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3-1

 ダローウィンは州候の言葉を聞かずとも心情は手に取るように分かった。州候はこの州を、人々を、すべてを心から愛しているのだ。


 戦争で無残に切り刻まれることなど、思いもよらない。他国だって同じだ。

「わたくしも、同じおもいであります」

 州候はうなずいて召集を命じた。


 士官たちも平穏の中で、毎日の対海賊山賊用、魔物撃退訓練をしつつ、職務として勤勉に過ごしていた。

 召集がかけられたのは翌日の早朝だった。


 急な召集にいつもならば意見などを交わす彼らも、静まり返っている。

 この召集は厳しい軍律に依り、元帥の言葉が絶対となる。大将、参謀長のみが整列した広間へ、ダローウィンが元帥の印である黒紫色のマントをひるがえして現れた。


 ダローウィンの雰囲気に場の空気が凍る。黒褐色の髪にアイスブルーの瞳を持つダローウィンは、厳しい顔を向けた。


「国王からの指令を伝える」

 厳かに声がとどろく。


 ダローウィン最大の特徴だ。指揮官の士気を鼓舞するにおいて、他の人間には不可能な領域にまで達している。

「シンサー国への侵攻実行とあいなった! 行動開始までに、侵攻作戦を練るように。以上」

 さすがにざわりと室内の空気が揺れる。声なき動揺に士官達の驚愕が並みのものではないと知る。予想はしていたことだ。何よりも自分自身が納得などできていない。


「以上、通達されたし。解散!」

 ダローウィンは質問をもうけなかった。いつもならば必ず言う「事前準備のこと」などもすべて省略した。


 解散の命を受け、士官たちは慌てて自分たちの組織に戻っていく。戻る道すがら、ついつい同僚と顔を合わせてしまう。


「州軍に、国王からだと?」

 誉れ高き海軍上級大将ジェラルド・スタークは、混乱する心中を整理するように周囲を見渡した。


「元帥閣下のご判断なんだ。間違ってはいないだろう」

「シンサー国が侵略してくるってのか?」


 他の士官たちが不安そうにささやき交わすのを、聞くでもなく聞いてしまう。

 ジェラルドは灰色の眉をひそめた。上官であり、ブッケル国エルウィンド州軍元帥ダローウィンの顔には、何か底知れない暗さがあった。


 明るい灰褐色の髪と、緑の目を持つジェラルドは、海軍参謀長の実直な若い神経質そうな男に声をかけた。


「貴官の意見はどうなんだ?」

 俯いていた黒髪の頭が上がり、ゆっくりと振り向いた。ガードルード・シアーズの黒目は、自分より混乱していた。


 振り向いたまま、しばらく黙っていた最近海軍参謀長に昇進になったばかりのガードルード・シアーズは、言いにくそうに口を開いた。どうやらガートルートの方が今回の召集でダメージを受けているようだ。


「意見も何も、事前準備すら言われなかった。正直、見当がつかないです」

 ダローウィン元帥は、うるさいくらいに事前準備を指示するのだ。それで、何人もの部下の命が助かっている。


 戦は過酷だ。そのことをよく知っている部下たちは、事前準備について示唆すらしない元帥に不審を持たざるを得ない。しかも他国を攻めるなど聞いたことがない。

 

 ガートルードは前を見据えて、悲壮な表情を押し隠していた。

 灰褐色の前髪を無意識に後手で押さえたままジェラルドも、それ以降口を開かなかった。

 何かお考えがあるはずだ、と心中で思う。


 部下にはなんと伝えればいいのだろう。シンサー国を侵略することになったので、準備をするように、だろうか。


 この際、大義名分でもいい。戦に名目が与えられないだろうか。これまで、関わりがなかったとしても友好的に接してきた隣国の精鋭たちと、一戦交えることになるとは。


 陸軍は、今回の戦では要になってくるだろう。ジェラルドは思わず金髪の偉丈夫である陸軍大将を見やった。


 陸軍上級大将のアスター・クリフォードはしばらく逡巡していたが、ダローウィン元帥の後を追おうとして肩を揺らせた。


「アスター」

 陸軍参謀長である濃い紅茶色の髪のミハイル・ハエックに声をかけられて思いとどまっていた。

「ああ」


 戦闘についてならば、なんにせよエキスパートの用兵家であるミハイルは、陸軍大将のアスターとは同じ街で生まれ育った幼馴染だ。アスターが剛とすれば、ミハイルは柔だろうか。


 両者が存在してはじめて陸軍は円滑、かつ機能的に動くことができる。

 ミハイルの声に、この召集に対しての疑問がゆれていた。友人と言葉を交わすと、アスターの感情のゆれが多少は収まった。


 声をかけてきたミハイルは、唐突に聞いてきた。

「この戦、勝ち目はないな?」


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