ラントス公爵家の姉妹
覆面たちの足元で発動したわたしの闇魔法は幾つもの手を生やし、覆面たちの足首を掴んだ。突然足を固定された覆面たちは慌てて刃を突き立てたり、逃れようと暴れたりするが実体のないその手には効果がなかった。
ハウンドはその隙に覆面たちへと剣を走らせ次々と倒して行く。だが好転したかの様に見えた戦局は、一人の少女の出現によって砕かれる事となった。
「往生際が悪いですわよ、お姉様」
新たに大勢の覆面たちを引き連れて姿を現したのはモニラだった。
「……モニラ。どうしてこんな事」
「邪魔だからに決まってるじゃないですか。さっきの爆発で吹き飛んじゃってれば怖い思いしなくて済んだのに。これでも家族としての優しさだったんですけど残念でしたわね」
淡々と冷めた表情でそう語るモニラの姿に愕然とする。甘いと言われるだろうが、やはりこんな事をモニラがするだなんて信じたくなかった。
「こんな事して大丈夫だと思っているの? それで貴方は幸せになれるの?」
「煩いわね、もう今回は色々おかし過ぎて早くリセットしたいのよ! だからまずは邪魔なお姉様から退場して貰わなきゃいけないの。ほら、早く片付けて頂戴」
モニラの合図と共に一斉に覆面たちがこちらへと襲い掛かって来た。その数の多さにさすがにハウンド一人では捌ききれずに、わたしへも刃が振り下ろされる。――が、先程ルーシーがかけてくれていた光魔法の防御壁で振り下ろされた刃は光の膜にはじき返された。
――ルーシー、ありがとう!!
心の中でルーシーに感謝する。だがこの防御壁もそう何回も防ぎ続けれる訳ではない。次の手を打たなければ……と魔法陣を描き始めた時、モニラの放った魔法によって光の防御壁は砕け散ってしまった。
「うそっ……」
さすがはヒロインというべきか。聖魔法を自在に操る事の出来るモニラと対峙するのは非常に危険だ。ハウンドとも距離を離され、じりじりと退路を追い詰められてわたしの背中は大きな木の幹へと辿り着いて止まった。ヤバイ……ヤバイ……と心の中で警笛が鳴り響く。
「大人しく消された方が苦しまなくて済みますわよ、お姉様」
「モニラ……お願い、やめて頂戴。こんなやり方間違ってるわ」
「最後までそうやって説教するのね、さすが悪役令嬢様様って感じね」
「え……」
――“悪役令嬢”って言った?
「ま、待って!! モニラ、貴方も転生者なの?」
「……は?」
「わ、わたしも転生者なのよ! だからお願い、ちゃんと話をしましょう!!」
モニラが転生者だとしたらこれまで色々不思議だった事に納得がいった。性格が矯正出来なかった事や、ルークへの異常な執着や、本来のヒロインらしからぬ言動の数々……。同じ転生者仲間なら話合えば分かり合えるかもしれない。
「お互い何か誤解もあるかもしれない。ね、だからモニラ……」
「道理でおかしいと思ったわよ、そうなの、お姉様も転生者なの。それなら納得だわ」
「そうよ、だから……」
「なら余計に消えて貰わないと、ですわね」
「えっ……」
ふふふ……と、唇の端を持ち上げて微笑むモニラ。その顔はとてもヒロインがする表情ではなかった。わたしはそのモニラの表情を見て話し合いなんて出来る相手ではないと悟った。この子は普通じゃない……どこか壊れてしまっているのだ、と。




