ゴーレムのダンジョン
「よし、みんな準備はいいね?」
僕が声をかけると、三人の視線が一斉にこちらを向いた。
スライムのダンジョンを探索した翌日。
僕たちはギルドでゴーレムのダンジョンの最新情報を確認し、そのままそのままダンジョンの入り口まで足を運んでいた。
「潜る前に、改めて確認しておこう。――今日の目標は一階層の探索。出てくる魔物は主にクレイゴーレムだね」
僕は少し間をおいて続ける。
「ゴーレムのダンジョンでは、階層が下がるごとにさまざまなゴーレムが現れる。
一階層は粘土でできたクレイゴーレム。動きは鈍く、硬さもそこそこ……だけど油断は禁物だね。
さらに下へ行けば、金属系のゴーレムが出てくる。素材としては価値が高いが、その分、手強い相手になる」
「融合の素材にはもってこいだね」
ナズカが不敵に笑った。
「うん。でも今日は無理はしない。まずは一階層でクレイゴーレムを相手に、探索の感覚をつかむところから始めよう」
「――融和としての初陣ね」
マリィが腰の短剣に手を添えながら、いたずらっぽく笑う。
「そうだな。記念すべき最初の戦いだし、無茶はせずに確実に勝とう」
僕も口元を引き締めつつ微笑んだ。
「作戦は?」
リリエットが剣の柄にそっと手を置き、澄んだ青い瞳でこちらを見据えた。静かな闘志が宿っている。
「僕とリリエットが正面を抑える。マリィはできれば側面か背後に回ってかく乱して。――時間を稼いで、最後はナズカの魔法で仕留める」
僕はひと呼吸おいて、落ち着いた声で付け加えた。
「前衛はダメージを与えるよりも、まず回避と防御を優先しよう。相手の攻撃をいなすのが第一だね」
「了解」
リリエットが短く頷いた。
ギルドの話では、一階層に出てくるクレイゴーレムでさえ、トレントより強いという。
理由は単純――ゴーレムはとにかく大きいのだ。
身の丈は優に二メートルを超え、肩幅も人の倍はある。粘土でできた体は丸太を束ねたように太く、丸みを帯びた巨体はどっしりとした質量感を誇っていた。動きこそ鈍いが、その巨体が振り下ろす拳は岩塊そのもの。しっかりとした盾で受けたとしても、衝撃をまともに受ければ腕ごと痺れ、体勢を崩されかねない。
「マリィの状態異常は、おそらく効かないと思って動こう。牽制をメインにしてほしい。
ナズカは敵を近づけさせないから安心して集中して――とどめは任せたからね」
マリィもナズカも、それぞれの役割を理解しているようで、しっかりと頷いてくれた。
「――よし、行こう」
僕らは揃って階段を降りていった。
* * *
しばらく探索を進めると、早くも一体目のクレイゴーレムを発見した。
――やはり大きい。
まだ距離はあるのに、思わず息を飲むほどの威圧感だ。
こちらに気づいたクレイゴーレムが、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「行くよ」
リリエットとマリィに声をかけ、僕は斧を構えながら駆けだした。
ナズカはその場に留まり、杖を胸前に立てて集中に入る。
間合いに入る。
僕は右側へ、リリエットは左側へ――息を合わせるように配置を取った。
クレイゴーレムが、ぶ厚い腕をゆっくりと振り上げ僕を狙っている。
――来る。
後ろへ下がれば避けられそうだが、僕はあえて盾を構えた。
振り下ろされる寸前、タイミングを合わせて盾を前へ突き出すようにぶつける。
拳に勢いが乗る前に弾き返すことに成功した。
それでも衝撃は重く、腕にじんわりとした痺れが走る。
噂通りの破壊力だが、今のようにしっかりと受け止めれば防ぎきれる――初戦でそれを確かめられたのは大きい。
次は右腕が大きく薙がれ、リリエットへ迫る。
しかしリリエットは軽やかなステップで身をひらりとかわした。まだ余裕があるようだ。
その間に、マリィはいつの間にか背後へ回り込み、短剣を左右から素早く振るった。
刃は粘土の肌を軽く裂いたが、狙いはダメージではなく状態異常の確認だろう。
クレイゴーレムに変化はない。
やはり短剣の特殊効果は通じないようだ。
「――撃つよ!」
ナズカの気迫を帯びた声が響く。集中を終えたのだ。
僕とリリエットは左右に散り、ナズカの射線を開ける。マリィも素早く距離を取った。
次の瞬間、ナズカの杖の先とクレイゴーレムが一瞬、光の筋で結ばれた。
パンッと空気がはじけるような乾いた破裂音が響く。
雷魔法が炸裂した。
さすがの威力で、クレイゴーレムは前のめりに崩れ落ちる。
粘土の巨体は光の粒へと変わり、地面には拳大の土塊だけが残された。
【お知らせ】
いつも本作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
大変恐縮ですが、今後の更新は 週1回・金曜日 に変更させていただきます。楽しみにしてくださっている皆さまには申し訳ありません。
更新頻度は下がりますが、より一層ワクワクする冒険をお届けできるよう努めてまいります。
また、書籍化に向けた準備も並行して進めておりますので、その点もぜひ楽しみにお待ちください。
これからもユニスたちの冒険を、末永く見守っていただければ嬉しいです。




