プロローグ
1週間に一度の更新になると思います。
今回はプロローグのみです
雲ひとつない青空の下、透き通ったエメラルドグリーンの海が広がる。波は高め。この季節にしてはめずらしい。
ジェラルド海軍大将は、明るい灰褐色の長髪を強い風になびかせて、風に負けない大声を出した。
「被害があったのは、この海域だったなっ?」
声を掛けられた海兵は、足を踏ん張りながら答えた。
「はいっ、二日ほど前です」
応えも風に負けない大声だ。耳元に吹きすさぶ風の音がすさまじい。
ガレオン船上は、白と青を基調とした制服の海兵たちが忙しく動いている。
ジェラルドは水平線を一瞥した。緑の目を鋭く海上、二十四時方向を見渡す。
空は透き通るように青く、雲ひとつない。絶好の海賊狩りの日だ。
「大将! 南東に船影発見。二隻います!」
ジェラルド大将は望遠鏡を手にして南東へと構えた。船影が二つある。
「先を越されたか……」
隣国シンサー国海軍の船と、海賊船とが戦っている。
「威嚇音用意、追跡開始! 砲弾用意っ」
耳慣れたジェラルド大将の怒号に、船員たち海兵は無駄な動きを排除した行動で、船を回転させた。
号令を聞くと、先端に金属の輪がついている警邏棒を、腰から外して垂直に船板へ振り下ろした。床を叩く地響きのような音と、棒の先端につけられた金属の輪が踊る。繊細だが空気を切り裂くような大きな音を出す。
音は徐々に大きくなっていく。
音が鳴り止まないうちに、砲撃が開始された。船に穴を開けられた海賊どもは状況不利を悟ったか、後退をはじめている。
「逃がすな」
追撃を開始したが振り切られた。発見がもう少し早ければと、悔やまれる。
シンサー海軍も相当な善戦をしたようだ。
すれ違うように船が並ぶと、真紅の布が目に鮮やかな軍服を纏うシンサー国の海兵たちが、笑顔で手を振ってきた。シンサー国人は黒髪、黒目が多いが一律ではなく金髪や青い瞳も珍しくはない。
自分たちの国よりも多様な人種が集まっている国なのだ。
船が交差していく間、双方とも健闘を讃えあう。今回は海賊に逃げられたが、紅の軍服を見たら海賊たちは一目散に逃げていくと言われているほど、シンサー海軍の力はすさまじい。
「海賊には逃げられちまったが、今度は逃がさんさ」
大声でシンサー海兵が呼びかけてくる。
「頼もしいね! だが、今度は我がブッケル国海軍が、海賊共を蹴散らすさ。次は我らがしとめよう」
船が別れると、ブッケル国海軍大将ジェラルドは苦笑を浮かべた。
「最近、ほとんどの海賊はシンサーに追いやられているが……」
シンサー国の海軍が優秀なのだろうと考える。しかし、ブッケル国エルウィンド州きっての精鋭を集めたこの艦隊は、まだ一度も敵に背後を見せたことがない。
「帰港するぞ」
近くの部下に伝えると、部下が大声で船の舵を指示する。
陽気な歓声と共に彼らは自分たちの国であるブッケル国へとむかった。