているのは君たちか?」


「はい、そうです」


 男は僕の顔をじっと見て、それからリリエットへと視線を移した。


「君、帽子を取ってもらえるか」


 リリエットに向かって言う。

 リリエットは一瞬だけ迷い、若葉の帽子をそっと取った。


 金色の髪がこぼれ、青い瞳が顔を上げる。


「金髪に青い瞳……貴方は、コルヴィア家のリリエット殿か?」


「はい、そうです」


「やはり、そうか。

 父君から、ギルドに書簡が届いている。

 ──娘のリリエットが剣と盾を持って家出した。

 もしかしたら迷宮都市に向かったかもしれない。見つけたら保護してほしい、と」


「父が……そんなことを……」


 リリエットは小さく呟いた。


「家に帰る気になったのか?」


「はい…そうです」

 リリエットはためらいがちに答えた。


「……そうか。了解した。

 馬車はギルドの方で手配できる。今から出発すれば、日が暮れる前に着くはずだ。」


「本当ですか!?

 えっと、その……馬車の代金は……?」

 僕は思わず尋ねた。


「まあ、男爵家への貸しになるからな。君が心配することはない」


 男性は笑いながら答えた。


「馬車の準備がある。南門で待っていてくれ」


「わかりました。ありがとうございます!」


 ***


 拍子抜けするほどあっさりと、僕たちはリリエットの家へ向かう手段を手に入れた。


 南門で待っていると、立派な黒い馬に引かれた、幌のついた馬車がゆっくりとやってきた。


 いよいよ──

 リリエットの家、コルヴィアへ向かう。

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― 新着の感想 ―
さすがに捜索はされてたかwちゃんと両親に心配されてるみたいで安心しました〜。今回も面白かったです!更新ありがとうございます!
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