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割れた想い

 目の前で割れ落ちた指輪をわたしは呆然として見つめていた。頭の中が真っ白になり思考回路が止まってしまう。これまで見ない振りをして来た不安が現実味を帯びた気がして“あぁ、やっぱりね”と、何処か妙に納得してしまい哀しいという気持ちも湧いてこない。


「……あのお嬢様、私が拾ってさしあげましょうか?」


 落ちた指輪を拾う事もなくただ黙って見つめているわたしにハウンドが声を掛ける。


「いいえ、大丈夫よ」


 わたしは床に落ちた指輪を拾い上げ、手のひらに載せる。さっき迄あんなにキラキラと輝いて見えていたのに、今は何だか色褪せてしまった気がする。


「……ねぇハウンド」

「はい、お嬢様」

「わたし、やっぱり殿下と婚約破棄するわ」

「お嬢様……」


 幸いにも今のモニラは教養もそこそこ身につけている。これなら(相当の努力は必要だが)王太子妃教育を受けても大丈夫な筈。それにやっぱり両想いの二人が結ばれる方が良いに決まっている。問題はどうやって殿下から婚約破棄をして貰うか……よね。


 再びノートを広げ、あぁでもないこうでもないと悩んでいると来客の知らせを受けた。彼が邸へ訪ねて来るなんて初めての事だ。どうしたのだろう。広げていたノートを閉じ、その傍に割れてしまった指輪を置いた。


「どうぞお入り下さい、ルーファス殿下」

「ありがとう」


 制服姿のルーファスと向かい合ってソファーへと腰掛ける。素早く紅茶の用意を済ませ、ハウンドは後ろへ下がった。


「今日は入学式でしたよね?」

「うん、終わって早々に帰って来たんだ。ちょっとモデリーンに確認と許可を取りたくてね」

「確認と許可、ですか?」


 一体なんの話なんだろう。


「……その前に、少し人払いをして貰いたいのだが構わないかい?」


 わたしの斜め後ろに居るハウンドの方をチラリと見るルーファス殿下。余程大切な話なのだろう。わたしは殿下の言う通りにハウンドを廊下へと下がらせた。少し扉は開いているが話の内容は聞こえないだろう。


「で、お話というのは?」

「うん、それなんだけど……モデリーン、指輪はどうしたの? つけていないみたいだけど」

「……!!」


 いつの間に見られていたのか、わたしの左手薬指にルーク殿下からの指輪がない事に気付かれてしまったらしい。


「指輪は……ここです」


 わたしはソファーから立ち上がり、机に置いていた割れた指輪を持って来て見せた。


「さっき割れてしまったんです……」

「そうか……割れたのか」

「はい……」


 ルーク殿下の弟であるルーファスに指輪の事を知られて気まずい気持ちで俯く。


「……なら丁度良いね」

「え……」


 ルーファス殿下の言葉の意味が分からず聞き返した。


「ねぇモデリーン。変な事聞くけど、僕達が人生を何度もやり直ししてるって言ったら……君は信じる?」


 わたしは驚いて目を見開いた。ループの記憶を持っているのは自分だけだと思っていたけど、もしかして違っていたの?


「あぁ、その表情って事はモデリーンも()()、持ってるんだね?」

「ル、ルーファス殿下も……ですか? 本当に!?」

()()()君の魔力(ちから)も使ったからね、もしかしたらそうかもって思ってたんだ」

「どういう事ですか……?」


 ルーファス殿下から聞かされたループの真相は驚くものだった。まさかルーク殿下が発端でこのループが始まっていたなんて……。そして皆でわたしを助けようとしてくれていたなんて。


「だから今回はルーク殿下が初めからわたしに指輪を下さったのですね……」

「まぁ、割れちゃったけどね。モニラ嬢も相変わらずだし……あの二人はやっぱり何度繰り返しても変わる事はないよ」

「……そうですね」


 モニラはずっとルーク殿下の事しか考えない。ルーク殿下はわたしの無実は分かって下さったみたいだけど、やはりモニラに惹かれてしまう。


「ふふっ、なんだ。結局わたしはただのお邪魔虫だっただけ……」


 そんなの分かっていた。だから身を引こうと思ったし婚約破棄がしたかった。でもそれは王家の都合で叶わず、わたしはルーク殿下を嫌いになれなくて何度も何度も恋焦がれて苦しんでいた。


「ホント馬鹿みたい……っ、馬鹿、みたいだけど……それでも好きでした」

「うん、知ってる。辛かったよね、助けてあげれなくてごめんね」


 ルーファス殿下が傍にやって来て優しく頭を撫でてくれた。


「うっ……」


 優しくて大きな手に堪えていた涙が溢れ出した。


「もう大丈夫だから。僕が何としてでも助けてあげるから、だから僕に任せて」


 少し低い艶のある声でルーファス殿下がわたしを抱き寄せ、その広い腕の中に包み込んでヨシヨシと更に頭を撫でてくれる。


「ふっ、うっ……」


 こんな風に優しくされるのに慣れていないわたしは、ルーファスの優しさに包み込まれて涙が止まらなくなってしまった。

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