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ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない  作者: 咲桜りおな
第二章 ルーファスの婚約者編
24/48

ルーファス ①

 最初はこいつも馬鹿な女の一人だと思った。


 王子というステータス、自他共に認める端正なルックス。僕も兄上も、ただ“王子”だというだけで目の色を変えられる。将来の王太子妃、王子妃になる為に周りを蹴落としてでも手に入れようと躍起になってる浅はかな女共ばかりで正直うんざりしていた。


 僕は王太子になりたいとは全く思わないし、なんなら王族という事さえ疎ましく思っていた。勝手に結婚する相手も決められるし、自由がない。父上が僕を王太子にと望んでいる事を幼いながらも知り、のらりくらりとかわし続けた。そうしてる内に諦めたのか兄上が立太子した。


 そして兄上が十歳を迎えた時、兄上に婚約者が出来た。ラントス公爵家の令嬢でかなり優秀な女らしい。将来の義姉がどんな女に決まったのかと気になり、僕はこっそりと木の上から彼女を観察していた。

 どうやら彼女は兄上に好意を寄せているらしい。兄上の話す言葉に頬を染めて答え、嬉しそうに微笑む。見た目はきつそうに見えるけど、笑うと柔らかな雰囲気になる。そのギャップに僕は少し驚いたのを今でも覚えている。


 毎日王太子妃教育を受ける為に登城し、その帰りには兄上と少し談笑して帰る。そんな日々を送る彼女を暇つぶしがてら見ていた。いや、いつの間にか彼女が来るのを毎日楽しみに待っている自分が居た。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 二年程経った頃だろうか。最初は和やかに談笑しながらお茶を飲んだりしていた二人が、なんだか徐々におかしくなって来た。特に兄上の方が彼女を突き放す様になって、王太子教育の帰りのお茶は兄上がすっぽかす事が増えていった。


「ねぇ兄上、今日も彼女来てたよ。会ってあげなくて良いの?」


 いくらなんでも婚約者に対して不誠実じゃないかと思い、僕は兄上にそれとなく注意をしてみた。だけど兄上は凄く面倒くさそうに眉根を寄せる。


「別に。あんな女に割く時間が無駄なだけだ」

「ふーん……随分と嫌ってるみたいだね。初めの頃は普通に仲良く見えたのに」

「猫被っていたんだろう。本性を知らされてから一気に気持ちが冷めたんだよ」

「本性?」


 兄上が言うには彼女には二つ下の妹がいるらしい。その妹は毎日、姉である彼女に虐められているのに家族の誰も助けてくれないという。皆、姉の味方をするんだそうだ。


「外面は良いが実は裏では色んな悪事を働いているらしくてな、俺はそんな女がこのまま王太子妃になって良い筈がないと思っているんだ」

「へぇ……僕にはそんな風には全然見えないけどなぁ」


 彼女は毎日王太子妃教育を受け、更には城の図書館にもよく寄って分厚い本を読み漁っている。何の本を読んでいるのか気になったから調べてみたら、この国の昔の文献や海外の歴史、魔法書、経済学など様々な分野を自主的に勉強している事に驚かされた。この国の為に役に立とうと必死に勉強をしてるんだな、と感心してしまった。でもたまに動物図鑑とか恋愛小説なんかも読んでるみたいで可愛い所もあるじゃん、なんて思ったんだ。


 そんな彼女が人を虐めたり裏で悪事を働いているなんて、実に信じ難い話だ。


「ルーファス、お前も騙されるなよ? モデリーンは悪女だ。それに比べ、妹のモニラ嬢は天使の様に可愛らしくて……健気なんだ」


 彼女の妹の話を甘い砂糖菓子を食べているかの様に語り出した兄上。あまりにその妹を褒め称えるので今度は僕が眉をひそめる番だった。


「兄上……もしかしてそのモニラ嬢に惚れてたりしないよね?」

「ん? それがどうかしたか」


 何も問題ないかの様に答える兄上に僕は眩暈を感じた。いやいや、ダメでしょう! 陛下の決めた婚約者が居ながら他の女にうつつを抜かすだなんて。


「別に構わないだろう。モデリーンには一応最低限、婚約者としての責務は果たすつもりだ。出来れば婚約破棄したいところだが陛下の命もあるからな……最悪、モニラ嬢は側妃に娶れば問題なかろう」


 そりゃ政略結婚だから結婚相手と仲良く出来ない場合だってある。仮面夫婦だってそこら辺にゴロゴロしてるのも知っている。だけど兄上は彼女が本当にそんな悪事を働いているのか調査もしないで、ただ妹の証言だけを鵜呑みにして彼女を嫌っている。


「ねぇ、ちゃんと調べたの? 妹の意見だけ聞いて調べもせず、そんな対応取ってるなら僕は兄上を軽蔑するよ」

「モニラ嬢が嘘をつく筈がないだろう、何を言ってるんだ。お前こそモデリーンに何かそそのかされたのか? ほら、やはりあの女は悪女だ。俺だけでなく弟までその毒牙にかけようとするだなんて怖い女だ」


 兄上は僕の話は聞き入れずに自分勝手な解釈をし、怒りながら僕を部屋から追い出した。あまりの対応に僕は呆気に取られ、頭を抱えた。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 ある日、僕がいつもの様に木の上で本でも読もうかと図書室から借りて来た本を小脇に抱え中庭の方へと向かっていた時だった。視線の少し先に深いワインレッドの髪が風に揺れているのが見えた。


 ――彼女だ。


 一人でただ黙って中庭にある四阿の方を見つめて立っている彼女の背中がなんだかとても哀しそうに見えた。彼女の視線の先にあるのは昔、兄上といつもお茶をしていた場所だ。


 暫く後ろで見守っていると、彼女の肩が小さく震えている事に気付いた。四阿を見ながら彼女は静かに泣いていた。兄上との思い出でも思い出しているのだろうか……誰にも気付かれず、彼女はこうやって一人で傷付いた傷を癒しているのか。


「そんなに泣く程、兄上の事が好き?」


 僕は思わず声を掛けていた。ハッとしてこちらを振り返った彼女の瞳は涙で一杯で、それでも泣いていた事に気付かれたのを恥じてか慌ててポケットからハンカチを取り出して涙をふき取った。


「見苦しい所をお見せしました、ルーファス殿下」


 王子である僕の事は知っているらしい。さすが王太子の婚約者となるだけあって、公爵令嬢らしく一瞬で姿勢を正して僕へと挨拶をした。今泣いていたとは思えないほどだ。


「僕こそ邪魔しちゃってごめんね。でもあまりにも君が辛そうに見えたから……」

「いえ、とんでもないです。お気遣い感謝致します」


 気丈に振る舞う彼女と初めて言葉を交わし、自分でも何故か分からないけど僕は言った。


「ねぇ、僕と友達になってよ。僕は君が気に入ってるんだ、だから君の味方だよ」って。


 突然の申し出に目を瞬かせた彼女は、次の瞬間柔らかな微笑みを見せて「はい、喜んで」と言ってくれた。

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