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ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない  作者: 咲桜りおな
第二章 ルーファスの婚約者編
36/48

生死の分かれ目

 バトルシーンの為、残酷な描写が多少入ります。ご注意下さい。

 とても間に合わないのを承知で慌てて新たな魔法陣を描き始める。せっかくルーファス達が繋いでくれたこの命、ただ大人しくやられてしまうなんて出来ない。出来る限りあがき続けてやる! と指先を空中に走らせる、が。


「おっと、そこまでだお嬢ちゃん」

「うっ!? ……っ」


 背後から忍び寄って来たのかガタイの良い覆面男に両腕を掴まれ、軽々とそのまま上へと持ち上げられた。両手首を大きな手で固定され、わたしの身体は宙に浮いた状態になる。逃れようと足をバタつかせるが効果は皆無だ。


「ああっ……」


 ギリギリと手首を締め上げられ痛みで苦痛の声が漏れる。悪役令嬢が幸せを求めたのは間違いだったのか……それでも短期間だったけどルーファスから愛されて幸せだったな、なんて思いが頭を巡る。


「どう始末します?」

「そうね……やはり賊に襲われたらしく剣で斬りつけるのが無難ね」


 その言葉が終わらない内に背中に焼ける様な痛みが走った。


「ぐっ……ああああっ」


 どうやら背中に一太刀浴びたらしい。我慢出来ない痛みに意識が飛びそうになる。わたしを持ち上げていた覆面男は「悪いな」と言ってわたしの身体を今度は地面へと叩き落とした。


「あっ……うっ、ぐぅ」


 遠くでハウンドがわたしの名前を叫ぶ声が聞こえるけど、背中が熱くて頭がぼーっとしていて応える事は出来ない。悔しさと痛みとで視界が涙でぼやける。こんな風に終わるなんて……。


「さぁ、これで最後よ」


 モニラの声がそう聞こえて来て、わたしはギュッと目を閉じて覚悟を決めようとした――その時。


「うわああああああっ」

「ぐばっ!」

「がはっ!?」


 幾人もの悲鳴や叫びが一斉に上がり、冷気を帯びた疾風が吹き荒れた。その風は覆面たちを薙ぎ払い、地面へと落下するや否や氷漬けにしていく。周りでバタバタと大勢の足音や剣と剣がぶつかる音が聞こえている。


「モデリーン!!」


 聞き覚えのある声と共にわたしの身体が少し持ち上がる。


「姉上、早くっ!!」

「分かってる!!」


 閉じていた瞼を開くとルーファスの顔があった。黄金色の瞳が不安そうに揺れている。わたしの背中は、まるで湯舟にでも浸かっているかの様なじんわりとした暖かさで満たされて行く。


「大丈夫、大丈夫だからね、絶対治るから!!」


 半泣き状態でルーシーがわたしの治療をしてくれているのが分かった。まだぼーっとしたまま上手く働かない頭でも理解出来る。あぁ、わたし助かったんだ……って。


「な、なによコレ……」


 モニラの声が聞こえてハッと意識を取り戻す。視界の端に捉えたモニラは一人の青年に背後から短剣を首筋へ突き付けられていた。その青年の顔を認識して思わず息を呑む。ゲームの画面でしか見た事はないが間違いない。攻略対象者の一人でもある暗殺者ヒューイだ。


「馬鹿だよね~俺、あんたに忠告してあげたじゃん。終わったね、モニラ」

「ヒューイ……た、たすけ、て」

「うーん、無理かなぁ。王太子さんご立腹だし」


 身動き出来ないまま青ざめて震えているモニラ。そこへゆっくりとした足取りでもう一人の青年が近づいて来た。


「ここからは私が責任を持って対処させて貰う」

「おっと、もう一人の王子様登場だ。じゃあ、俺はここらで退場ねっ」


 スッと身を引いたヒューイはあっという間にその姿を消した。さすが手練れの暗殺者だけあって逃げ足も速い。入れ違いにルークがモニラと対峙する。


「ルーク殿下ぁ~、良かったモニラを助けてくれるのよね?」


 天からの助けが来たとでも思ったのかモニラがヘニャリとルークへ甘えた声を出して抱き付いた。ルークは無表情のまま少しだけ身体を離し、モニラの喉元へ人差し指と中指の二本の指を押し当てる。


「サイレント&リストゥレイント」


 いつの間に展開していたのかモニラの喉元へ魔法を放った。同時に二つの魔法を放つ高等技だ。驚いたモニラがルークから離れて慌てて自分の首元を触る。細い首元にはキラリと輝く銀色の首輪の様なものが巻かれていた。口をパクパクさせながら何かを訴えている様子だが、モニラの口からは何も言葉が発せられない。


「もう一生君は声を発する事も魔法を使う事も出来ないよ」


 まさかルークからそんな魔法を掛けられるとは思っていなかったモニラは口をパクパクとさせながらルークへ何かを叫んでいる。そしてどうしようもないと悟って首をイヤイヤと振りながら涙を流し、ルークの胸元へ小さな拳を叩きつけていた。


 そんなモニラを憐れむかの様に暫し見つめていたルークだがモニラの両手を掴み上げて制止し、「こんなになる迄止めてあげられなくて悪かった、私の責任だ」と顔を覗き込んで一筋の涙を流した。そして流した涙を拭い、近くに待機していた兵へとモニラを引き渡した。


「モ……ニラ……」


 わたしはルーファスの腕の中に横たわったまま、そんな二人のやり取りを見ていた。やり方さえ間違えなければ二人は愛し合って一生を添い遂げられただろうに……モニラが憐れで、そして助けてあげる事が出来なかったのが悔やまれた。


 転生者だとしても何度も姉妹として家族として暮らして来た妹の事は嫌いになれない。わたしにとってモニラは大切な妹だった。


「……殿下、ルーシー。助けてくれてありがとう」

「遅くなってごめん、もっと早くに迎えに出ていれば良かった」


 今日は執務の為に昼から学園を早退していたルーファスは、モデリーンたちの帰りに合わせて迎えの馬車を走らせていた所だったらしい。そこへルーシーが助けを求めて現れ、全速力で駆け付けてくれたのだった。


「間に合って良かった……モデリーンが死んじゃうんじゃないかって怖くて怖くて」


 涙でグチョグチョになりながらルーシーがわたしの頬を撫でる。その指先はまだ小刻みに震えている。ルーシーも色々と怖い思いをしたのだろう。


「ある程度の治癒は出来たけど、城に戻ったらちゃんと魔法医に診て貰いましょうね。あぁ、馬車の用意はまだかしら。私見て来るわ!」


 落ち着かない様子でルーシーが馬車の方へと駆けて行く。その近くにハウンドの姿が見えた。良かった、ハウンドも無事だったんだわ……。そこまで確認すると緊張の糸が切れたのか、わたしはルーファスの腕の中でそのまま意識を失った。

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