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ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない  作者: 咲桜りおな
第二章 ルーファスの婚約者編
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スペーサー邸の朝の大切な時間

四話前の「春の嵐」の前半部分を加筆しました。

宜しければご覧頂けると幸いです。

 ルーファスの包帯はルーシーの治癒魔法によってすぐに外れたけど、頭を打っている事から数日間様子を見てから王都へと帰る事に決まった。その間、わたしとルーシーもスペーサー邸へ宿泊させて貰う事となった。


 スペーサー邸はこの辺境の地を守る要でもある為か要塞の様な造りをしている邸だ。屈強な私兵たちが日々鍛錬に勤しみ、有事があれば統制の取れた軍隊として王都までも駆け付ける事が出来るらしい。とは言ってもここ最近近隣諸国とは友好的な関係を築いている為、普段は国境を守る仕事がメインだ。


 滞在から二回目の朝を迎え、昨夜はあまり眠れず夜が明ける前に目が覚めてしまった。どうしようか悩んだが気晴らしも兼ねて少し庭の散策をさせて貰う事にした。滞在中は敷地内は自由にしてくれて良いと許可を貰っていたので、暗い廊下を抜けて中庭の方へと向かった。


 まだ少し朝は肌寒い為、持って来ていたブランケットを肩から羽織り中庭へと出る。シンとした空気を吸い込んで深呼吸をした。昨日は一日中、朝から晩までマーガレットが隙を見てはルーファスの部屋へと入り浸っていた。ルーファスと話をしたいと思っても部屋の中からマーガレットの声が聞こえてくる度に胸の奥が苦しくなって、部屋の扉をノックする事が出来なかった。


 ルーシーが「遠慮する必要なんてないわよ」とルーファスの元へと連れて行ってくれたけど、横にはマーガレットがベッタリとくっ付いていて離れようとしないその姿を見ては複雑な気持ちになる。それにルーファスも常にマーガレットが付きまとっている為、ゆっくりする時間は少ないだろう。彼の負担になりたくなくて、少しだけ会話したらわたしは部屋を離れた。


 夜になってルーファスの方からわたしの部屋へ訪ねて来てくれた事は嬉しかった。マーガレットの事を謝ってくれたけど、マーガレットと話す事で記憶が戻る可能性もゼロではないので気にしないでと伝えた。そんなわたしを見てルーファスは「君は我慢してばかりだね」と困った顔をしていた。


(だって今までもずっとこうやって生きて来たんだもの……急に変わる事なんて出来ないよ)


 溜息を漏らすと白い息がふわっと舞い上がった。ここは王都よりも気温が少し低いのだろう。もう少し厚着してくれば良かったかな、なんて考えていたら後ろから腕が伸びて来て温かい腕の中へと包まれた。


「そんな薄着じゃ風邪ひいてしまうよ」

「ルーファス……」


 背中越しにルーファスの体温を感じてドキリとする。わたしの顔のすぐ横にルーファスの顔があって更に心臓の鼓動が速くなる。


「は、早いのね……まだ夜明け前よ?」

「モデリーンこそ、こんな所で何してるの? 窓から外見てたらモデリーンの姿が見えたからビックリしたよ」


 ルーファスに後ろから抱きしめられる形になって嬉しいのに泣きそうになる。久々にルーファスに密着されて彼のコロンの香りがほのかに香る。


(このまま時間が止まればいいのに……)


「なんだか眠れなかったから散歩してたのよ」

「……僕も眠れなくてずっと君の事を考えてた」


 ぎゅうっ、とルーファスがわたしの身体を抱きしめる。


「不思議だな……記憶になくても君をこうして抱きしめてると安心する。こうして抱きしめたいと衝動に駆られるのも君にだけだ」


(そんな事言われたら嬉しくて泣いてしまうよ……)


 思わず出そうになる涙を堪えてわたしの身体に回されたルーファスの腕にそっと自分の手を添える。自分の気持ちを上手く表現出来ない臆病者のわたしが出来る精一杯のアピールだ。


「本能的に君の事が好きなのかな……大切過ぎて苦しいくらいだ」

「ルーファス……」


(あぁ、もうこれだけでもいいじゃない。十分すぎるほどわたしはルーファスに愛されているわ)


 失いかけていた自信が少し浮上した気がした。ルーファスから見限られない様に前を向かなきゃ。大丈夫、わたしは強いんだから。これくらい平気。


 滞在期間中マーガレットは相変わらずルーファスにベッタリで、帰りの馬車もルーファスと一緒に乗り込もうとしていたのをルーシーに止められた。


「悪いけどこの馬車は二人乗りなの」


 そう言ってルーファスとわたしが乗り込んだのを見計らって扉を閉めた。


「嘘よ、どう考えても四人は乗れるじゃないの」と抵抗するマーガレットをもう一台の馬車へと引っ張って行って


「はい、マーガレットはこっちよ。王都まで私とじっくりお喋りしましょう。勿論宿屋でもずーっと一緒だからね」


 と、嫌がるマーガレットをぐいぐいと馬車の中へと押し込めた。その強引な親切っぷりにわたしとルーファスは顔を見合わせて笑った。ルーシーのお陰で帰りの道中はルーファスとの時間がたっぷりと取れて穏やかな時間を過ごす事が出来た。


 記憶が戻っていなくてもルーファスは本当に優しい。そんな彼にもっと好きになって貰える様に頑張ろうと思った。

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