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ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない  作者: 咲桜りおな
第二章 ルーファスの婚約者編
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初デート

「ごめんね、初デートが庭園で」

「いいえ、とても素敵な場所で嬉しいです」


 わたしは今ルーファス殿下と一緒に城の特別な庭園へと来ていた。ルーク王子の誕生日祝いで使われた薔薇園とは違い、王族とその関係者しか入る事の出来ないというこの庭園は真っ白な花で埋め尽くされていた。薔薇を始めとしてカスミソウ、ユーフォルビアなどポピュラーなものから名前も知らない様な初めて見る花などその種類は想像も出来ない程の数だ。最奥には大きな温室があるらしい。


 この庭園はゲームの中でもスチルで見た事があったけど、実物は想像以上に圧倒される光景で感嘆の息が漏れるほどだ。王族の攻略対象者であるルークとルーファス限定のデートスポットの一つなのだが好感度がMAXに近くならないとここへの選択肢が現れなかったりする。なので勿論ルークとは来た事がない。


 ルーファスに手を引かれながらゆっくりと整備された小道を散策する。繋がれた手にドキドキが止まらなくて胸がキュッと苦しくてたまらない。片想いも苦しかったけど、想い合っていてもこんな風に苦しくなるだなんて。


 チラリと横に居るルーファスを覗き見る。シルバーアッシュの髪が陽の光に透けてキラキラと輝いて見える。思わず見惚れていると端正な横顔がこちらを向いたので、一瞬で顔の温度が上昇した。


「どうしたの? 僕の顔に何か付いてる?」

「あ……いえ、その……」


 恥ずかしさで視線を落とすとルーファスは右手でわたしの顎を持ち上げて覗き込んで来る。


「か、顔が近すぎますっ、ルーファス殿下」

「だってモデリーンが何か隠してるから」

「隠してるというほどの事では……」

「じゃあ、何? 教えてよ」


 唇が触れそうなくらいに顔が近づいて来て焦ったわたしは仕方なく白状した。


「か、髪が……とても綺麗で見惚れていただけですっ」

「髪? 僕のこの髪を褒めるのはモデリーンくらいだよ。癖っ毛で手入れも大変だし」


 そういえばゲームでルーファスは自分の髪にコンプレックスを持っていた。ルークやルーシーとも違う髪色は金髪の多い王族の中では少し浮いて見えてしまうらしい。先代の王が銀髪だった事もあって隔世遺伝だと言われているがルーファスは気にしている様子だった。


「わたしは好きですよ、殿下の髪」


 勇気を出してルーファスの髪にそっと触れてみる。少し硬めの髪質かと思ったけど意外にも結構柔らかくてフワフワしている。なんだか動物みたいだ。思わず微笑むとそのままギュッと抱き締められた。


「で……んか!?」

「あぁ、もうっ、本当に大好きだ。モデリーン」


 ルーファスの腕に包まれてドキドキが更に悪化する。耳元で囁かれる愛の言葉にもクラクラしそうだ。


「ねぇ、少しは僕の事好きになってくれてる?」


 この状態でそれを聞くの~!? 目を回しそうになりながらも精一杯わたしに尽くしてくれるルーファスに気持ちが届く様にと、必死に言葉を紡ぐ。


「す……き……ですよ、いつもドキドキして大変なんですっ」


 ――胸のドキドキがヤバイんだってば!


「……僕にドキドキしてくれてるの?」

「するに決まってるじゃないですか、だ、だか……んむっ」


 ――だから離してって言おうとしたわたしの唇はルーファスの唇に塞がれてしまった。頭の中は“うわっ!!”とか“わっ、わっ!?”と言葉にならない擬音で埋め尽くされて何も考えられない。


「……だっ、め……っ」

「ダメじゃない」


 一瞬唇が離れた隙に抵抗を試みるも即却下されてルーファスに翻弄され続ける。どれくらいの間、彼からの口付けを受けていたのか。名残惜しそうに唇を離した後、離れついでに耳たぶをカプリと優しく甘噛みされた。


「……!!」

「顔、真っ赤だよモデリーン。可愛いなぁ」


 噛まれた耳を手で押さえながら悔しくて睨み返すけど、恥ずかしさで目の端に涙が滲んでて全然迫力なんて生まれない。……甘い。甘すぎるっ!! ルーファスにトロトロに溶かされる毎日にわたしは振り回されまくっている。


