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第二首都には、小さな城があり、王の弟が領主として治めている。その城の中に、社の一角が存在し、第二首都は天帝の塔を篤く信仰している。
礼拝堂には、すでに先客がいた。
「これはこれは、ファロ様がいらっしゃるとは! ご無沙汰しております」
老爺と言っていいほどの年齢の社守は、ヘイワーズだ。ブルーグレーの瞳には、懐かしそうな光が宿っていた。
経典を学び、毎日コツコツと努力をした結果、神力まではいかなくとも、おそろしく勘のよくなる者がいる。人の念いを受け取り、察知する能力だ。
「来るのが分かったのですね。急な来訪で申し訳ありません。火急の知らせがありまして、はせ参じました。ヘイワーズ殿、お時間をいただいてもよろしいか」
「もちろんでございますとも。場を設けております、さ、こちらへ」
午後に差し掛かる明るい陽のさす廊下を行くと、居心地のよさそうな執務室に誘われた。
「さ、どうぞ。すまないがお茶を頼むよ」
控えていた見習いは、はいと返事をするときびきびと動きだした。
「いったいどうのような案件ですか?」
ファロは経緯を話した。改ざんされた兵士の名簿のなかに、第二首都の軍については書き込みがなかったのを覚えていた。
第二首都は険しい砂漠と山脈で閉ざされているが、川を渡ってぐるりと回り道をすると首都までたどり着く。賊もまだ、手が届いていないのだ。なので、先手を打ってファロは第二首都の軍隊を確認したかった。
「軍隊でございますか。領主様にうかがうのが一番かと思いますが」
「今までに賊の気配などは、感じたことはなかったか? おかしな要求を突き付けられたり」
「いえいえ、社は安泰、領主様も一日に一度は礼拝室に参拝される方です。利に敏い方ではありますが、まっとうな商人の意見が好きで、賄賂は殊の外嫌われる潔癖の方ですから」
「すごいですね、第二首都はとてもよい環境なのですね」
報告には聞いていたが、当事者から聞くと感慨深い。ヘイワーズは続けた。
「政治に携わる方が、まっすぐであると統治はすべからく上手くいき、人々は自由に発展を目指していきます。天の創造主がおっしゃっている通り、人々はみな自分の努力で、他の人々を幸せにし、感謝され、それがまた己の幸せになっていく……。第二首都は、領民みんなで、豊かさを目指しています。冬が厳しいですから、夏は活き活きしています」
初夏の光の中で、微笑みながら話す社守は、ふいに厳しい目をした。
「賊など、この第二首都には入れさせません。すぐに領主様に伝えて、軍部をすみずみまで調べ、街のなかも調べるように提言いたします」
「はい、よろしくお願いします。ここは任せました」
話しているうちに、陽が落ちてきた。
心強い味方がいることに、ファロは胸をなでおろした。
「ただ、一つ懸念しておりますのが、商業組合ですか」
「組合に問題でも?」
「前々からまっとうな商売をする者以外にも、闇商人がいるようで、ときどき悪さをしているようなのです」
「貴重な情報をありがとう。こちらの動きを察知されないように、商業組合には伝えないでください。城内と、各社で止めておいてください。できれば、商業組合の調査もお願いしたいです」
ヘイワーズは何度も頷いた。
「その通りですな。わかりました。では、私は領主様に今の話を伝えてきます。回答があるまで、どうかお休みください」
ファロは少しだけ休めるように、個室を依頼した。すぐに宿泊室の手配をしてくれたヘイワーズに礼を言うと、夕食までの短い時間を休憩に当てた。
部屋に入ってベッドを認識したのまでは覚えているが、次の瞬間には起きていた。ぱちりと目が開くと、見知らぬ天井があり、しばし考えてから飛び起きた。
「もう夕刻か?」




