フォルビア、5歳になりました
家に到着した私は着ている服と履いている靴を脱ぎ捨てる。
ーーはぁはぁ、やっぱりなんかしっくり来ないよ、この服。
脱ぎ捨てた服と靴はミリアさんが拾っていく。
私は魔導書を両手で持ちながら、自分の部屋まで少しずつ歩いて行く。
ーー馬車の中でいっぱい寝たから全然眠くない。勉強は苦手だけど、この魔導書をちゃんと読めるかな。
先程、馬車の中で試しに1ページ開いたのだが瞬間で眠ってしまった。
ーー大丈夫、大丈夫、今回は寝ない。
歩き疲れて床に倒れてしまったので途中からミリアさんに部屋まで送ってもらい、自室の部屋の床に魔導書を広げる。
ーー良かった、文字が読める。やっぱりこの魔導書、日本語で書かれてる。今、思えば、お母さんの話している言葉も、お父さん、ミリアさん、皆が話している言葉を生まれた時から理解できたのは、日本語だったからなのかな。
なになに、魔法を使う際に必要なことは己の内にある魔力を全身に巡らせ、循環させた魔力を使用し、使用する魔法の詠唱を間違いなく発音すること。
極めることが出来れば、詠唱を発音しなくとも魔法を発動することが出来る。
ーーへ~、魔力なんて力があるんだ。私にもあるのかな……。どうやって魔力を循環させるんだろう。
『魔力を感じる方法』
魔法を修得する際、魔力を感じる工程が重要である。
魔力を感じる工程が魔法を使う際に最も重要である。
ただ、最もおろそかにされる部分でもある。
魔力を感じる具体的な方法として、今を感じる練習が得策である。
今、己の存在を意識し、己の存在を感じることが出来れば、自ずと自身の内にある魔力を感じることも可能である。
ーー何言ってるかよく分からない……。え~とつまり、今を感じることが大事てことであってるかな。それなら、お爺ちゃんに教えてもらった座禅でもしてみようかな……。
私はその場に座り、姿勢を正す。
足を汲むのはちょっと難しいため足を延ばしたままだが、さほど問題は無いだろう。
空気を鼻から吸い口から吐く、ただこれの繰り返し。
何度も何度も同じことを繰り返していると、頭の中から余計なことが抜けて行っているのを感じる。
私はどうしてこうなったとか、これからどうしようとか、皆どうしてるかなとか、今ではどうしようもない事実を常に考えてたんだと認識出来た。
その感情も今は段々と遠くに離れていく。
完全に忘れたわけではない。
私は今に集中しているため、過去未来のことを考えることが出来なくなっているだけなのだ。
今に集中していると、胸のあたりが熱いことに気が付いた。
ーー何だろう、この暖かさ胸の奥に広がるような、燃えているような力強い、活力を感じる。
その温かさはどんどん熱くなっていく。
胸が熱くなり、その熱を何とか冷まそうと溜まっている何かを腕、腹、腰、膝、足などに流すことを想像した。
すると、胸にたまっていた熱がそれぞれの部位に向って流れているのを感じた。
ーー全身が燃えるように熱くなる……。どうしよう、熱すぎて気が遠くなってきた。
「フォルビア……」
ーー誰かが私の名前を呼んでいる……。
「フォルビア!」
ーー名前を呼びながら体を揺すられている……。お母さん……かな。
私は重い瞼を開けると、視界がぼやけている。
目の前には綺麗な髪を頭の後ろで結んでいるお母さんの顔があった。
「よかった……。フォルビア!」
ーーどうしたんだろうか、理解できない。
「フォルビアに話しかけても、全然反応しないし、揺すっても起きないし……。フォルビアに何があったのかと思って心配したんだから」
ーー全然気が付かなかった。でもお母さんのおかげでこっちに戻ってこれたのかな。あのままでいたら私の意識はどこに行ってしまっていたのだろうか。
「よかった……。特に何もないみたいね」
お母さんは私から離れる。
魔法書の文末に書いてあったのだが、今をあまりに感じすぎると己の意識は世界の外側に行ってしまい、戻ってこれなくなる、と書かれていた。
私はどうやら死にかけていたらしい。
あの熱く感じていた何かが魔力だとすれば、今も私の体で燃え続けていることになる。
この練習を死なない程度にやれば、私も魔法が使えるかもしれない。
☆☆☆☆
魔法の練習中、何度も死にかけたが私は無事に1歳を迎えるた。
ーーこの世界に来てもう1年も経ってしまったのか……。時の流れが凄く速かった気がする。
お父さん、お母さん、メイドの皆、お婆ちゃん。
たくさんの人が私の誕生日を祝ってくれた。
嬉しい気持ちのまま私は眠りにつく。
朝起きて魔法の練習、歩行の練習、ほんとは筋力トレーニングとか有酸素運動とかしたいけど、まだ幼すぎるよね。
言葉の方はしだいに上達していき、最近では普通に話せるようになっていた。
ここから私は平和な4年間を過ごし、いつの間にか5歳に成長していた。
「ミリアさん! 今日もお庭に行ってきていいですか!」
「フォルビア様……。昨日もお庭に行ってましたけど、少し運動のし過ぎなのではないですか。女性は週、数回程度の散歩で十分ですよ」
ミリアさんは私の心配をしてくれているのだろうが、私は運動していないと落ち着かないのだ!
「大丈夫です。子供は風の子元気な子ってよく言うじゃないですか。子供のうちはいっぱい遊んだ方がいいと思うんですよ」
私は上目使いでミリアさんにお願いする。
「は~、仕方ないですね……。分かりましたよ。奥様には私からお話しておきます」
「やった~、それじゃあ、行ってきま~す!」
私は扉をすぐ開けて部屋から飛び出していった。
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