ルーファス殿下とモデリーンの学園生活 ①
ルーファス殿下の正式な婚約者となってからの生活は驚くほどに眩しく輝いていた。朝、学園に公爵家の馬車が到着するとそれをルーファス殿下が出迎えて下さる。そして彼のエスコートを受けながら馬車を降り、わたしの教室まで送り届けて下さるのだ。
学年も教室も違うので授業中は特に何もないが、昼食の時間になると食堂前で待ち合わせて一緒にランチを取る。これまでもルーシーを交えて三人でよくランチを取っていたが、二人きりでの昼食はなんだか少し緊張してしまう。
「え、なんですの? どこかおかしかったですか?」
ナイフとフォークを使い食事を口へと運んでいると、向かい側に座るルーファス殿下がこちらを見つめて微笑まれている事に気付いた。食事マナーの作法は完璧な筈なのだけど、何かやらかしてしまったのかしら……。
「ううん、可愛い唇だなって思って見ていただけ」
「っ!?」
突然何を言い出すのだ、この人はっ!! わたしが顔を真っ赤にしながら固まっていると目を細めて「ふふ、赤くなっちゃってか~わいい」と更に煽る。わたしの方は心臓がバックンバックン鼓動が激しいし、自分の唇を見られていると考えるだけで恥ずかしくてフォークを口元へ運ぶ事すら出来なくなった。
「食べないの?」
「で、殿下が恥ずかしい事言うから食べれませんっ」
「ふーん……あ、じゃあ僕が食べさせてあげるよ。はい、あーん」
わたしからフォークを奪い、皆の目の前であーんをさせようとしてくるルーファス殿下。こんな甘々な事に耐性のないわたしは、恥ずかしくて目を回しそうになる。――これ、ルーファスルートであったわ! ルーファスのあーんスチル、画面で見てるとそうでもないのに実際に体験するとヤバ過ぎるっ!!
ルーファスが人気キャラなのは見た目や少し腹黒さのある所だけじゃない。恋人になってからのこの溺愛っぷりが凄く、ヒロインを甘々に甘やかして蕩けさせる手腕がプレイヤー達を悶えさせた。まさに今、わたしが悶えさせられている。
「無理ですっ」
「無理じゃないよ、ほら、口を開けて」
凄く良い笑顔で魚のムニエルを口へと運んで来る。わたし達の攻防を見ている周りの視線が痛いほど突き刺さる。
「……ううっ……(ぱくり)」
抵抗しきれなくて大人しく口へムニエルを迎え入れ、もぐもぐと咀嚼する。
「美味しい?」
「……はい、美味しいです」
そう答えると嬉しそうに次に口へと運ぶおかずを選ぼうとするルーファス殿下に、わたしは待ったをかける。
「あのっ、自分で食べれますから」
「ダメダメ、僕が全部食べさせたいんだからモデリーンはあーんして」
「嫌ですっ、唇見られた方がマシですっ」
ルーファス殿下からフォークを奪い返し、自分でムニエルを口へと運ぶ。すると不意にルーファス殿下がテーブル越しにこちらへと身を乗り出し、名前を呼ぶ。
「モデリーン」
「?」
今度は何事かと思い視線を上げると――。
「ちゅっ♡」
いきなり唇を奪われ、一瞬の出来事に硬直するわたし。勿論周りの生徒達はわたし達を見て見ぬ振りだ。
唇が触れたのはほんの一秒ほどでルーファス殿下はすぐに元の座席へと身体を戻しながらペロッと自分の唇を舐めた。
「うん、バターの味が程よい感じでムニエルも美味しそうだね。今度僕もムニエル注文しようかな」
なんて呑気な事を話し、中断していた自分の食事を再開するルーファス殿下。
「あ、あの……」
硬直したままルーファス殿下へ問いかける。
「なんで……今……く、くち……」
「モデリーンの唇が美味しそうだったから」
二ヤリと口角を上げながらパンを口へと運ぶルーファス殿下。悔しいほどにその姿も所作も美しくて惚れ惚れしてしまう。
「そ、そうですか……」
「うん」
なんだろう、この人にはわたし敵わないなと思った。そして何で今までわたし、こんなに近くに居たのに普通に接する事が出来たのだろう。どこから見てもカッコイイの一言に尽きる。そんな人がわたしの婚約者だなんて……わたしドキドキし過ぎて死んでしまうんじゃないだろうか。