 再び手を引かれて庭園の最奥へと辿り着くと、邸かと思うほどの大きな温室の扉を開けてその中へと入った。壁は全てガラス張りになっており、中央には天井に届くほどの高さの噴水がある。その噴水を取り囲む様に備え付けのベンチが並んでおり、その一つへと横並びに腰を掛けた。天から降り注ぐ光は天井のガラスに乱反射しているのかキラキラと不思議な色を放っていた。


「凄いですね……虹みたい」

「王家自慢の温室だからね、この景色をモデリーンにも見せてあげたかったんだ」

「ありがとう御座います」


 今日この場所がデート先に選ばれたのには理由があった。先日、授業の途中にルーファスから呼び出しを受けた。緊急性のある話だという事で学園を早退し、ルーファスと共に城へと移動した。そのまま王族の居住区にある応接間へと案内された。そこには既にルークとルーシーの姿もあり、ただ事でない雰囲気にわたしは混乱した。


 口火を切ったのはルークだった。そういえばルークは三限目が始まった時には教室に姿がなかった。朝は確かに出席していたのだが、二限目が始まる頃には居なくなっていた。王子なので執務の関係で早退や欠席する事もある為、たいして気に留めていなかったのだが城へと戻っていたのか。


「実はモニラ嬢の様子がおかしいのだ」


 ルークは学園の屋上前で出会ったモニラとのやり取りを詳しく語った。最初はいつもと変わらないモニラだったのが、途中からおかしな事ばかり呟き始めたらしい。


「あの様子から見るとモニラ嬢にもループの記憶があるのではないだろうか」

「関係者だからあり得ない話ではないけど……」


 ルークとルーシーが眉間にしわを寄せる。


「それに全てモデリーンが悪いとか原因だとか言っていた。雰囲気が普通ではなかったし、モデリーンの身に危険が及ぶ様な気がしたのだ」

「いや、恐らくモデリーンを狙って来る可能性は高いよ。不安にさせてはいけないと思っていたから伏せていたけど、今までのモデリーンの死は全てモニラ嬢が関わっているとみている」

「……モニラが?」


 ルーファスの言葉にわたしは言葉を失った。わたしの最初の死因は事故死だった為、そういう運命だったのだと思っていた。二回目も三回目も変にあがいたからの結果だと思っていたし、寿命は短いかもしれないけどそれまでは幸せな生活を送れたらもう充分だと思っていた。幸いな事にルーファスに愛され望まれて王太子妃になる未来が描けそうな現状に、あとはせめてルーファスに跡継ぎだけは残してあげたい……そう考えていたのだ。


 それがまさか実の妹に殺害されていた――?


「いくら何でも、まさかあの子がそんな恐ろしい事……」


 性格に問題はあるが自分にとっては可愛い妹だ。信じられない思いで一杯だ。


「いいえ、モデリーン。残念だけど本当の事よ。私達これまで毎回貴方の死因を調査していたの」


 ルーシーが申し訳なさそうに告げる。ルーファスを見ると同じような表情で首を縦に振った。そしてルークは絶望したかのような表情を浮かべて渇いた笑いを漏らした。


「はは……そんな事も私は見抜けずにこれまで幾度もあの女を愛したのか……」


 大きな溜息を吐きながらルークは椅子へと深く腰掛け、そのまま頭を抱えて俯いてしまった。どうやらルークはこの事を知らなかったようだ。酷くショックを受けているのが分かる。


「わたし……そんな事知らなくて……それに短命でもそれが運命なら仕方ないのだとずっと……」

「僕も姉上も、モデリーンをみすみす死なせるつもりはないよ。その為に今回はループ開始からずっと裏で動いて来てるんだ」

「そうよモデリーン、今までのは捻じ曲げられた運命だったの。本当は違うのよ」

「ルーファス殿下……ルーシー……」


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 この話し合いが行われた後、わたしは万全を期すために公爵家を出て城での生活を始める事となった。婚姻前ではあるが正式な婚約者なので花嫁修業を兼ねる形で公爵家には許可を貰い、居住を城へと移したのだ。予定より早くはなったが従者のハウンドも公爵家から王家預かりとなった。


 そんな状況下だったので不必要に城から出る事は出来ず、初めてのデートが庭園となった。それも護衛を張り巡らせての厳戒態勢でなので、先程のルーファスとのイチャイチャもバッチリ見られているだろう。勿論皆出来た方達ばかりなので、そっと視線は外してくれてる筈……だと思いたい。

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