ルーファスと共に歩く未来
さあ、いよいよ最終回となります。
次回作は10月1日より連載スタートです。
お楽しみに☆
◾️いつも誤字脱字報告ありがとう御座います。
自分で気付けなかった箇所なので大変助かっております。
読み返しているのになかなか難しいですね〜。
「もう、本当に良かったわー!」
ルーファスの記憶が戻った事をデート帰りのルーシーに知らせに行くと、安堵したルーシーはルーファスを優しく抱きしめて喜んでくれた。
「まぁ、記憶戻らなくても何だかんだでモデリーンの事は惚れ直してたみたいだし? 結局この子はどう転んでもモデリーンの虜って感じだから、そこは安心してたけどね」
そう言いながらルーファスの頭をナデナデしてみせる。
「ちょっと姉上、そうやって子供扱いするのやめて下さい」
わたしの前でされたのが恥ずかしいのかルーファスが抗議の声を上げるが、ルーシーの方は全く気にもしていない様子だ。そんな二人のやり取りをわたしは微笑ましく見守る。
(大型犬が手懐けられてるみたいな感じよね~ふふっ)
「マーガレットの側室話もなくなったし、これで後は二人の結婚式を待つばかりね」
「まだルーファスが卒業するまで一年近くあるけどね」
実際は卒業してから更にそこから約一年かけて結婚式の準備に入るのが王族の結婚だ。だから結婚式は今から二年後だったりする。
待ちきれないルーファスは学園生活と並行しながら結婚式の準備をさせて貰う様、わたしとの婚約決定と併せて陛下からの許可を得ていたらしい。
なのでルーファスが卒業してすぐに結婚式が執り行われる事は既に貴族たちに通達済みだ。
「僕は別に学生結婚でも構わないんだけどね〜モデリーンは卒業している訳だし」
「コラコラ、さすがにそれはお父様も許さないでしょ」
「うん、ダメだった。思い切り顔が引きつってたよ」
(ルーファスからの愛が重過ぎるのは気のせいかしら)
話を聞いていたわたしまで思わず顔を引きつらせた。婚約する相手が違うだけで、こんなにも待遇や状況が違うものなのか。
「ほーら、モデリーンが引いてるじゃない」
「ええっ何で!?」
「あ、いや、大丈夫大丈夫。段々慣れてきたから……」
「慣れ? えっ、慣れてって何?」
ワタワタとわたしの顔を覗き込んでくるルーファスがおかしくて、そして愛おしくて。ついつい顔がニヤけてしまって、フニャリとした笑みを抑えきれずに見つめ返す事になってしまった。貴族令嬢としてはある意味失態だ。気心の知れるこの二人と居る時間はつい油断してしまう。
そんなわたしを見た途端にいつもは飄々としてるルーファスの顔が、一気に茹でダコの様に真っ赤に染まった。
「姉上〜! モデリーンが可愛すぎます! このまま襲って良いですかっ!?」
「良い訳ないでしょ!」「ダメですっ」
わたしとルーシーの声が同時に重なる。
「それかやっぱり、今すぐ結婚出来ないか陛下に聞いて来ようかな」
「何言ってるの、どっちもダメよ!」
「落ち着いて、ルーファス!」
「あああああ、僕の婚約者が可愛すぎるって世界中に叫んで伝えたい!」
赤い顔のままわたしを抱き上げて、ダンスのステップさながらその場でクルクルと回転してみせる。そしてそのままわたしを軽々と担ぎ上げ、ルーシーに向き直ると
「愛でてきます」
と宣言して、さっき出てきたばかりのルーファスの私室へと逆戻りし始めた。わたしはルーファスの肩に担ぎ上げられたまま救いを求めてルーシーに手を伸ばしたけど、ルーシーは「ごゆっくり♡」とヒラヒラと手を振ってくれるだけだった。
宣言通りルーファスにたっぷりと愛を囁かれ、あちこちに口付けされ、ルーファス以上に真っ赤に染め上がったわたしは蕩けすぎて腰が抜けてしまいその日は城へとお泊りとなったのだった。ハウンドと一緒に来ていて良かった……。
結婚前からこんなに溺愛されてて大丈夫なのだろうか……結婚したら一体どうなってしまうのか。なんて幸せ過ぎる悩みをグルグルと考えながら、一人ベッドの中で悶えていたのは内緒だ。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
それから約一年後――。
わたしは純白のドレスに身を包み、この国の王太子ルーファスの隣に立っていた。宮殿にある大きな礼拝堂にて行われた結婚式は、友好国は勿論の事交流のある国々の王族達も参加して盛大に執り行われた。
司祭の前で誓いの言葉と口付けを交わし、互いの指へと指輪をはめる。わたしの指にはルーファスが制作した愛の証の指輪がはめられている。シンプルなシルバーリングには希少性の高いレッドダイヤモンドが中心にあしらわれ、その周りを小さなグレーダイヤとホワイトダイヤが煌びやかに彩っている。まるでわたしとルーファスの髪色を再現したかの様なその指輪に、わたしは嬉しくて涙を零した。
(ずっと欲しかった指輪。彼となら割れる事もないと信じられる)
ルーファスの指にはわたしの指輪と対になる様なデザインで、男性用に作り上げた指輪がはめられている。
南の海を渡った先にある宝石の国「オルプルート王国」から取り寄せたというこのレッドダイヤはその希少性から幻のダイヤと呼ばれているそうだ。よくこんな物を手に入れられたと思ったが、オルプルート王国の王太子とは親交が深いらしく一つ返事で手配してくれたらしい。
そんなオルプルート王国の王太子も王太子妃を伴って今日の結婚式に出席して下さっている。傍から見ても仲睦まじいお二人を見て、わたしもルーファスとこんな夫婦になれたら良いなと思った。
この後は国民にお披露目する意味を兼ねて王都でパレードが行われる。それが終われば城へ戻って招待客たちとの舞踏会があり、今日は一日中バタバタと忙しい。
「大丈夫? 疲れてない?」
パレードの為馬車へと向かう途中、わたしを心配してかルーファスが気遣ってくれる。
「平気よ、幸せ過ぎて目が回りそうだけど」
そう言って「ふふっ」と笑うとルーファスも幸せそうな笑顔でわたしの頬へと口付けを落とす。
「うん、僕も幸せ」
――そう、わたしは今とっても幸せだ。
それも全部ルーファスを始めルーシーとルークの三人がわたしの為に大変な魔法を使ってくれて、人生をやり直すチャンスを与えてくれたお陰だ。哀しい事も辛い事も沢山あったけど、前を向いて歩いてこれたのも皆の助けがあったからこそ。
これからも幸せでいられる様に努力は惜しまないし、将来的には周りの皆の幸せも守れる様なそんな強い王妃になれたら良いなと思っている。国民全てを救う事は出来ないけど、少しでも笑顔の絶えない国であれる様にルーファスを支えていきたい。
ルーファスが傍に居てくれたらきっとそれも叶うだろうな、と隣に並ぶルーファスを見て思う。悪役令嬢に生まれても幸せにはなれるんだよ、と胸を張って生きていく。
そんな事を考えながらルーファスと共に馬車へと乗り込んだのだった。




