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 ロッカールームに移動してきた舞愛。冬用に衣装が異なった留衣とは異なり、夏用の水着衣装はそのままで、防寒用の手足パーツを組み合わせた、変則的なコスチューム姿に着替える。裕子に『早乙女の孫娘はきっとブルジョワぶりを発揮してくるだろうから、あなたは貧乏なりのおしゃれさんを目指しなさい』などと言われて、用意したものだった。

 鏡台の前に座り、トレードマークのポニーテールを結びなおしながら、自身に向けてきっとした表情を見せる舞愛。

「……よしっ!」

 立ち上がり、戦いの舞台へと向かっていく。

 競技場のスタート地点では、先に海斗が待ち構えていた。他の特待生達と同様に、フィギュアスケート風の冬用衣装姿だが、先程の留衣と大間の時と異なり、見た目の二人のチグハグさが際立つ。

 大型モニタの表示は、スタートを待つ二人の表情を捉えている。

 5、4、3、2、1、赤信号のマークが消え、スタートの合図!

 海斗は各チェックポイントでの急速ターン狙いで、一直線に上昇していった。舞愛はそれを横目に、第二ポイントも視野に入れた蛇行ルートを、全速力で進んでいく。舞愛としては使い慣れないジェットの性能と相性が読めない以上、加速減速の多くなるターンよりも、大回りで全速力で飛ぶ安全策を、ひとまず選ぶしかなかった。

 海斗が最初のポイントを、ターンで先に危なげなく通過していく。

 その直後、ほぼ同じ場所をありったけの加速で猛スピードで駆け抜けていく舞愛。

「まだまだっ!」

 ジェットを操作するグローブをはめた左手をぎゅっと握り、全速で飛ばし続ける舞愛。

 第二ポイントに向かう海斗は、再び無駄のない減速で枠にスッと入ってターンを綺麗に決め、危なげない試合展開を続ける。舞愛が続いて、再び高速でポイントを通り抜ける。

 リードを保っているものの、このままでは引き離すのも難しい。そう思った海斗は舞愛に揺さぶりをかけるべく、第三ポイントへは直進せずに、舞愛の蛇行ルートを前で塞ぐ位置取りに切り替える。

「!」

 舞愛が海斗の揺さぶりに怯み、握っている左手を緩めて減速するか、海斗の更に外側を飛ぶかを判断せざるを得ない状況に追いやられる。

 その駆け引きを、地上で見ているギャラリー達も息を呑んで見守っている。

 私服に着替えて戻ってきていた留衣が、海斗の動きに感心する。

「相手が誰でも勝つ為にベストを尽くす。あの子ちゃんとわかってるじゃない。さぁ、あなたはどうするのかしら、舞愛さん?」

「くっ! まだまだっ!」

 減速はせずに海斗の外側へ回った舞愛は、その先にある第三ポイントの範囲を見据えた後、目を閉じて体を捻り、向きを変え続ける動きに身を委ねた。

「?」

 まるで海斗にエスコートされて舞愛がその周りをグルグルと踊っているかのような、きりもみ飛行にも似たアクロバットな動きをする舞愛に、海斗が動揺する。

 頃合いを見計らって舞愛が目を見開いて姿勢をなおすと、第三ポイントの範囲が眼前に飛び込んでくる。

 海斗の軌道の内側に移った上で、ポイントの枠内ギリギリを通過していく舞愛。

 地上の大型モニタには、チェックポイントをドローンが捉えている映像が映し出されていて、舞愛が見せたアクロバット飛行に、ギャラリー一同が感嘆の声を上げている。

 競技場外から様子を見ていた裕子と圭介も、舞愛のとっさの動きに感心する。

「あの子、自分の失敗を完全に得意技にしてる」

「本番であんな動きができるとはな……」

 舞愛の軌道の外側になり、追いかける形になった海斗。

「舞愛っ!」

 海斗はそのまま蛇行ルートをとり、全速力で第四ポイントに向かっていく。

「ラスト、ターンっ!」

 海斗の行動を見越して、一直線に第四ポイントへ向かう舞愛。

「負けるかーっ!」

「!」

 握っていた左手をパッと開いて急減速し、水泳のクイックターンのように、まるで空中に壁があるかのような動きで第四ポイントを折り返す舞愛。

 タッチの差で、ほぼ同じ場所を横から通り過ぎる海斗。

「まだまだーっ!」

 第四ポイントからゴールに向かう途中、二人とも同じタイミングで体をくるっと丸めて回転する。

 続けてスッと足を伸ばして『スーパーイナズマキック』のような構えで、二人して着地体制を取り始める。

「いっけーっ!」

 水上に設けられた浮き島のゴール地点に、まず舞愛の片足が勢いよく突っ込んできて、大きく傾く。

「ととっ!」

 二歩目でバランスを取って着地しようとした瞬間、勢いよく海斗が突っ込んでくる。

「ちょっ! 舞愛!」

 舞愛が振り向くと、海斗が既に目の前に飛び込んできていた。

「えーっ! あうっ!」

 海斗が舞愛にダイブする形になり、舞愛が抱えようとするが、海斗の落ちてくる勢いの方が激しく、二人して浮島から転げ落ちる。

 バッシャ〜ン!と、大きな水柱が上がる。

 少し離れた駐車場にいた裕子と圭介にも、その激しい音は届いてきた。

「ホントあの子、落ちてばっかりね」

「全くだ」

 その様子を見ていたギャラリー一同が、笑いに包まれる。

「こういう場合の勝敗って、どうなるんですか?」

 半笑いのまま、丈一郎に尋ねる美深。

「純粋なレースとしての勝敗なら、彼女の勝ちって事にはなるんだが……それにしてもアイツら、後先考えない、ただのバカだな。ジェットバカ」


 海上にジェット装備のまま浮かんでいる舞愛と海斗。

「ねぇ、これってアタシが悪いの?」

「当たり前だろ、あんな勢いでゴールしてんだから」

「アタシちゃんとゴールで止まったでしょうが! そこに海斗が飛び込んできたから!」

「ゴールで避けなかった、お前が悪い」

「待って海斗。これ、アタシが勝った事にはなんないの?」

「ゴールから落ちたんだから、そうじゃないのか」

「でも海斗も落ちたよね。これ、どうなんの〜っ!」

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