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妹、モニラ

「おねーさまぁ」


 体力も回復した翌日の朝、食堂へと向かうわたしの元へ独特の甘ったるい声を弾ませて妹のモニラが廊下をパタパタと走ってやって来た。


「お身体はもう宜しいんですの?」


 淡い桃色のフワフワとした髪を指先で弄りながら小首を傾げる仕草はさすがヒロインというべきだろうか。わたしにはちょっと真似出来ない。


「ええ、ありがとう大丈夫よ。それより廊下を走ってはいけなくてよ、モニラ」

「はぁい、次からは気を付けるわお姉様」


 返事は良いが、どうせ本気で直す気なんてないんだろうと分かる気の抜けた返答に朝から頭が痛くなる。


「私、お姉様に三日も会えなくて寂しかったんですの。今日はもう一緒に遊んで下さるのよね?」

「マナー教養のお勉強が終わってからね」

「え~っ、お勉強は好きじゃないわ。面白くないもの」


 不服そうに唇を尖らせながらわたしの横を歩くモニラ。こうして慕ってまとわりついて来るのはとても嬉しいが、甘やかしてしまったらモニラの為にもならない。


「面白くなくてもちゃんと覚えて身につければ、大きくなった時に恥をかかずに済むのよ」

「そんな先の事なんて知らないわ。なんだか今日のお姉様って意地悪だわ」


 プイッと機嫌を悪くして食堂へ駆けて行ってしまった。今さっき走るなと注意したのにやっぱり分かってない。


「困った子ね、先が思いやられるわ」


 妹を矯正すると決めたものの出鼻から挫かれた気分だ。今迄がこんな調子でやって来たのだ、急に直せと言われても無理な話である。それでも出来るだけの事はやらなくちゃ。自分の運命が掛かっているんだもの。


 今は幼いモニラだが、もう少し成長したらルーク殿下に恋をする。婚約者のわたしへ会いに殿下が邸に来る度に、何かと理由をつけては殿下と接触しようとしてくるのだ。最初は初めて出来る“義理の兄”という存在と、そしてこの国の王子という人物にただ興味津々なだけだった様に思える。


 殿下も殿下でモニラの事を義理の妹になるからと優しく接してくれていた。その優しさに甘え、自分を可愛がってくれる居心地の良さに浸って……それがいつの間にか恋心へと発展していった。自分に優しくしてくれるのは殿下が自分の事を好きなんだ、と。


 そうした思い込みで暴走し始めたモニラは手が付けられなくなった。殿下と想い合っているのに結ばれないのは周りが邪魔をしているからだと言って、わたしや両親に殿下の婚約者の座を自分へ譲ってくれと懇願。それは王命だから無理だと説得するが聞かず、わたしを押しやって殿下との時間を横取りする様になった。


 ――気が付けば、殿下はわたしの話をまともに聞いてくれなくなっていた。いつもモニラが同席するので、たまには殿下と二人きりで話したいとモニラを部屋の外へ退出させようとすると「何故そんな酷い扱いをするんだ、大切な妹じゃないか」と怒られた。


 そんな事を繰り返している内に次第にわたしと殿下は会話をしなくなり、殿下とモニラが楽しそうに喋る横でわたしはただ黙ってお茶を飲み殿下が帰るのを待つだけになった。最終的には殿下は婚約者のわたしではなく、モニラに会いに邸へやって来るようになる。


 わたしは飾りの婚約者となり、モニラは殿下の恋人の座を手に入れた。でもどんなに想い合っていても二人は結婚出来なかった。それはモニラが未来の国母になるには相応しい教養を身につけていなかったからだ。マナーも出来損ない、国の歴史や周辺諸国の事も無知、口を開けば教養のなさが露見するばかり。だから国王陛下と王妃様はわたしを殿下の正妃として迎えたかった為、わたしと殿下の婚約は解消される事なくわたしは王太子妃となったのだった。


 モニラは表には出せないが側室として迎え入れられる事が決定していた。きっとわたしが死んだ後は二人仲よく暮らしていったんじゃないかな。わたしの代わりに別の正妃は迎えただろうけど。


 そうだわ。モニラがちゃんと勉強を頑張って教養を身につけてくれれば、わたしは殿下と結婚しなくて済むんじゃないかしら……。


「やっぱりモニラを矯正しなくちゃだわ」


 今まではわたしは殿下を好きだったから、どうしてもモニラに嫉妬してしまっていた。でも結局はわたしの想いは届かないのだから今回は殿下への想いは断ち切って二人を応援しよう。そして、わたしは別の殿方と結婚してしまえばいい。我が公爵家は弟が継ぐ事は決まっているから、わたしはどこかの貴族の元へ嫁ぐのよ。


 新たな希望と目標を見つけて、わたしは頑張ろうと決意した。

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