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【祝・書籍化!】融合スキルで武器無双!ゴブリンソードから伝説へ  作者: 田中ゆうひ
第三章

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雷光の杖

 融合の光が収まると、手には一本の両手杖が残されていた。


 先ほどまでの《樫木の両手杖》の形を残しつつ、先端には琥珀が嵌め込まれている。単に埋め込まれているのではなく、まるで木と琥珀が互いに絡み合い、自然に一体化したかのような造形だ。どこか洒落た意匠すら見て取れる。


 鑑定。


《雷光の杖:両手杖 魔法攻撃力12 雷ダメージ+2 ※ナズカ以外が使用すると破損》


「できたよ。《雷光の杖》だって。雷ダメージが追加されてる」


 融合前にリリエットが言っていた通り、琥珀には本当に雷の力が宿っていたらしい。


 僕が杖を差し出すと、ナズカは両手で大事そうに受け取り、目を丸くしてまじまじと観察する。そして、すぐに頬をゆるませた。


「きれいだ……」

 ナズカはうっとりと呟き、続けて芝居がかった声を張り上げた。


「まるで天を裂く雷が大地に降り注ぎ、その輝きが杖の姿をとったみたいだよ!」


 確かに文句なしに美しい杖ではある。だが、さすがにそれは大げさだろう。

 魔法使いとしての観察眼で杖の力を言い当てているのか――それとも、ただの性格というか妄想の産物なのか。僕には、どうも後者に思えた。


「ねえ、折角だからダンジョンで試してみましょうよ!」

 マリィが身を乗り出す。期待で瞳がきらきらしていた。


「たしかに、まだ時間も早いしね」


 朝からナズカを探して駆け回り、大急ぎでここまで来た。太陽はまだ高く、十分探索する時間は残されている。


 *  *  *


 ダンジョンに戻り、しばらく進むと早速スライムを見つけた。


「距離は十分ある。僕らもいる」

 小さく頷き、ナズカを見やる。

「だから安心して、思い切ってやっちゃって」


「……うん」

 ナズカはニッコリ笑みを浮かべ、杖を胸前に立てる。瞼がすっと閉じられ、空気が張り詰めた。


 いつもの、あの集中だ。


 僕は前方のスライムを油断なく見据える。のろのろと進んでおり、まだ十分距離がある。そろそろかとナズカに視線を戻すと、ちょうど集中を終えたようでパッと目を開いた。


 次の瞬間、雷光が奔る。乾いた破裂音とともに通路が白く一閃し、青スライムはひとたまりもなく霧散した。


「相変わらずすさまじいな」

 リリエットが低く感嘆の声を漏らす。


「そうね、やっぱりすごい威力! それに、新しい杖のおかげかしら、さっきより雷が“太い”気がするわ」

 杖を覗き込むようにしてマリィが言った。


「うーん……もう少し、試してみてもいい?」

 だが、当の本人は微妙な顔で首を傾げていた。


「もちろん」

 僕らは探索を続ける。二体目、三体目と青スライムを見つけては同じ手順で対処した。僕とリリエットが前に立ち進路を制御し、ナズカが合図に合わせて雷魔法を放つ。稲妻は正確に着弾し、結果はいずれも一撃だった。


 三体目が霧散したところで、ナズカは杖を下ろし、きっぱりと言った。


「……やっぱり、いつもと変わらないね。これは」


 うすうす――僕もそうではないかと感じていた。元々の威力が高すぎて違いが分かりにくいのかもしれない、と自分に言い聞かせていたが、使い手本人が断言するなら間違いない。雷魔法としての威力は変わっていないのだ。


 ということは――。


「ねえ、もしそうだとしたら……一つ、心当たりがあるんだ」


 僕の黒溶の戦斧、そしてリリエットのアイスブランド。どちらも追加効果が発揮される条件は決まっている。


「うん、僕のほうにも心当たりがある。もう一体スライムを探してみよう」

 ナズカも同意するように頷いた。


 *  *  *


 しばらく探索して、また通路の先に青スライムを見つけた。


 今度は距離を取らず、あえて接近する。

 僕とリリエットがナズカの左右を固め、すぐ後ろには万が一に備えてマリィが構えた。


「近づきすぎると、いきなり飛びついてくるからね。慎重に」

 僕はナズカに注意を促す。


「慣れてないんだから、あんまり脅さないでくれよ。……でも、これだけ厳重に守ってもらえたら、さすがに大丈夫だと思いたいね」

 ナズカの表情は真剣だが、わずかに余裕も感じられた。


 とろとろと動く青スライム。十分に近づいたところで、ナズカが一歩踏み込む。


 ――コツン。

 木とゼリーが触れ合う、拍子抜けするほど軽い音。と同時に――


 ピリッ。


 刹那、空気が刺すように震え、スライムの表面に細い稲妻が走った。青い塊はぶるりと震え、動きが露骨に鈍る。


 ――やはり、思った通りだ。


 ここまで分かれば十分。

 ナズカはすぐに後退し、僕とリリエットが前に出てスライムを瞬く間に仕留めた。


「なるほどな」

 リリエットが短くまとめるように言う。

「杖で直接叩いたとき、雷ダメージが発生する…そういう仕組みらしい」


「それって、魔法使いの武器としてどうなのよ……」

 マリィが肩をすくめた。


「杖だからね。てっきり、魔法に追加で雷ダメージが発生すると思ってたんだけど」

 僕も苦笑を浮かべる。期待していたのとは違う。目的に対して斜め方向の効果――正直そんな印象だった。


「ううん、これ……いい効果だと僕は思うよ」

 けれど――当のナズカは、杖を見つめながら小さく笑った。


「ど、どのへんが?」

 マリィが目を瞬かせる。


「接近した魔物を、少しでも怯ませられる」

 ナズカは杖を胸に抱え、落ち着いた声で続けた。


「それだけで、逃げる時間や体勢を立て直す時間を稼げるはずだ」


「前衛なら私たちがいるじゃない。ナズカの前に魔物を行かせたりしないわ」

 マリィが眉をひそめる。


「もちろん、頼りにしてるよ」

 ナズカは静かに首を振った。


「でもね、この杖があれば――いざという時、自分で時間を稼げる。君たちを頼りにはしているけど、頼りっぱなしなのは……いやなんだ」


 言葉は穏やかだったが、その芯は確かに強かった。

 胸の奥で、小さく息をのむ。


 ……ナズカが、急に大人びて見えた。


 《雷光の杖》は、期待していたものとは違う効果だった。


 けれど、覚悟を新たにしたナズカには――これ以上ないほど相応しい杖になったのだと思う。

【次回更新について】

本日(9/23)の更新は、体調不良のためお休みさせていただきます。

楽しみにしてくださっていた方には申し訳ありません。


次回の更新は 9/26(金) を予定しています。

よろしくお願いいたします。

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