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ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない  作者: 咲桜りおな
第二章 ルーファスの婚約者編
25/48

ルーファス ②

「今日も会えなかったの?」


 城の図書室へと彼女が姿を見せたので、僕は読んでいた本から目を離して声を掛けた。


「分かってはいたんですけどね」


 伏目がちに残念そうに微笑む彼女。今日も兄上は王太子妃教育後の面会を拒否したらしい。


「もう会いに寄るのやめたら? 兄上にその気が無いのは君も気付いてはいるんだろう?」

「そうですね……」


 僕と彼女が友達になってから二年半ほど経過していた。兄上は婚約者として会う事を決められているお茶会の席も拒否する様になっていて、城で兄上と彼女が顔を合わせる事は滅多になくなっていた。そのくせ定期的に公爵家へは足を運んでおり、形式上彼女も同席はさせてはいるが兄上の目当てはモニラ嬢だった。二人で見せつけるかの様に仲睦まじく談笑し、彼女とは一切視線も合わせないらしい。


 そこまでの酷い態度を取られているのに彼女は未だに兄上を想い、登城の際は兄上への面会を申し込んでは会えずにこうして図書館へとやって来る。


「これ、読みたがっていた本。入荷したからキープしておいたよ」


 僕は少しは元気が出る様にと彼女が読んでみたいと言っていた異国の本を差し出した。


「わぁ、よく入手出来ましたね。なかなか手に入らない筈ですのに」

「これでも王子だからね。それくらい簡単だよ」


 なんて嘘だけどね。必死に色んなツテを使ってやっと見つける事が出来たのは内緒だ。


「とても嬉しいです、ありがとう御座います。ルーファス殿下」


 目を輝かせて大事そうに僕から本を受け取る彼女を見れて僕は大満足だ。こんなに可愛いのに兄上はそんな彼女に気付かない。馬鹿だよなぁ。兄上はモニラ嬢が健気で可愛いと言うけど、彼女の方がずっと健気で可愛らしいと思う。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 それから僕達はそれぞれ王立学園へ入学する時期を迎え、最初の二年間は大きな問題はなく変わらない学園生活を送っていた。それがガラリと変わったのはモニラ嬢が入学をして来てからだった。


 兄上と彼女が不仲だというのは皆の知る所ではあったものの、それでも一応は婚約者同士なのでそれなりに学園内では交流せざるを得なかった。兄上も嫌々ながらも婚約者としての対応を求められる為、皆の手前それを拒絶はしないでいた。兄上との交流が増えた事に彼女は少し嬉しそうだった。


「あんまり期待しない方が良いと思うよ」

「ええ、分かっているわ。それでも傍に居られるだけで嬉しいの」


 熱い視線を兄上に向ける彼女。その視線を僕に向けてくれたらどんなに良いだろうか。僕は完全に彼女に惚れてしまっていた。涙する彼女を見る度に何度抱き締めてしまいそうになったか。でも僕はしない。だって彼女が好きなのは兄上だから。僕はずっと彼女の笑顔を守る事さえ出来たらそれでいいんだ。そう心で誓って時折見せる笑顔を見守っていた。


 だがモニラ嬢が学園に通い始めた事により、兄上とモニラ嬢は堂々と二人で浮気し始めた。学園では至る所でモニラ嬢と過ごし、あからさまにモニラ嬢を恋人扱いしていた。あまりにもそれが目に付くものだから彼女も妹に注意するしか無くなり、それが良くなかったのか彼女にとって悪い噂が学園内に流れ始めた。


 妹であるモニラ嬢を必要以上に虐めている、妹に婚約者を奪われるなんて残念な令嬢だの、実は裏では見境なく男漁りをしているアバズレだの、裏取引を陰で牛耳っているだのと誹謗中傷が凄まじかった。僕と姉上が馬鹿な話を信じるなと一喝したが、肝心の王太子である兄上がその噂を信じているのだから悪い噂が収まる気配はなかった。


 更にモニラ嬢がデビュタントを迎えたものだから兄上が夜会でのエスコートをし、社交界にもその影響は出ていった。毎回夜会には婚約者放置でモニラ嬢の腰を抱いて現れ、モニラ嬢も我が物顔で兄上とダンスを踊る。お陰で彼女は夜会に顔を見せる事は無くなった。


 こんな事なら僕が彼女を奪えば良かった。どうせ兄上は彼女なんて要らない筈だ。思い切って陛下に彼女を僕にくれと願い出てみたが駄目だった。兄上がモニラ嬢に熱を上げている以上、そうしてしまえば未来の国母である王太子妃が教養もマナーも出来ていない馬鹿女になってしまうからだ。そんな事になったらこの国に未来はない。


「もっと早くに手を打っておくべきだった……」


 どうにもならない悔しさに拳を壁へと叩きつける。いくら壁へ怒りをぶつけても気は晴れない。


「ルーファス!! 何やってるの、止めなさいっ」


 姉上が止めるのを無視して僕は壁を殴り続ける。僕の拳は血だらけになったけど不思議と痛みは感じなかった。痛むのは胸の奥だけだ。


「……ばか。こんな事しても何もならないでしょう」


 治癒魔法を僕にかけながら姉上が僕を叱る。


「ごめん……」


 ソファーに力なく座る僕に姉上は更に叱咤する。


「辛いのは分かるわ、私だってそうだもの。でもね、変えられないものはどうしようもない。それでも私達はモデリーンを守るの!」

「うん……」


 それから数年もしない内に彼女がこの世から居なくなるだなんて思ってもいなかった。僕達の失望と虚無感は半端なかった。後に彼女が無実だった事を兄上が知って嘆いていたが、自業自得だと思った。彼女がどんなに素晴らしい女性だったか今更知った所で取り返しなんて付かないのだ。


 そんな中、突然兄上が例の文献を抱えて部屋へやって来た時は驚いた。そして同時に彼女を守る事が出来なかった自分への試練だと思った。最悪の場合どんな事をしてでも彼女を幸せにしてみせる……と誓った。

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