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新しい未来を夢見て

「少し顔色が戻ったみたいだね、良かった」


 夕方、学園帰りのルーファス殿下が宣言通りに公爵家の邸を訪ねて来られた。立て続けに二人の殿下が訪問されたので使用人達には出迎えやらでバタバタとさせてしまった。わたしの部屋へ通された殿下が安堵の表情を見せながら向かい側のソファーへと腰掛ける。


「お陰様で。でも暫くは学園をお休みしようと思っています」

「うん、いい機会だしちゃんと体調を整えた方が良いよ」

「はい……それと今朝の話ですけど」


 わたしはルーク殿下との話し合いを包み隠さずルーファス殿下へと伝えた。


「そうか……兄上にもこれでモデリーンの気持ちが伝わると良いのだが」

「そうですね」

「今だから話すけど、僕も兄上が本当の意味でモデリーンを愛しているとは思えないんだ。罪悪感から愛そうと思っても人の心はそう簡単に変わる訳じゃない。努力はしただろうけどさ」


 ルーク殿下は同情心からわたしへの罪滅ぼしがしたくて愛していると錯覚されているのだろうと思う。最初こそ熱心にその愛情を向けて下さっていたが、やはり時が経つとそれは徐々に薄れて来て更にモニラとの関わり合いで今の現状に至っているのだろう。


「確かに今までは自分が好まなくてもモデリーンは傍に居た。それが当たり前だったからね。でもその当たり前に居たモデリーンが自分の傍からいざ離れるとなったら惜しくなったのだろう」

「今更ですか」

「そう、今更だよ」


 あんなにわたしを嫌悪して疎ましがっていたのに、皮肉な話だ。


「手離したくないのならよそ見なんかしなけりゃいいのに、本当に馬鹿だよ兄上は」

「ルーク殿下のお心にはいつもモニラが居るのでしょうね」

「僕にはモニラ嬢の魅力はサッパリ分からないけどね。兄上にとっては大切な人なのだろう」


 何度やり直しても惹かれ合う二人。もはや運命の相手としか言えない。ゲームの仕様がどれだけ影響してるのか分からないけど、凄いな……。最初からわたしなんて太刀打ち出来る様な立場じゃなかったんだわ。悪役令嬢だし、ね。


「モデリーン」

「はい」

「君の中にも兄上が居て、簡単にはその想いは消せないとは思う。だから無理に兄上を忘れろとは言わないよ」

「ルーファス殿下……」

「僕と婚約したからといっていきなり僕を好きになれ、愛してくれとも言わない。そんなの無理だろうしね。でも僕が君を愛する事は許して貰えるかな?」


 まっすぐな瞳でわたしを見つめ、そう懇願するルーファス殿下。真剣な想いに胸が熱くなる。


「も、勿論です」

「ありがとう。少しずつでも好意を持ってくれたら良いから」

「そんな……むしろ、好意は既に持っています……」


 元々ずっと仲の良い友人関係だったのだ。好きか嫌いかと問われれば、嫌いな筈がない。


「…………モデリーン」


 スッと立ち上がり、わたしの横へと移動されたルーファス殿下は膝に置いていたわたしの手をそっと取る。甘い眼差しでこちらを見つめ、そっと手の甲へと口付けを落とした。


「あ……」


 少しひんやりとした唇の感触が伝わり、ドキリと胸が跳ねた。


「どう? 僕が触れても嫌ではない?」


 不安そうに注がれる視線に気恥ずかしくなって顔を伏せる。昼間は平気そうにお姫様抱っこしたり頬に触れたりしていたのに、ここにきてそれを聞く!? と突っ込みたくなる。


「はい……嫌じゃないです」


 嫌じゃないというか、何だろう……ルーファス殿下と居ると昔から何故か安心する。わたしを気遣いながら触れてくれているルーファス殿下の優しさになんだか泣きそうになる。思えばルーファス殿下はいつでもわたしに優しかった。


「良かった」


 嬉しそうにわたしの手を包み込んで微笑む笑顔に思わず見惚れてしまいそうになる。さすが攻略対象者、イケメンさが半端ない。


「そ、そういえばルーファス殿下は婚約者がずっと居なかったですよね」


 王太子ではないとは言え、第二王子のルーファス殿下は学園を卒業しても婚約者を決めていなかった。ルーシー王女には公爵家の婚約者が幼い頃から決められていたのに不思議だ。


「うん、陛下からは早く決めろと言われてたけどね。だって僕は君としか結婚したくなかったから」

「なっ……」

「君があんな形で亡くなってなければ、無理矢理にでも兄上から君を攫って国から逃亡しようかとか色々考えていたんだ」

「ル、ルーファス殿下っ」


 とんでもない計画を立てていたルーファス殿下に驚愕する。第二王子が王太子妃を攫って逃亡って、一体何処へ行けば安全なのか分からないんですけど! でも、ルーファス殿下ならそんな事もやってのけそうで怖い。


「まぁ、そうならなくて良かったよ。こうして正々堂々と君を手に入れる事が出来たし」

「そ、そうですね……」

「あ……ちょっと引いちゃった? ごめんね、僕は君の事が好き過ぎるみたいなんだ」

「う……」


 サラッと好きだと述べるルーファス殿下の笑顔が眩しすぎる……。


「名残惜しいけど、そろそろ帰るよ。君の体調も心配だしね」

「あ、はい。お忙しいのにわざわざありがとう御座いました」

「モデリーンに会う為なら幾らでも時間を作るよ、気にしないで」


 玄関ホールまで見送ろうとしたが、わたしの体調を気遣って断られてしまった。代わりにハウンドが見送りを申し出てくれたので、任せる事になった。部屋の入口から遠ざかって行くルーファス殿下の背中を見送る。途中、振り返って手を振ってくれて嬉しかった。


 扉を閉めて誰も居なくなったソファーへと戻る。なんだか寂しさを感じてしまい胸が苦しくなった。まだルーク殿下の事を忘れた訳でもないのに、ルーファス殿下にドキドキしてしまう自分が居る。


「良いのかなぁ……こんな風に幸せを感じてしまって」


 ゲームの中では悪役令嬢のその後は大抵断罪されて婚約破棄になったり、家から追い出されたり、酷い場合は処刑なんてのもザラだ。わたしも何も悪い事はしていないけど、一度は処刑されたものね……。


 悪役令嬢なのに王太子妃になって、更には旦那様から愛される未来――。そんな未来が訪れるだなんて思ってもみなかったな。しかも相手がルーファス殿下とだなんて。


「ううん、悪役令嬢だって幸せになりたいもの。いいのよ、きっと」


 そう気持ちを前向きに切り替えて、わたしは幸せになってやるんだと誓った。

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