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「よっぽどのことさ。ブッケル国に着いてから、まっさきにここに来るくらいに」
徐々に見開かれていく目に、ファロはとうとう深刻な表情となり、目線を下げた。ゆっくりと伏せていた目を、ヨアンを見るように開けていく。
一変した気配に、ヨアンは不安な目を向けた。
「いったい、何があるって言うんだ」
じっと動かなくなったファロは、ヨアンを見ているが、何か考え込んでいるようにも見えた。
軽いノックの音が響いた。
部屋の空気が一気に軽くなる。戸を開いて入ってきたクリスティンは、朗らかに告げた。
「お茶が入りましたよ、どうぞ」
お盆からテーブルにお茶を置いていくクリスティンは、さきほどの和やかな夕食の雰囲気のままだ。ファロは垂れた目を糸のように細めて笑顔になっている。
「ありがとうございます。ほっとします」
「いいえ、こんなに楽しい晩は久しぶりですもの。ね、あなた」
「そうだな、片づけは終わったか? ゆっくりしていなさい」
クリスティンは、ヨアンの頬にそっとキスをすると部屋から出ていった。ふんわりとお茶のよい香りが漂う。
ファロはさっそくお茶に手を伸ばすと、カップを口に運んだ。
「非常事態になってるはずだ。違うかな」
ぐっと分かりやすくヨアンが詰まる。
「何があるかは、今は言えない」
本来ならすべてを話してから、城内の情報を得るべきだが、仮にヨアンに何かあったときに、こちらの情報を知っていることが良くない事態を招くかもしれない。
「分かったよ。天を創造した主に仕えている天帝の塔の、果敢なファロになら、何でも言うさ」
がんじがらめだったヨアンの思考に、折り合いがついたようだ。
「王女がいないんだ。十二歳だ、ひとりで行動するにも、範囲はあるだろう。だが、ここ二週間ほど見ない。だが、王も王妃も、長男である王子も、黙っている」
「確信はあるのか?」
ヨアンは思い出すような顔をしながら、口を開いた。
「うちの執務室は、各部署ごとに区切られているんだが、窓がある壁で区切られていて、開いてたりすると会話まで聞こえるんだ」
ファロは黙って聞いている。
「王女が惚れた文官がいて、隣の部署にいる若い奴なんだが、十二歳の少女に惚れられていて邪険にもできんし、妹みたいにかわいがってたんだ。毎日、かならず王女は休憩時間にやってきては、挨拶したり、差し入れを持ってきたりしてたんだ。だが、数日姿が見えなくて、奴も心配になったみたいでな。俺んとこに、どうしているか様子を確認して欲しいって言ってきたんだ。病気だったりしたら、見舞いでも差し入れるからって」
「優しいんだな、その人」