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モニラとモデリーン

「どういう事?」


 わたしが部屋で今夜着ていくドレスやアクセサリーを準備しているとモニラがヒョッコリと顔を覗かせた。こうやって部屋を訪ねてくるのは随分と久々だ。


「そのドレスや宝石とかってルーファス殿下から贈られて来たって聞いたわ。最近は学園でもルーク殿下と一緒に居る所を見ないし、むしろ何故かルーファス殿下と居るわよね。もしかしてお姉様ったら浮気? それともやっとルーク殿下をモニラにくれる気になった?」


 部屋に広げられたドレスを値踏みしながらモニラが問いかけて来る。自分の事は棚に上げてわたしの事を非難する言葉を発する妹に呆れるしかなかった。


「失礼な事言わないでよ……今夜発表があるから話すけど、わたしとルーク殿下との婚約は解消されて新たにルーファス殿下と婚約を結ぶ事になっているの」

「えっ、本当!? じゃあ、やっとモニラはルーク殿下の婚約者になれるのねっ」


 わたしの言葉に嬉しそうにはしゃぐモニラ。


「それは分からないわ、陛下からルーク殿下の新たな婚約の話は出ていないらしいから……だいたい貴方には既に婚約者が居るでしょう?」


 モニラがこんな調子なので根気よく婚約者として接してくれていたディオン・ブレンダーも、最近では誕生日にプレゼントを贈ってくるだけになっていた。無理矢理会わせてもモニラはつまらそうにしているので、そりゃ愛想も尽きるというものだろう。ディオンには申し訳ない事をしたと思っているが今の所は二人の婚約は解消されていない。


「そんなのお父様が勝手に決めただけじゃない。モニラとルーク殿下は愛し合っているんだから、次の婚約者はモニラがなるに決まってるわ」


 ぷくっと頬をふくらませて抗議して来る。公爵家令嬢として勉学だけはマシになったけど、性格は全く変わらなかった事に姉として残念に思う。いくら注意しようがわたしの話なんて聞かないんだもの、どうしようもない。


「ねぇ、モニラ。もう今後はわたしの変な噂話を流さないでね」

「えーなんの事? モニラそんな事してないわ」


 明らかに嘘と分かるがもうこの際そんな事はどうでも良い。


「もしルーク殿下の婚約者が他の誰かに決まっても、そのご令嬢にこれまでと同じ様な事をしてはダメよ? わたしも庇いきれないし、本当に取り返しのつかない事になるわよ」

「何よそれ、いつもそうやってモニラを虐めるのね」

「虐めてなんていないでしょう、いつまでも子供みたいな事言ってないで少しは大人になりなさい」


 徐々に瞳に涙を浮かべ始めたモニラは顔を真っ赤にして「ほっといてよ、お姉様なんて大嫌い」と叫びながら部屋を飛び出して行ってしまった。わたしはモニラのそんな姿を見て頭を抱えながら溜息を零すしかなかった。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 ――モニラもルーク殿下みたいに少しは成長してくれたら良いのに。


 朝のやり取りを思い出すと溜息しか出て来ない。ヒロインならヒロインらしく、もっとまともな恋愛の仕方をして欲しいものだわ。それにしても、この先は一体どうなっていくのだろうか。モニラはルーク殿下ルートに入っているだろうとは思うのだけど、現時点でモニラには別の婚約者が居る。


 わたしもこうしてルーファス殿下の婚約者になったし、随分とゲーム本編とは状況が変わってしまった気がする。


「何を考えているの?」

「あ、いえ……」


 気が付くと陛下からの発表は終わりルーク殿下は壇上に用意された王家専用の席へと戻っていた。今夜の夜会のファーストダンスは新たに王太子となるルーファス殿下が踊る事になっている。楽器の演奏が始まり、わたしはルーファス殿下から差し出された手を慌てて取ってホール中央へと移動した。


 婚約者として踊るのは初めてだけど、ルーファス殿下とはこれ迄幾度かダンスをご一緒した事があった。ルーク殿下に負けず劣らすダンスが上手いルーファス殿下にリードされながら、わたしも踏み慣れたステップを踏む。


 ――ど、どうしよう。なんだか急に胸がドキドキして来てしまったわ。


 ダンスの為とはいえ物理的に身体の距離が近づき、変に緊張してしまう。今まであまり意識して来なかったが、わたしよりも背は高いし華奢に見えて剣術の鍛錬で鍛えられた身体は夜会服越しでもたくましい。ルーク殿下よりも恐らくルーファス殿下の方が筋肉質な身体をしていそうだ。


 ――改めて気付いたけど、ルーファス殿下って男の人なんだわ……、手だって剣ダコが出来てたり大きくてゴツゴツしてるし、わたしなんで今まで平気だったんだろう。


「顔が赤いけど、大丈夫?」

「ひゃっ」


 急に耳元で囁かれて心臓が跳ね上がる。


「へ、平気ですわ……どうかお気になさらず……」

「……そう? 僕は全然平気じゃないんだ、君から甘くて食べちゃいたくなる香りがしてくるから理性を保ってるのが大変だよ」

「んなっ……」


 なんて事を言うんだ、この人は! 恥ずかし過ぎてもう、眩暈がしそうだ。こんなにテンパってるのにステップを間違えずに踏めてるわたし偉い!!


 その後も散々口説かれながらダンスを踊り終え、顔を真っ赤にしながらも皆へと礼をしてその場を離れた。ルーファス殿下に腰を引かれたままバルコニーへと出る。火照った顔を心地の良い風が吹いて冷やしてくれる。


「ル、ルーファス殿下っ。あの様な場で口説かれるのはお止め下さい」


 わたしが恨みがましくそう訴えるとルーファス殿下は不思議そうに笑う。


「どうして? 僕は思った事を素直に話してただけだよ」

「だとしても、もっとオブラートに包むとか……」

「やだよ、僕はモデリーンが可愛いと思ったからそう言っただけだし、嘘はつきたくない。それに“遠慮はしない”って言った事もう忘れちゃった?」


 更に腰を抱き寄せられルーファス殿下がわたしの顎を持ち上げる。


「……あっ」


 間近で見つめ合う形となりわたしを映す黄金色の瞳から目を逸らせなくなる。ルーファス殿下越しの空には大きな満月が浮かんでいた。


 ――こんなスチル、確かあった。ルーファス殿下ルートの一つで……。


「今だって口付けたいって思ってるのに」


 吐息がかかり、ルーファス殿下の唇が近づく。恥ずかしさのあまり咄嗟に彼の胸を押し返そうと試みたけど、そんな小さな抵抗は意味をなさずあっと言う間に唇を奪われてしまった。


「…………んぅ」


 初めての口付けにどうして良いか分からず押し付けていた手で、ルーファス殿下の服を掴む。重ねられている唇の感触にどこか心地よさを感じながら、わたしはドキドキと爆発しそうな胸の鼓動を必死に耐える。


「……はっ」

「……」


 ようやく離された唇に息を整え、わたしを蕩ける様な瞳で見つめるルーファス殿下を見つめ返す。


「愛しているよモデリーン」

「ルーファス殿下……」


 そのまま抱き締められ、わたしも恐る恐る両手を彼の背中へと回す。どうしよう……幸せ過ぎて泣きそう。誰かから愛されるってこんなに幸せなんだ。


 満月の下、わたし達は互いに幸せを感じながら暫く抱き合っていた。

ここで第一章は完結です。

次話からは第二章となります。

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