過去編 ループとクローバー三兄弟
ルークは弟のルーファス、そして双子の妹のルーシーの協力を得て時を遡る魔法を発動させる事が出来た。“頑張ってモデリーンとやり直すんだ”と意気込んでいたが、二度目の人生ではそれは叶わなかった。自分がループの記憶を思い出したのは妻になったモデリーンが視察先で亡くなったとの報告を近衛兵から受けた時だった。
思い出したと同時にその場に膝から崩れ落ちた。この二回目の人生でもルークはモデリーンを嫌い、白い結婚のまま彼女を死なせてしまった。弟のルーファスは幼少期に既に記憶が戻っていた為ルークへ何度も助言をしていたが、ルークは「あの女の話はするな」と聞く耳を持たなかった。
それからは魂が抜けた様に日々を過ごしていたが、初めて時を遡る魔法を発動した時と同じ日時――再びルーク達は魔法の力で時を遡り……二回目のループが勝手に始まった。どうやらこの魔法は発動者の願いが叶えられるまで何度もループを繰り返す仕様になっていた。ルークが記憶を取り戻した時、モデリーンはまだ生きていた。だが事態は取り返しのつかない状態になってしまっていた。
どうしてそんな事になってしまったのか、モデリーンは冤罪で投獄されていた。追いやったのは勿論ルーク自身だ。
「も、モデリーン!!」
慌ててモデリーンの元へと走ったが到着した時、既にモデリーンの刑は執行されており毒杯を飲み切った後だった。
「……ルー……ク……殿下」
最期にルークに会えて嬉しかったのか、モデリーンは一瞬ルークを見て微笑み、そのまま倒れ帰らぬ人となった。自分の手で処刑したも同然の事態にルークは自暴自棄になった。
「兄上は結局、彼女を余計に苦しませているだけだ」
「記憶が戻らないんだ、どうしようもないだろう!」
ルークだけが記憶を取り戻すのが遅いのは何故なのか分からない。もっと魔力を込めた方が良いのだろうか……。話し合いの結果、今度はルーシーも魔法発動に合わせて魔力を加えてみた。
そして三回目のループ。
やはりルークの記憶はなかなか戻らない。相変わらずルーファス達からの助言なんて聞かず、結局はモニラを選んでしまう。そんなルークに、ルーファスもルーシーも呆れるしかなかった。ルークがモデリーンを嫌ったまま結婚式が終わり初夜を迎えるであろう夜。
王太子と王太子妃の夫婦の寝室に深夜、こっそりとルーシーとルーファスは忍び込むのだった。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
ルークが目を覚ますと、そこは自室のベッドの上だった。なんだか長い間、悪い夢を見ていた様な気がする。自分の置かれている状況が整理出来ず、必死に思い出そうとする。最後に思い出せるのはモデリーンと結婚し、初夜を何もせずに互いに背を向けて眠った所までだ。
「モデリーン……はっ! そうだ、モデリーン!!」
夫婦の寝室でなく自室に居る事も不思議だったが、それよりも口から出た自分の声の高さに驚くルーク。
「えっ?」
早まる鼓動を抑えながら姿見の所へ行き、自分の姿を映して見る。そこにはまだあどけなさの残る幼い自分の姿があった。
「あっ……は、はははっ」
思わず笑いが漏れ出る。初めて無事に幼い時に記憶が戻ったのだ。これでモデリーンを助ける事が出来る!!
朝食の後、ルークと同じく幼い姿のルーファスを呼び止めた。
「ルーファス、お前はその、記憶は……」
「……ひょっとして思い出した?」
コクコクと首を縦に振るルーク。
話を聞いてみるとルーファスもルーシーも生まれた時から記憶があるらしい。またしても二人よりは遅い記憶の戻り方だが、それでも今回は無事にモデリーンに出会う前だ。十分間に合う。
「それにしても今回はこんなに早くから記憶が戻るとは……」
「色々魔法を組み立て直したんだよ、それにモデリーンの魔力も勝手に借りた。前回はモデリーンが亡くなる前に手を打ったんだ」
ルークとモデリーンが結婚式を挙げたあの夜、寝静まった寝室にルーファスとルーシーは忍び込んだ。ルーク達が目覚めない様に眠りの魔法を掛けた後、組み立て直した魔法を四人分の魔力を使って発動させたらしい。
「その代わり、ループするのは今回が最後だ」
「え……最後!?」
「もうこれ以上モデリーンが苦しんで死んでいく姿は見たくない。本当ならこんなに何度も苦しむ必要のなかった彼女をループに巻き込んだのは僕達のエゴだ」
「……あ、あぁ。確かにそうだな」
「だから本当に最後のチャンスだ。せっかく記憶が戻ってるんだ、ちゃんとモデリーンを幸せにしてくれ」
「分かってる」
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
そんな経緯があって“現在”を迎えている。それなのに……。
「だ、大丈夫だルーファス! これからは気を引き締めて……」
そう取り繕う様に言葉を発した途端にピリッとした冷気が頬を切り、それと同時に傍にある柱や地面がピキピキッと凍り付いた。ルーファスが怒りのあまり氷魔法を発動させたらしい。
「ひっ……」
本気で弟を怒らせた事に気付いたルークは思わず少し後ずさる。
「もう無理です、貴方には付き合いきれない」
「ル、ルーファス……」
「モデリーンの願いだから貴方に任せようとした。けど肝心の貴方がこの体たらくでは……本当に情けないですよ兄上」
「…………」
スッ……とルーファスが纏っていた冷気が消える。
「モデリーンは僕が貰います」
それだけ告げるとルーファスは兄のルークへ背を向け、入学式の行われる講堂へと歩き出した。




