一歳の誕生日
私は筋トレが全くできず、どうしようもない気持ちにかられるが、逆に考えて初めから筋トレができたら何も面白くない事実に気づく。
ーーそうだよ、何もできないところから始まったほうが、自分の成長が感じられて楽しいでしょ。初めから何でもできたら、きっとつまらない人生になっちゃうよ。
私は前世の小さい頃を思い出す。
「おい! 美羽何やっんだよ。逆上がりくらい誰でもできるだろ。俺だってできるんだから」
「できないよ、こんなこと! だってやる必要が無いんだもん!」
私は小学校1〜2年の頃、全く運動ができなくて、竜ちゃんには練習にいつも付き合ってもらっていた。
「練習したらできるだろ! 俺だって練習したから出来るようになったんだ!」
「竜ちゃん、練習してたの?」
「当たり前だろ! 初めからできる奴なんていないよ。練習したから出来るようになる。それでいいじゃないか。初めからできなくても、後からできるようになれば結果は同じだろ。いや、後からできるようになったほうが俺は好きかな」
「どうして?」
「え……だって、出来なかったことが出来るようになるって凄くかっこいいじゃん! 最後は必ず正義が勝つ! みたいな感じでさ」
「竜ちゃん、多分意味違うよ」
「そうなのか?」
「はは……でも、確かに出来なかったことが出来るようになるってかっこいいよね!」
「ああ! かっこいいぜ」
「私! もっと頑張るよ。頑張ってカッコよくなる」
「別にお前はカッコよくならなくてもいいんだよ……」
「何で?」
「お前、女だから……」
「別にいいじゃん! 女の子だってカッコよくなれるよ」
「そうじゃねえ……。女がカッコよかった、近くにいる男がカッコ悪く見えるだろ……」
「竜ちゃん。え……もしかして竜ちゃん。自分でカッコいいって思ってる……」
「バ! そ、そんなわけねえだろ!」
ーー懐かしいな……。私、また女の子になっちゃったけど、今はカッコよくなろうなんて思わない。だって、私よりカッコいい人がいたんだから。竜ちゃん……どうしてるかな。
筋トレを始めて数日が経過した。
「奥様! フォルビア様が、お立ちになりました!」
「本当!」
私は何とか立ち上がれた。何かにつかまっていないとまだ難しいけど。
お母さんとミリアさんは本当に喜んでくれた。
ただ立ち上がっただけなのに……。
立ち上がってから、私の行動は早かった。
私は階段にすぐ向う。
階段に手をおき、上る。
一段一段確実に上る。
ただ、階段はやはり強敵だった。
いろんなメイドさんにすぐ見つかってしまうのだ。
私はまだ1年もここにいないはずなので、多分生後8ヶ月くらいだと思う。
8ヶ月で歩けるようになるのは相当稀らしく、逆にメイドさんに見られることも多くなった。
ただ、ミリアさんだけはいつものように私を抱き上げ、部屋まで戻すのだ。
「また、脱走して……。ほんとに元気な方ですね」
クレアさんは少しあきれた声で私を抱えている。
ーーよし、今日も脱走しよう。
そう思って、ふらふらしながら歩いていると扉があいた。
「フォルビア! 今日はお外に行くわよ!」
お母さんだった。
お母さんはすぐ駆け寄ってきて私を抱き上げる。
ーーう、うわぁ、いきなり抱きしめないで。
「フォルビア、今日は大きな街に行くのよ。楽しみでしょ」
お母さんはいつもより高いテンションで話しかけてくる。
私も話しかけたいのだが、声を出すのはまだ難しい。
「今日はフォルビアの欲しい物なんでも買ってあげる。いつも一緒にいてあげられなくてごめんね。今日はそのお詫び、一緒に楽しみましょう」
ーーこのお母さんは、子供との接し方がよく分かってないんじゃなかろうか……。でもまぁ、外の世界を見るにはいい機会か。こんど、いつ外に出られるか分からないし。今のうちに見れるものは見ておこう。
「フォルビアのお洋服は、これにしようかな。それともこれかしら」
お母さんは私にフリフリのついたすごくかわいい服を何枚も試着させてきた。
私は、はっきり言ってどれでもいい。というか……もういっそ寝間着でもいい。
「やっぱりフォルビアにはこの服が似合うわね」
お母さんは結局最初のふりふりが沢山ついた服を私に着せてきた。
ーーまだ立って間もない子供に着させる服ではないと思うが、まぁ、出発できるなら何でもいいですよ。
お母さんは私を再度抱き上げる。
「それじゃあ行きましょうか、ライアン王国へ」
ーーライアン王国……。何か聞いたことあるような。う~ん、思い出せない。まぁ、いつか思い出すでしょう。
私とお母さん、お母さんのメイドさん件私の世話係であるミリアさんが馬車に乗り込む。
「ライアン王国に向ってちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
お母さんが御者さんに行き先を伝える。
すると馬車は動き始め、私たちはライアン王国とよばれる場所に向った。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ーーどれくらい揺られただろうか。私はお母さんの隣で眠っていただけなんだけど。結構時間が経ってる気がする。
「奥様、もうすぐ着きますよ」
「ほら、フォルビア見てみなさい。あれがライアン王国よ」
私はお母さんに持ち上げられ、馬車の窓まで寄せられる。
私の目に飛び込んできたのは、大きな壁。その壁から頭をのぞかせている大きなお城だった。
「どう、凄いでしょ。お父さんはあのお城で働いているのよ。私の友達も、あのお城付近でお店をやってるの」
ーーへ~、そうなんだ。
「それじゃあ、まずお洋服を見に行きましょうかね。スレイブ商会に向ってくれる」
「分かりました」
ーースレイブ商会……。それも聞いたことあるな。
馬車は大きな壁にどんどん近づいていく。
「身分証をご提示願います」
「はい!」
お母さんはカードのようなものを取り出し、鎧を着た男の人たちに見せる。
「クレア・ナーベス様ですね、ではどうぞお通りください」
男たちは道を開ける。
私が不思議そうに見つめていると、お母さんが話しかけてきた。
「あの人たちはね、この国を守る兵隊さんたちなの。凄く強いのよ。お父さんはねあの人たちの上司なの、だからスッゴクお父さんも強いのよ」
ーーへ~、お父さん。あの若さで上司ですか。将来が楽しみですね。まぁ、どうでもいいですけど。
大きな壁を抜けると、そこには私の経験した覚えのない景色が広がっていた。
ーーうわ~凄い……。中世のヨーロッパみたい。レンガ造りなのかな。
馬車が通る道路、道路の脇には多くの店が並んでおり、多数の人でにぎわっている。
綺麗な服を着た人から、質素な服を着ている人、ボロボロの服を着ている人など、いろいろな人がいた。
さらに奥のほうまで行くと、高級感あふれる店がしだいに並び始める。
その場所を行きかう人たちは、すごくきれいなドレスやスマートなスーツ、タキシードなど、いかにも上級層の人たちだと思わせられる人ばかりだった。
「フォルビア、そろそろ着くわよ」
お母さんがそう言うと、馬車は止まる。
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