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どこか弾んだ声で青年は言った。疲れた雰囲気もなくなり、目が入口へと向いている。
「上官が来るのに、うれしいんですか?」
口角が上がり、にっこりと笑顔を返された。よほどうれしいらしい。
「大将が来るのは大歓迎ですよ! アスター大将は、俺らのことを家族と思ってくれてる」
噂をすれば、入口のドアが開いて見事な金髪と青い目のはっと目を見張るような整った容姿をした偉丈夫が入ってきた。ぐるりと見まわして、部下を見つけると、朗らかに手をあげて挨拶をした。
「夜までお疲れさん。明日もがんばってくれよ」
「大将、お疲れ様ですっ」
あっという間に人が群がり、我先にと挨拶をしている。隣に腰かけていた青年もいつの間にかいなくなっていた。
「すごい人気ですね」
「人柄なんだろうな、上官っていうより、兄貴って感じだと前に誰かが言ってたんだ」
食べ終わったのか果実水を飲みながらリュカが教えてくれた。
「そうなんだ、じゃあ、あそこで一人で飲んでる参謀長は?」
「ミハイル参謀長は、一人でいることが多いらしい。彼が近くに来ても、みんな触らぬ神に祟りなしって感じで、近寄らないよ」
「へぇ」
幼馴染が店に入ってきたのは見ていたが、その後はまた一人でゆっくりと飲んでいる。
「ちょっと行ってきます」
「え?」
ファロは急いでテーブルを離れると、カウンター席にいる紅茶色の髪の青年の隣に座った。グラスを片手にゆっくりと酒を楽しんでいる風情だが、中身はライム水のようだ。
「天帝の塔のファロと申します。ミハイル参謀長」
琥珀色の瞳がファロを写した。
「どうも……」
知り合いにでも会ったように、グラスをかかげた。ごく自然な対応に、ファロはふと猫を思い出した。警戒はしていないが、油断もしていない。
そして、周囲に不審感も与えていない。だが、ごく少数の陸軍の男たちは、ファロをちらちらと眺めていた。ミハイル参謀長に話かけるなんて、勇気があるな、か、むしろ変なヤツだなと思われたのか。両方か。
「いまさっき、ラティアから着いたんです。筆頭文官のヨアンをご存じですか?」
ミハイルはラティアという言葉に、関心を示してくれた。ゆっくりと独り飲みから姿勢を変え、ファロの話を聞く体制になった。
「知ってる」
何のてらいもなく気楽な姿勢だ。
「ヨアンはブッケル国の機密事項を、俺に伝えざるを得なかったのです」
すばやく荷袋から地図を出して、ちいさく広げてみせた。地図を見た瞬間に、ミハイルの目が開いた。
「シンサー国のか?」
「はい。帳簿もあります、ぜひ見ていただきたき、意見を聞きたいのです。本日は遅いですが、この後は大丈夫ですか?」
もう一度、店の入り口を見てから、ミハイルは軽く頷いた。
「大丈夫だ。だが申し訳ないが、庁舎はすべて閉門したんだ。俺かアスターの家になる。いや、アスターの家にしよう」
本人不在で決まったようだ。決まった瞬間に、ミハイルは上着に手を通していた。すでに支払いの金額までカウンター席に置いてある。
「移動するぞ。ファロ、だったか?」
「はい。ご協力ありがとうございます」
「天帝の塔か。なるほど」
ミハイルはすぐに席を後にすると、入り口に移動した。慌ててファロも荷物を整えて、リュカに目配せをすると付いていく。
「アスター、お前のうちに行くぞ。何か食い物はあるか?」
酒を持たされ、兵士たちの相手をしていたアスターは、グラスを部下に渡した。
「いい酒だった、また来るよ」




