モニラに見つかったルーク
「ルーク殿下、みっけ!」
「うわぁああああ!!」
屋上への出口前の踊り場に座っていたルークは突然現れたピンク髪の少女に驚きの声を上げた。やっと撒いたと思ったのにどうやら見つかってしまったらしい。
「もうっ、なんでいつも逃げるんですか。モニラ、探すの大変なんですよ」
プリプリと唇を少し尖らせながら文句を言ってくるモニラにルークは落胆した。探さなくていい。どうしてこうまで自分を探そうとするんだ。
「モニラ嬢……もういい加減にしてくれ」
「え、何がですか? あ、それより~今日はクッキー焼いて来たんですよ。一緒に食べましょう」
そう言って手に持っている可愛らしい包みをルークへと見せて来る。ルークにこれだけ避けられている現実をモニラは全く受け止めてないし、理解もしていない様だ。
「結構だ。頼むから私に話し掛けないでくれ」
「え~っ? どうしてそんな事言うんですか。私たち恋人でしょ?」
「は?」
一体いつからそんな関係になったというのか、身に覚えのない関係性を出されて戸惑うルーク。そりゃ、以前はずっとそうだったが今回では一度もそんな関係になってはいなかった。手紙のやり取りは多少してはいたが、それだけだ。
「……誤解を生んでいたのならすまない。私と貴方は恋人でもなんでもない。ただの知人だ」
「え……だって、ルーク殿下はモニラの事が」
「好きではない」
ルークは間髪を容れずに否定した。モニラを拒絶出来ずにいたし、正直惹かれてしまう気持ちはあった。だが、今はもう違う。色々と反省し、心を改めたのだ。もう惑わされるつもりはない。これ以上この国の王子として、一人の人としても間違いを犯したくない。
「……な、んでよ。そんなのおかしいじゃない」
それまで笑顔だったモニラが急に真顔へと変わった。まるで人が変わったかの様だ。
「てゆーか今回なんなのよ。ルーク殿下は何故か指輪をお姉様に渡しちゃうし、王太子じゃなくなっちゃうわ、こんな時期に婚約破棄するわ、更にはルーファス殿下とお姉様が婚約って……もう滅茶苦茶じゃないのよ。イベントだって起こらないし」
「モニラ嬢?」
こちらに背を向けて意味の分からない事をブツブツと呟き始めたモニラをルークは黙って怪訝そうな目で見ていた。この女は一体何の話をしているのだ……と。
「……そうよ、やっぱり全部お姉様が悪いんだわ。だって全部お姉様の都合の良い方へと話が進んでるじゃないの。そんなのおかしいに決まってる」
何かを納得したのか、くるっと振り返ったモニラの顔はいつもと同じ笑顔へと戻っていた。なのに、その笑顔に何故か背中がゾクリとした。
「モニラ~、全部分かっちゃいました。大丈夫ですからねルーク殿下」
「…………」
「モニラがちゃんと正しい道へと導いてあげちゃいます。ルーク殿下はモニラのものだもの、頑張りますねっ」
「モ、モニラ嬢……!?」
「はい、これ。ちゃんと食べて下さいね~では、ご機嫌よう~」
ルークの手に無理矢理クッキーの入った包みを押し付けたモニラは満面の笑みで階段を軽やかに降りて行った。暫く呆然と押し付けられた包みを見つめる。
「……何だろう、変な胸騒ぎがする」
居ても立っても居られなくなり、ルーファスの居るであろう二年生の教室へと足を向ける。今まであんなに好きだった筈の女だが、別の何かに見えて来た。まるで洗脳から解かれたみたいな気分だ。自分は何故あの女を愛していたのだろう。分からない。
それよりも早くルーファスに知らせねば! 冷や汗をかきながらルークはルーファスの元へと急いだ。




