ルーファス殿下とモデリーンの学園生活 ②
「ルーファス殿下ってあんなんだっけ?」
放課後――。いつもなら邸までルーファス殿下に送り届けられているところだけど、今日のわたしはルーシー王女と一緒に王都の街へ寄り道していた。ルーファスは生徒会の仕事の為、まだ学園に残っている。
まずは人気のカフェで甘い物を補給してから買い物へ繰り出すプランで、目の前で瞳をキラキラと輝かせながらパフェを突いている友人へと問いかけた。
「いいえ~私もあんな姿初めて見るわ」
これまでルーファスに浮いた話は一つもない。しいていえば現王の王弟殿下のご令嬢が一方的にルーファスにご執心ではあるが(ゲームではルーファスルートでのライバルとなる)、ルーファスの方が全く関心を持たない為学園内でもただのモブと化している。時々遠くからルーファスを見つめている姿を見るくらいだ。
そんな感じなので、女性にこんなにも甘々な態度を取る彼を見るのは初めての事だ。しかもその態度を取られているのがわたしという……。
「元々優しい子だけどアレはモデリーンへの想いを我慢に我慢した挙句の爆発かもね」
クスクスと笑いながらたっぷりとクリームの載ったスプーンを口へと運ぶルーシー。そんな彼女を見ながら、わたしもモンブランケーキを口に入れる。
「どう? ルーファスからの愛はちゃんと感じられてる?」
「充分過ぎるほど感じてるわよ」
正式な婚約発表がされる迄はまだどこかわたしへ遠慮があったけど、発表後に初めてバルコニーでキスを交わしてからは周りなんか気にせずに堂々とわたしへの愛を示してくる様になった。彼からの純粋な愛は心地よくて、恥ずかしくてペースを乱されまくりではあるけど嫌だと思う事はなかった。
「ふふ、二人が幸せそうで私も嬉しいわ。これまでが酷すぎたんだもの、モデリーンはもっと幸せになって良いのよ」
「……ありがとう、ルーシー」
モニラが吹聴して回っていた噂が偽物だったと発表されてから、離れていた友人達が少しずつではあるけど戻って来た。皆一様に謝罪し形だけは普通に会話を交わす様にはなったけど、どうしてもわだかまりが残ってしまい以前の様な関係を築く事は不可能だった。あからさまに除け者にされなくなっただけマシかな、という感じだ。
ルーファスは友人から婚約者へと立場が変わったので、わたしの友人はルーシーだけだ。でもわたしはそれで充分だった。ルーファスとルーシーが居てくれたらそれでいい。
「少し気になるのは貴方の妹ね」
「モニラ?」
最近、学園ではモニラとルーク殿下が一緒に居る姿を見る事は滅多にない。少し前までは当たり前の様にルークの元へモニラが突撃していて、彼もモニラを拒みきれずにいる感じだった。わたしとの婚約が解消されたのだから、遠慮なく付き合えば良いのにどうしたのだろうと思っていた。
「ルークがモニラを避けてる感じがするのよね~」
「……まさか。だってルーク殿下はモニラが好きな筈でしょ?」
今まで散々二人は惹かれ合っていたじゃないか。ルークがモニラを避けるなんて事があるのだろうか。
「まぁ、仮に二人がこれまで通りくっ付いたとしてもよ? 陛下が二人の婚約を認める事はもう無いからね~」
「え、そうなの? 王太子でなくなっても王子である事には変わらないし、継承権だって残っているでしょう? 正式に王子妃に迎える事が出来るものだと思っていたわ」
「そもそもルークの不祥事の一つの原因を作ったのはモニラでしょ? あの子が変な噂を流しまくった結果、ルークだけじゃなくそれに振り回された貴族も沢山居るわ。そんな問題を起す様な人物を王族へ迎えれる訳ないじゃない。だから……ここだけの話、どうやら他国の姫を婚約者として迎えるなんて話が出ているの」
ルーシーが小声でわたしにだけ聞こえる様に驚く様な話をしてきた。確かに言われてみれば正論だ。だけどモニラはヒロインだからそんなのは関係無しに攻略対象者とのエンディングを迎えれるのだと何故か思ってしまっていた。
そうよね、ここはゲームの世界であるけどわたし達にとっては現実なのだもの。実際はそんなに甘くはないって事なのだわ。
「それもそうよね……それにモニラには婚約者が居る訳だし。現実的に考えればルーク殿下ではなく、ディオン・ブレンダーと結婚する事になるわよね」
「……それもどうかしらね」
「え?」
「まぁ、その内分かるわ。ふふ」
「?」
ルーシーのどこか含みのある言い方にわたしは首を傾げるしかなかったが、今のわたしにはこの先何が起きるのか全く予想がつかなかった。ただでさえゲームのシナリオとは色々と変わってしまっているのだ。今のわたしに出来る事は、ようやくルークとの婚約破棄が出来たこの生活を精一杯生きていくしかない。未来は必ず変わってくれる筈だ、その為に頑張っているのだから。




