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ファロも久しぶりのパイをナイフで切った。煮込んだ肉や豆、野菜も入っている。一つ食べたら満腹になる逸品だ。ファロはできる限り大きく口に入れ、飲み込むように食べた。
「エルンスト食後なんだけど」
飲み物をぐっと飲んで、嚥下すると、さっそく話を進めた。
「みんなに手紙を書いてもらうよ。各峠の宿屋に、シンサー国すべての社に手紙を送るから。第一陣の手紙だ。手配をして下さい。私は手紙の原文を書いてきます。執務室にみんなを入れて、総出で早急に書いたら最初の峠の宿屋に持って行くことになる」
「分かりました。午後は全員で取り掛かります」
「私の滞在時間は、本日夕方までだ。また、向こうで準備が整ったら戻ってくるので。エルンスト社守、どうかシンサー国をよろしくお願いいたします」
小麦色の肌に、柔和な黒い瞳を持つ茶髪の壮年は、まだ食事の途中だったが、フォークを置いて、胸に手を置いた。
「任せてください。早急に手紙を各社に届けるように手配します」
ファロはテーブルを立つと、急いで食堂を出ていった。重厚な石の建物である社は、しんと静まり返り、窓からはゆるく風が吹き込んできていた。小鳥のさえずりさえ聞こえてくる。決して、この平和を壊させはしない。
ファロは疲労の滲む目を一度ぎゅっと閉じると、また目を開けた。眠気も飛んで行って欲しいと願いながら。
ファロは執務室に入ると、さっそく手紙を書きはじめた。
必要なことは、事態の説明と、油断をしないようにすること、それと、次の指示が来るまでは普段通りに日常生活を行っていくこと。毎日の祈りの中に「争いが起こらず、平穏な毎日が送れるように」祈念する時間を設けること。
この知らせを、自分たちの地域にある有力者たちに拡散すること(軍部や傀儡政治家となっている可能性がある権力者を除く)。できれば、各村長や町長などにも知らせて欲しいと、依頼した内容となった。
「お待たせいたしました。みなが揃いました」
エルンストの執務室の隣に面した広い執務室に六人、エルンストの執務室に簡易の椅子を持ってきて、なんとか人数が座れるようになった。
「エルンスト、ではこの手紙を読み上げて、みなが書けるようにしてくれ。手配を頼んだ。私はシンサー国の第二首都エルロクエントに向かい、その後にブッケル国に行きます。最短で三日後には戻れるようにしますので、よろしくお願いします」
ファロは深くお辞儀をすると、エルンストの決意に満ちた頷きに心温まりながら執務室を出た。その足で礼拝堂に行くと、深い祈りを捧げた。
シンサー国第二首都エルロクエントは、山脈とフス川という大河で隔てられた地域にできた首都だ。首都と比べると人口こそ少ないが、商業に長けた人々が多く活発な街だ。
天帝の塔の社は二か所にあり、山脈側と、海岸側にある。どちらも第二首都まで一日ほどの距離だ。




