先輩に振られる話
ここ数年、秋が始まるこの季節になると先輩に告白した時のことを思い出す。
おれには好きな人がいた。
相手は部活の先輩だ。
叶わぬ恋だと理解しているから告白せず片想いのままでいた。
でももう少しで先輩は引退する。
このまま何も起きずに関わることがなくなってしまうのは嫌だから告白することにした。
ある部活の日のことだった。
「今日部活終わったら駅までの途中にある公園に来てください」
部活が始まる前に思い切って声をかけた。
「…わかった。着替えたらすぐ行く」
少し困ったような表情をしていたが申し出を受け入れてくれた。
部活を終えさっさと着替えて先に公園で先輩を待つ。
一人で考え事をしていると昔からの悪い癖がでてしまう。
案の定、身の回りの出来事を冷めた目で見ているもう一人の自分との自問自答が始まった。
[お前には人を好きになる資格はない]
わかっている。
[好きでもない人からの一方的な好意は恐怖でしかないぞ]
告白することで先輩を傷つけてしまう可能性がある事くらいわかっている。
[先輩にはお前なんかよりもっとしっかりした良い人がお似合いだ。欲張るな]
先輩はおれなんかには勿体ない存在だ。
それでもこの想いは伝えたい。
伝えずに後悔するより伝えて後悔したい。
「ごめん、遅くなっちゃった」
夕陽を背に先輩がやってきた。
「わざわざ時間をとってくれてありがとうございます。先輩に伝えたいことがあって…」
「うん。どうしたの?」
「先輩のことが好きです。付き合ってください!」
突然こんなことを言われて困惑しただろうか。
長い沈黙の時間が過ぎていく。
虫の音がうるさい。
「……とりあえず、顔を上げて?」
時間が止まってしまったのではないかと感じるほど長い沈黙の末、顔を上げて先輩の方を見ると様々な感情が入り乱れた複雑な表情をしていた。
更に少しの沈黙の後、先輩の口から紡がれた言葉に残酷な現実を突きつけられた。
「気持ちはめっちゃ嬉しいよ。でも、〇〇とは付き合えない。私は〇〇のこと好きじゃないから」
「そう、ですか…」
「ごめん、〇〇のことは後輩としか見れないの。ほんとごめん」
というと駅に向かって駆けて行った。
どんどん離れていく背中を見つめるしかできない自分が見苦しい。
「後輩としか見れない、かぁ…」
不意に口からこぼれ落ちた。
部活でした関わることがなかったから当然と言えば当然か。
「〇〇のこと好きじゃないから、かぁ…」
曖昧に濁されるよりマシだったと考えるべきだろうか。
気持ちの落ち込みと比例するように辺りは暗くなっていく。