何故そんなに見る?
「楽しんで頂けてますでしょうか?」
とうとう王妃様とルーク殿下がわたし達親子のテーブルへとやって来た。立ち上がろうとしたわたし達を制止し「気遣いなく」と座らせた。王妃様と殿下も空いている椅子へと腰を掛ける。
「はい、王妃様。それからお誕生日おめでとう御座います、ルーク殿下」
「「おめでとう御座います、殿下」」
お母様に続いてわたしとモニラも殿下へ祝辞を述べる。
「ああ、ありがとう」
殿下は王子スマイルでそれを受け、チラッとモニラの方へ目をやった後何故かじいっ……とわたしの方を見つめて来る。思いっきり視線を受けてしまい、またしても心臓がドキドキと早くなる。髪とお揃いの黄金色の瞳は真っ直ぐわたしを直視してくる。耐えきれなくなって視線を落としたが、彼は変わらずわたしの方を見ているであろう気配を感じる。
ううっ……本当に何なのこれ。モニラじゃなかった、やっぱりわたしを見てるんだわ。
「あらまぁ、この子ったら余程そちらのご令嬢が気になるみたいね」
王妃様の言葉にお母様も「まぁ、まぁっ! おほほほ」と嬉しそうに返す。自分の娘が王太子から気に入られてご機嫌の様子だ。
「母上、後でこちらのご令嬢と少しお話したいのですが宜しいですか?」
――なん、ですと!?
予想外の展開に思わず顔を上げると穏やかに微笑むルーク殿下の姿が目に入って来た。こんな風に穏やかにわたしの事を見てくれる殿下の姿なんて久々に見た気がする。だが、今はそれどころじゃない。いきなり殿下と二人きりで話すだなんて心の準備が出来ていない。
「如何ですか、ラントス公爵夫人?」
「勿論大丈夫ですわ、どうぞ遠慮なくお連れ下さい」
お、お母様ぁあああああ……。簡単に殿下へ貢がれてしまって落ち込むわたし。そりゃ、殿下や王妃様からの頼みを断れる筈もないんだけど。それに今日はその為のお茶会だってのは知ってはいるけど。
「では、モデリーン嬢。後で迎えに来ます」
にこやかに笑みを湛えながら殿下は王妃様と次のテーブルへと移動して行った。これは一体どうした事なのか。こんな展開わたしは知らない。ゲーム開始前の出来事でもあるから、何が正解なのかも分からない。
「ふふっ、良かったわねモデリーン。殿下とお話が出来るわよ」
「そうですね……」
ご機嫌のお母様と半分無表情なわたし。そしてその横ではモニラがケーキを頬張りながら「殿下って凄くお優しいのね~」とか「物語に出て来る王子様そっくり!」とか呑気に話し掛けて来る。
テーブルに居たたった数分程の出来事で既にグッタリ気味なわたしは、近くに居たメイドに紅茶のお代わりを頼み自分の皿に載ったクッキーを一つつまんで口へ放り込んだ。
エネルギー補給でもしなきゃやってられないわ。ここで殿下に気に入られる訳にはいかないのだ。婚約者になってしまったら悪夢の様な未来が待っている。どうにか嫌われる様にして、婚約者候補からは外して貰わなければ……。