再び与えられた生…
私の意識は暗い暗い夢の中をさまよっていた。
「ここが地獄…それとも天国…」
私は…後悔しかなかった。まだ何も始まっていなかった。
どうせ死ぬなら竜ちゃんに告白しておけばよかった。
後悔すればするほど、暗闇の中で私の意識は下に沈んで行くような…そんな感じがする。
絶対に上の方へ行きたくなかった。
行ってしまったら竜ちゃんを忘れてしまうような…気がしたから。
どうやら竜ちゃんを思う私の気持ちは相当重かったらしい。
暗闇を真っすぐ進んでいく感覚はしだいに、落ちていく感覚へ変わっていく。
「美羽…」
何だろう…竜ちゃんの声が聞こえるような…。
私の意識の落ちる速度はどんどん上がっていき、そして長くなっていく。
もう上下の感覚は分からなくなった。
こうなっては上に昇っているのか、それとも下に落ちて行っているのか分からない。
私はこの間ずっと竜ちゃんに会いたいと心から思っていただけだった。
――何だろう…良く見えない…。視界が暗い、息が苦しい…手が動かない足も…どこなのここは。
う…光が…。
暗黒な世界から白色光に包まれた世界へいきなり変わる…。
「奥様! 頭が出てきましたよ、もう少しです。頑張ってください!」
「グ―ーーーー! ああぁっぁああアー痛いィィィ! こんなに痛いなんて!」
「頑張れクレア…頑張れ…」
「旦那様! 邪魔です。 もう少しあっちに行ってください!」
「す…すまない…」
「グ…ガあああああ!」
女性が絶痛を感じている声は…意識のはっきりしない私の耳にもしっかりと届いていた…。
「奥様、おめでとうございます。女の子ですよ」
――何だろう…泣きたくないのに、勝手に声が出てしまう。それにしても…ここは…どこ。
「あ…あなたが私の娘なのね…。初めまして…お母さんですよ」
「良くやった! 良くやったぞ! クレア。俺もこれで父親だ」
「旦那様もう少しお静かに! 奥様は今大変お疲れなのです」
「す…すまない」
「ふふ…いいのですよ、こんなにうれしい日は滅多にないんですから」
「クレアに似て綺麗な顔だ…」
「あなたに似て凛々しい表情ですね…」
この2人は誰だろう…綺麗な人とイケメンな人…頭が回らない…、良く見えない…。と言うか…滅茶苦茶眠い…。意識が…遠く…。
「あら…もう寝ちゃったのね…。それじゃあ…私も少し眠ろうかしら」
「ああ、それが良い。しっかりと疲れをいやすんだぞ」
「ええ、ありがとう」
☆☆☆☆
意識がしっかりし始めたのは、光が見えてから数日経ったころだった。
どうやら私は、再び生を受けたらしい…。
「おはよう。フォルビア今日もいい天気ね?」
この綺麗な人は私のお母さんらしい。
長いブロンドの髪…腰辺りまで緩くふわふわに伸びている…手入れが大変そうだ…。
髪と同じ色の細く整った眉毛の下に見えるのは…二重の瞼にとても大きな瞳…しかも青色だ…。サファイア…って言いたいけど、どう見てもサファイアより綺麗…。長いまつ毛で覆われていて、凄い奥行きを感じる…。肌は驚くほど透き通っており、すっぴんでそこまで白いと感動を覚える…。
鼻はスッと通り、全体の印象を整え、軟らかそうな唇はしっとりとしており、とても赤い。
胸は豊満で…私の頭が谷間に埋もれてしまいそう…。羨ましい…。
声は甘く透き通っており小声でも遠くまで届いてしまいそうだ…。
年齢は18から…23の間に見える…。制服を着ていても違和感がないほど若い顏…。
「お!起きたか、フォルビア~お父さんだぞ」
このイケメンな人が私のお父さんらしい。
金色の短い髪に同じ色の凛々しい眉毛…。きりっとした一重の瞼に赤色の瞳…。
目の幅は長く目尻は少々上がっている。その為切れ長の目という印象が強い。
顔の輪郭は男らしく、えらがほどよく出ている…。だが…決して顔が大きい訳ではなく、小顔だ…。
鼻は高く、堀も日本人に比べたら大分深い…。
髭など生えておらずスベスベの肌…、ほどよく日に焼けており健康状態は良好…。
がっしりとした体形は抱っこされていても分かる…、胸板が鉄板かと思うほど硬い…。
まだ年齢は若そうだ…20から…25くらいかな…。
――どうして私がこんなめにあうの…。手も自由に動かせないし、声もうまく出せない…。
ただ…意識だけは、はっきりしてる。
「それじゃ、ミリア。フォルビアのお世話をお願いね」
「はい、お任せください。奥様」
私はお母さんからミリアさんという女性に渡された…。
黒と白を基調としたメイド服…。
顔から推測するにお母さんと同じくらいの年齢。
それにしても…このメイドさんもきれいな人だな…。
ブロンドの長い髪を後頭部で綺麗にまとめ、止めている。
表情は仕事人と言うべきか、絶対に失敗しなさそう…。
常に働いているのではないかと思わせる雰囲気…。
それでいて、どこか優しさも含まれている…。
怒ったらすごく怖そうだ…。
「クレア、それじゃあ俺は仕事に行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃい。お気をつけて」
「ああ、できるだけ早く帰ってくる」
私の両親はアツアツの新婚らしい。
――娘の前で情熱のキッスをして…こっちが恥ずかしい…。それにしてもここはどこなんだろう…、日本じゃないよね。顔が違いすぎるし。それにしてもあれ…どうやって動いてるんだろ。
私の目の前に、鶏のような無機物がくるくる回っている。空中へ浮いているように見えたのだ。
――糸とか繋がってるのかな…いや、糸っぽいものは何にも見えない。それなら電気で動いてるのかな…、電気で動いているのだとしたら、コンセントがあると思うんだけど…どこにも見当たらない。
そんなどうでもいい…。私はいきなり生理現象に襲われた…全く逆らえない…。
――あ…ヤバイ…漏れそう。え…もう漏れてる…。16歳にもなって漏らすなんて…恥ずかしい。ん? いや、今は赤ちゃんだから仕方ないのか。
「あら、おしめを買えないと」
ミリアさんは私の世話係らしい。
――世話係を雇えるなんて、私の両親はお金持ちなのかな…。でもできれば自分でやりたいんだけど…まぁ、赤ちゃんの時は仕方ないか。
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