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体調不良でお休みしていました。すみません。
更新は再来週になるかもしれません。
道行く人たちは、涼しげな姿で歩いている。首都の東に位置する社だ。再度、社に入ると社守に挨拶をした。
「南の担当のファロだ。久しいな、エルンスト」
小麦色の肌に黒い瞳を持つ、茶髪の壮年が執務室の机からこちらにふりかえりながら、喜色を浮かべて歓迎してくれた。
「ファロ様! はやいお越しで、痛み入ります」
さっそく机から離れたエルンストは、とても恐縮している表情になった。目の下の隈がひどく、疲労も隠せていない。
「呼んでいたんですか?」
「はい。あ、えっ? 聞いていらっしゃらない?」
天帝の塔に寄ろうとした自分の勘は、ここからだったのだと知る。
「何事でしょうか」
エルンストは、シンサー国で二番目に大きな社の社守だ。徳があり、情に厚く、だが、貧困に同情する方に片寄るわけではなく、富裕層に片寄るわけでもない。社を運営する天帝の塔スタッフたちも、うまくまとめている。
社守の執務室にしつらえられた質素な応接ソファにうつり、二人とも座りながら話と続ける。
「実は、首都インテグレティから天帝の塔を無くす動きが出ているようなのです。私はシンサー国の王に面会を申し込みましたが、音沙汰もなく、いきなり兵が押しかけてきそうなのです。毎日、天を創造した主に祈り、悪を排除するよう祈念していますが」
賊は、寛大な天の主によって生かされていることにも気付かないまま、多くの人を闇に落とそうとしている。
「エルンスト、シンサー国は賊によって乗っ取られようとしているか、もしくは乗っ取られています」
「賊ですと?」
「私がここに来た理由を話します」
今までの出来事を詳細に伝えた。時間はかかるが、相手の理解度に頼るような伝え方は、後で取り違えなどがあるためできない。
「エルンスト様、ファロ様、食事の準備ができました」
ファロは軽快に手を上げた。
「ありがとう、すぐに向かうよ」
エルンストは押し黙ったまま、それでも頷いて了解を伝えていた。頷いた後に、ゆっくりと真剣な眼差しで口を開く。
「今までどおり街の人たちを社に迎え、祈り会や学習会を開催いたします」
「そうして下さい。まだ気付かないと思わせましょう」
「はい。このような事態は、天の創造主は望まないでしょう。なんとしても阻止しなければ」
うん、とファロは深く頷いた。
「食事にしよう、エルンスト」
食堂に向かいながら、ファロはシンサー国について考えた。
シンサー国は起伏に富んだ地形をしており、街と町、村と村で隔たりがあるところもある。険しい山脈や、砂漠地帯もある。そこで、道案内の宿が存在している。各地にちらばっている道案内の宿「峠の宿」は、同時に手紙の配達も請け負っている。
情報を伝達するなら、一番早い方法だ。
食堂は三〇名ほどが入る大広間となっており、細長いテーブルに椅子がしつらえてある。すでに社守助手や、補佐、見習いがテーブルに着いていた。十名ほどだろうか。
「では、いただきましょう。日々の糧を天の創造主に感謝を」
エルンストが、短く祈ると食事が開始された。
手元の木のトレイには、シンサー国では一般的だがお客が来るとよく作られる具沢山のパイと、マッシュポテトがあり、野菜のスープが付いている。みんなの表情も明るく、うれしそうに食べている。




