スレイブ商会
「クレア様、到着いたしました。スレイブ商会でございます」
「ありがとう。さ、フォルビア行くわよ」
私はお母さんに抱き上げられ、馬車を降りる。
「フォルビア立てる?」
お母さんは私を地面に下ろした。
私は足腰に力を入れてその場に立ち、お母さんの手を握りながら、一歩ずつ確かに足を進めていく。
お店の前にはスーツを着た2人の男が立っていた。
「いらっしゃいませ、クレア様。お待ちしておりました」
男たちはお母さんに浅く頭を下げ、挨拶をする。
「マトリリスはいるかしら。フォルビアに似合う服を見繕って欲しいんだけど」
「かしこまりました。マトリリス様をお呼びいたします」
1人の男は店の中に入って行く。
「では、クレア様。お店の中でお待ちください。今、紅茶をお持ちします」
「ありがとう。フォルビアにはミルクをお願い」
「かしこまりました」
私たちは、もう1人のスーツ男に店の中を案内され、高級そうなソファーに座らされた。
その後、スーツを着た男が紅茶とミルクを持ってきた。
私はミルクを飲みながら、お母さんが読んだ相手を待つ。
☆☆☆☆
『コツ、コツ、コツ』
誰かが歩いてくる音が聞こえる。
「クレア様、マトリリス様をお呼びいたしました」
私の目の前にとても綺麗な女性が登場した。
――え……まって、私この人知ってる。
「久しぶりね、クレア。1年ぶりくらいかしら」
「そうね、まだこの子が生まれる前だから1年ほど前ね。あ、そうだフォルビアに紹介するわね。この綺麗なお姉さんは、私の昔からの友達でマトリリス・スレイブ。このスレイブ商会の会長をやってるすごい人なのよ」
――まって、まって、まって、待って! 私、この人知ってる! そうだ、スレイブ商会ってイケプリに出てくる商会だ! 何で今まで気づかなかったんだろう。ライアン王国ってイケプリのステージ名と一緒だ。こんな偶然ってある。いや、ある訳ない!
でも、この世界がイケプリのゲームの世界と同じだったとして、私ってゲームに出てたキャラクターじゃないよね。フォルビアなんてキャラ、私全く知らないし。お母さんのクレアだって全然知らないキャラだ。
でもよく思い出してみれば、この国、ゲームで主人公たちが話していた場所の景色に似てる。
も(・)う(・)…(・)訳が(・)分か(・)ん(・)な(・)い(・)よ(・)!
「それでクレア、今日はいったい何しに来たのかしら?」
「今日はこの子に好きなものを何でも買ってあげるって約束したの。だからまずは、ここでおしゃれな服を見繕ってもらおうと思って。いい服を着れば気分も上がるじゃない」
「1歳にもなっていないのに、服で気分が上がるのかしら……」
「いいじゃない! 可愛い子には可愛い服を着せるのが一番でしょ」
「確かに可愛いけど……。まぁ、いいわ。見繕ってあげる。フォルビアちゃん立てる?」
マトリリスさんは私に手を刺し伸ばす。
私はその手を掴み、ソファーから地面に足を付けて立ち上がる。
「今の服装も十分可愛いけど、今の流行を取り入れた服装にしてみましょうか」
――あのマトリリスさん。私服に興味が全くないというか、私が着ても似合わないというか。私が可愛い服を着るとなんか、なじまないんですよね。
美羽だったころの感情が表に出る。
ただ、マトリリスさんの見繕った服装に着替えると私の印象がガラッと変わった。
「あら! 良いじゃない、さっきの白いドレスもよかったけど、淡い藍色のワンピースも素敵ね!」
「フォルビアちゃんはお母さんに似て顔が綺麗だから、すごくよく似合うと思ったのよ。素材で勝負ってね」
――凄い。私じゃないみたい。いや、私なんだけどさ。でもすごいかわいい。
今の格好だったら竜ちゃんも『か(・)わ(・)い(・)い(・)』って言ってくれるかな……。
「マトリリス! これ今すぐ買うわ!」
お母さんは鞄を取り出し、白金貨を1枚マトリリスさんに渡した。
「あら! こんなにいいのかしら……」
お母さんはマトリリスさんに『まだ何かあるんでしょ』と言いたげな顔をしている。
「ふふ……そんな顔しなくても、ちゃんと用意してあるわよ」
マトリリスさんは箱から綺麗な靴を取り出した。
「さぁ、フォルビアちゃんこれを履いてみて」
それは私が見る限りガラスの靴だった。
足を入れてみると、まるで私専用に作られているみたいにぴったりはまる。
鏡に映る私の姿は、何度も夢見た童話のシンデレラそのもの。
「素敵よ……フォルビア。妖精さんみたいよ」
――お母さんそれはお世辞が過ぎます。いや、お世辞じゃないのかもしれない。
「ありがとう、マトリリス。また、フォルビアが大きくなったら買いに来るわ」
「ええ、いつでも待ってるわよ」
私とお母さんは商品を受け取った後、馬車に再び乗る。
「さて……フォルビア。次は何が欲しい? 人形? それとも玩具かしら」
――もしこの世界がゲームの世界なのだとしたら、私が欲しい物は決まっている。
私が欲しい物を思い浮かべた時、それが売っている店の前にちょうど差し掛かった。
私は何とか指をさしてお母さんに伝える。
「あら……、何か欲しい物が見つかったの?」
私の動きに何かを感じ取ってくれたお母さんは馬車を止めてくれた。
お母さんと一緒に馬車を降りて、私は欲しい物が売っているお店に指をさす。
「フォルビア。もしかして……本が欲しいの?」
私は重たい首を縦に動かし、そうだと伝える。
その本屋はとても古びており、いつ潰れてもおかしくないと思うほど、まがまがしさを放っていた。
だた、この世界が『イケプリ』の世界なのだとしたら、古本屋には私の欲しい物があるはず。
私達はまがまがしい古本屋に入っていった。
本がたくさん並んでおり、かび臭いにおいが漂っていた。
私はゲームをしていた時の記憶を呼び起こす。
――思い出せ、思い出せ。確か……黒くて、表紙によく分からない絵が描いてあったやつ。
私はあまたある本の中で頭の中に思い描いている本を探す。
――あ……これだ!
私は欲しい本を見つけ、指を刺してお母さんに伝える。
「これって……魔導書じゃないの。もしかして、魔導書が欲しいの?」
私は大きく頷く。
「フォルビアが欲しいって言うなら、買わせてもらいましょうか」
お母さんは躊躇なく魔導書を店員らしきお婆さんの前に出す。
「金貨5枚だよ……」
「はい」
お母さんは鞄から金貨5枚を取り出すと店員に渡した。
「確かに……」
「それじゃあ、お家に帰ろうか」
私達は馬車に再び乗り込み、お母さんは魔導書を私に手渡す。
――うん、確かにこれだよ。この魔導書『イケプリ』に出てきた気がする。
魔導書を開くと、いろんな数字や文字、魔法陣らしき模様が描かれていた。
私は数字の羅列を少し見ただけで頭がくらくらしてしまい、寝落ちする。
「あら、あら……。フォルビアにはまだ早かったかしら」
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