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 秋の間、舞愛と海斗はそれぞれに、空中競技選手を目指す日々を過ごした。

 あの夏、海斗が空中競技選手を目指すと言った時から、二人は学校で顔を合わせて話をする事はあったものの、以前のように二人で出掛けたりするような事も、なくなっていた。

 海斗は留衣達の練習を見学に行った際に散々アピールをした結果、公式な特待生ではないが彼女達の練習に、無償で参加させて貰えるようになったという。『良かったじゃん』と海斗には伝え、自分もなんとか練習できる場所を見つけたから、試験のその日が来るまではお互いの実力は見せないようにしようと約束しあった。

 舞愛にしてみれば、海斗が練習の日々を通じて留衣とどれくらい親密になっているかは気がかりだったし、同じ時間を過ごす事がなくなった事で、自分の知らない所で彼が変わってしまうのではないかという不安はあったが、それを打ち消そうとするかのように舞愛は走り、飛び、そしてよく食べよく眠った。

 年末にも海斗からの連絡はなかったが、不意に正月の朝、近所の神社へ一緒に初詣に行かないかと呼び出された。

「二人で会うのは、いつ以来だろう」

「そうだね」

 突然の誘いに身構えていなかった舞愛は他所行きの服を用意できず、適当に見繕った私服姿。誘った海斗も特に普段と変わった様子もなく、二人がジェットバックをやり始める以前と変わらない『一緒におでかけ』のように見えた。

「二月のプロテスト、絶対に合格できますように」

 二人は同じ願いを込め、神様の前に祈りを捧げた。

「ねぇ、少し話していかない?」

 そう切り出したのは舞愛だった。

「……そうだな」

 海斗もそのつもりでいたようで、それならと露店へと小走りに駆けていき、これでも食べながら話そうかとたこ焼きをひと舟、手にして舞愛の元に戻ってきた。

「ありがとう」

 腰掛ける場所を見つけ、二人してたこ焼きをほおばり始める。

「なんか以前にも、こんな事あったよね」

「ありすぎておぼえてないや」

 海斗はそう言うと、再度食べる方に夢中になる。

 舞愛は食べる手を止め、海斗を見つめ悲しい表情を浮かべる。

「アタシが思っている事、全部海斗に伝わればいいのに」

「どういう事だよ」

「海斗がアタシの知らない所で、どんどん変わっていってるんじゃないかって」

「それを言ったら、お前もだろ。てっきり空中競技の事は諦めたのかと思ってたら、練習場所もチームも自分で見つけてきて」

「実は引くに引けない理由が出来ちゃって……今度のテストに合格できなかったら、今いるチームにかかったお金全額、働いて返さなきゃなんないの」

「お前、そんな大事な事、もっと早く言えよ。相談してくれたって、よかったじゃないか」

「そんな事できる訳ないでしょ! あの女がアタシの事気に入らない態度だったのは、海斗だってわかってるでしょ」

「あの女って……留衣さんはそんなに悪い人じゃない。舞愛の事だって、お前があの人に突っ掛かるから、ああいう態度を取っただけで」

「何さ海斗、あの女にすっかり言いくるめられてんじゃないの?」

「そういう事じゃないだろ」

「そういう事だと思うけど」

 舞愛はプリプリしながら、海斗の手元のたこ焼きをつまみ始める。

「なぁ、俺が何で今日舞愛を誘ったのか、お前はどう思ってるんだよ」

「知らないわよ」

「俺が選手目指すって言ったあの日から、俺達は今まで通りじゃいられなくなった」

「……そうかもね」

「あの時は事故で話が途中で終わったけど、俺は本当にお前といつか、一緒にいられるようになったらって思ってるんだ」

 思いがけず遠回しに告白をされたと勘付き、顔を真っ赤に染める舞愛。

「……」

 返事が思いつかず、とっさに海斗の手元のたこ焼きを楊枝で突き、海斗の口元に運ぶ舞愛。

「んっ?」

 その行動に、思わずきょとんとする海斗。

「あ〜ん」

 舞愛、自分の口を開け、海斗に真似するよう促す態度をとる。

 海斗が口を開けると、間髪入れずに舞愛がたこ焼きを口に運ぶ。

「あんっ」

「アタシにも、ほら」

 促され、今度は海斗が舞愛の口にたこ焼きを運ぶ。

「んっ……」

 食べ終えるまでの一部始終を見守る海斗。

「……こんなトコじっと見ないでよ、バカ」

 舞愛のこういうウブな所が好きなんだろうなと、海斗は改めて思うのだった。

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