連携プレー
「いくよ! 攻撃は僕が受ける。リリエットとマリィはサポート。ナズカは魔法の準備を!」
僕が声を上げると同時に、三人は一斉に動き出した。
リリエットがぴたりと僕の横へ並び、マリィは少し後方。
ストーンゴーレムに向けての戦い方は、二階層に降りる階段ですでに打ち合わせていた。
クレイゴーレム相手に有効だった“鞭で先制して動きを止めて押し切る”戦法は、防御力が高いストーンゴーレムには通じない可能性が高い。
なので前衛は防御に重点を置いて、ナズカの魔法でとどめを刺すという方針だ。
ストーンゴーレムが、ゆっくりと腕を振り上げた。
「来るよ!」
僕は一歩踏み出し、盾を高く構える。
――ドンッ!
衝撃は凄まじい。
盾を滑らせて力を流したはずなのに、腕が少し痺れた。
「ユニス!」
リリエットが声を上げた。
「大丈夫! でも真正面からは受けないほうがいい!」
「承知した!」
リリエットが一歩踏み込み、アイスブランドをストーンゴーレムの横腹へ滑らせる。刃は表面を浅く裂くだけだ。
だが、それで十分だ。
無理に削り取る必要はない。あくまで意識を散らすための牽制。
「やはり、硬いな……」
リリエットが呟くように言った。
僕も続いて、黒溶の戦斧を振り下ろす。
切るというより、叩きつける。
刃が石を砕く一瞬、戦斧に宿った溶岩がほとばしり、赤い火花が散った。
その熱に反応するように、ストーンゴーレムの動きが一瞬だけ鈍る。
だが、すぐに体勢を立て直すと再び拳を振り上げた。
その時――
「撃つよ!」
ナズカの声が響いた。
僕とリリエットはすかさず両サイドに分かれるようにステップを踏んだ。ナズカとストーンゴーレムの射線を開けるためだ。
チラリと後方を見て、ナズカを見た瞬間――
ナズカの杖の先から、光が弾け、稲妻が杖とストーンゴーレムを結んだ。
バチィッ――!
乾いた破裂音がダンジョンに響いた。
雷光はストーンゴーレムの胸部に吸い込まれ、全身へと青白い光が駆け巡る。
ストーンゴーレムの動きがぴたりと止まる。
その腕が、ゆっくりと垂れ下がり――
……倒れる!
そう思った、その刹那。
ストーンゴーレムの右腕が、弧を描くように大きく後ろへ引かれた。
「薙ぎ払い――!?」
僕とリリエット、両方を狙った攻撃だ。
「まずい……!」
僕は慌てて盾を構える。
その時だった。
シュッ!
ストーンゴーレムの腕に、細くしなやかな何かが巻きついた。
《ウッドゴーレムウィップ》。
マリィの鞭だ。
「よい……しょっ!」
いつのまにかゴーレムの背後へ回り込んでいたマリィが、
低く腰を落とし、全身を使って鞭を引いていた。
鞭はぴんと張りつめ、ストーンゴーレムの腕の動きを止める。
ほんの一瞬。
けれど――それで十分だ。
「今よ、リリエット!」
マリィの声と同時に、リリエットが踏み込む。
風のような速さでストーンゴーレムの懐に入り、素早くアイスブランドを二度振った。
キィン、キィンッ――!
白い軌跡が、ゴーレムの胴にバツ印を描いた。
さっきほどの牽制とは違う、本気の斬撃だ。
「はぁっ!」
僕も続いた。
リリエットが刻んだバツ印、その中心へ――
黒溶の戦斧を、全力で叩き込む。
岩を砕き、食い込んだ刃から溶岩がほとばしる。
――バチン。
小さなひび割れの音。
しかし、それは始まりだった。
ひびは胴体から全身へ、蜘蛛の巣状に一気に走り――
ストーンゴーレムは、崩れ落ち始めた。
石が砕ける重い音。
そして、光の粒となって、跡形もなく消えた。
パーティ全員が大きく息を吐いたのが分かった。
地面には、拳大の灰色の石がひとつだけ残されている。
鑑定。
《鉄鉱石:素材》
ずいぶん手強かったけど、そのぶんの価値はありそうだ。




