5.
エピソードタイトルを数字に変更しました。
※2025.4.6 短かったので、すこし足しました。再投稿。
アルパスは緊張しながら、二人の会話を聞き逃さないようにした。楽園のような島などあるのだろうか?
「でもよ、船長が決めたことだから。もう決めちまったもんは動かせねぇ」
「あぁ」
楽園の島には、二人とも思うところがあるらしい。しかし、何かを企んで島に何かをすると言う。
店の主人が油断のならない目をしてアルパスを伺っている気配がしたが、すぐに興味を失ったようにカウンターに置いてある酒を飲んだ。
アルパスは寝たふりで窓の外を見つめた。窓の向こうは夜の底に海が広がっている。
戦なんて本当のことなんだろうか、不安が徐々に増す。
翌日、先を急ぐため早めに宿を出発した。海岸沿いにある安宿からは、漁港が近い。浜を通ると、漁師たちが大声で話しているのが聞こえてくる。
「瓶だろう? その話なら、昨日もした。お前もか?」
ベテランの漁師が、面倒そうに話を聞いている。若い漁師は興味を持ったように言い募った。
「地図が入ってる瓶らしいぞ」
地図と聞いて、漁師はがっかりしたようだった。最初はアルパスもそうだったのを思い出す。なんだ地図か……と。
「ひどいもんだ。すごい威圧的にさ。あいつら、俺たちを護るためにいるんじゃないのか?」
「あいつらって、俺たちの国の軍隊だろうが」
仕事の手を休めずに、若い者の手をゆだんなく見つめながら、ついつい口を挟んでしまっている。若い漁師はとにかく話したいらしく、気にせずに口を開いた。
「ものすごい勢いで探してるみたいだった。村によってはさ、やつらに破壊されたところもあるらしい。人が殺されてるみたいだ。同じ国のやつに何をするんだか」
シンサー国軍と聞いて、アルパスは心中蒼白になった。
戦が起こる……たくさんの船……まさか本当に戦なのか。だが、地図となんの関係があるのだろう。
役人風の男は言っていたではないか、隣国に持っていくと。国の不正が書かれていて、隣国なら助けてくれると。
その地図は自分が持っているし、すでにビンは捨てた。防水の鞄なので折って持ち歩いている。地図のほかに帳簿も入っていた。
きっと、山賊と思っていたあいつらは軍隊で、地図を探している。海に流れたと探しているなら、瓶を川に落としたと思っているに違いない。
川から海に出ていると考えているのだろう。海流によっては地図が陸に打ち上げられるとも考えられるから。
ゆっくりとアルパスは場を離れた。衝撃は徐々に身体をかけめぐっていく。
ない智慧をしぼって考えるが、なかなか案が浮かんでこない。しかも、なぜか海賊たちは戦の準備をしている。
地図の件と、大量の船に戦が繋がっているのは間違いないが、関係性は全く分からない。
なぜ役人風の男は、わざわざ急いでブッケル国に向かっていたのか。戦に役立てるためだとしたら、売国奴だ。
たかが地図のために罪もない人々を殺している軍隊もおかしい。
売国奴なのに、なぜ地図をアルパスに託したのか。あいつは無事なのだろうか。とにかく地図が元凶でシンサー国は揺れている。
思いついて持ち歩いている地図を見てみることにした。近くの木の根元に座り、二枚あり、それぞれを広げてみる。帳簿もあるが、そちらは置いておく。
「変だな、なんで違ってるんだろう?」
細かな字で地図に訂正が書き込まれている。じっくりと読んでいくと、真相が見えてきた。緻密な数値の改ざんと、各軍施設の人員の数に相違がある。
帳簿も見てみると、徴取した税の量が書かれており、それが分配されている先が書かれている。税は分配されるものだろうか?
いや、集められたら公共事業や、福祉、街の支援などに充てられる。もちろん、役人の給料にもなる。それが、なぜか人名宛に分配されている。
横流しか。まるで正規のルートでもあるかのように、富を搾取している。
アルパスのようにどこにも所属せず、大人でもなく、金も力もないただの山の案内人の言葉に、誰が耳を傾けるだろう。
正しい地図の作られた日付と時刻、新しい地図の作られた日付で容易に悪意に満ちた改ざんと、帳簿で悪事が暴露される。
「それであいつらは地図探しをしてるんだな」
つぶやくアルパスは、ぼうぜんと荷物をしまって歩き出した。あの安宿の亭主と男は、たまたま海賊だったから、戦の情報を知っていたにすぎない。
「そうか……」
役人風の男は、シンサー国の役人だったのだろう。だからこそ、内部の手を逃れて隣の国へと救援を求めに行ったわけだ。
理解したところで、なすべきことがはっきりしない。わかっていることは、このままでは国がさらに悪くなること。
アルパスの次の約束は、地元の村の知り合いからの依頼だ。もっとも、知り合い価格なので金は入らない。
依頼人で村の隣人であるノーマンは、父と同い年くらいの男だが、働き者でときどき野菜や練り粉を分けてくれる。その代わりアルパスは何かと言うと引っ張り出された。ノーマン家にはまだ幼い女の子しかいないのだ。
アルパスもこの気のいい親父が気に入っていた。ノーマンはアルパスのもっと土を改良して、珍しい果実などを栽培したり、もっとできのいい酒を造ってみたいという夢を決して笑ったりしないで聞いてくれる。
アルパスが港街パチワーに着いた翌々日、ノーマンがやってきた。落ち合う宿を決めていて、どちらかが先に着いていたら、待っている約束だった。
「ばぁさんが危篤らしい。すぐに行ってやらないと。すまんがよろしくな」
「間に合うといいけど」
隣のブッケル国へ行く海路の途中、シンサー国よりに小さな島がある。一応シンサー国の領土だ。みなシンサー国からの移住者だ。
そこがノーマンの故郷だ。病に倒れた祖母の見舞いに行くのに、同行を頼まれている。
船の日程と時間を確認すると、明日の出航となった。
宿屋に帰る道すがら、アルパスは困って話した。
「案内の仕事でさ、客に地図を持ってるやつがいたんだ。持ってたヤツは捕まったと思う。捕まる前に、渡されてブッケル国へ持っていってくれって、頼まれて」
「なんの地図だ?」
ノーマンはやさしく問うてきた。
「シンサー国の地図なんだけど」
「案内していた人に頼まれたんだな?」
「まぁ、そうなんだ」
思案気にしていたノーマンは、濃い茶色の髪を掻きながら口を開いた。
「ブッケル国はきれいで豊かな国さ、島に行ってからでも大丈夫か?」
ノーマンはもともと島育ちで海の男だった。ブッケル国に魚を売りに行くこともあった。
「うん」




