病弱の少女
「何があったんだろう。ミリアさん、見てきてもいい?」
「行けません! フォルビア様、万が一のことがあったらどうなさるおつもりですか」
「それは……そうなんだけど」
御者さんが様子を聞きに行き、こちらに戻ってくる。
「どうやら、イザベラ様のお茶会に参加される方らしいのですが、体調がすぐれないようです」
「そうなの? 危なくないなら、私が行っても問題ないよね」
私は馬車からすぐさま飛び出し、前で止まっている馬車を覗く。
馬車内で可愛い女の子が相当苦しそうにしていた。
顔色が相当悪い。
真っ白な肌なのだろうが、それを通り越して青紫色に見えてきている。
――ど、どうしよう。勢いよく飛び出してきちゃったけど、私にできることって何? とりあえず話だけでも聞いてみよう。
「あの……大丈夫ですか? その子、相当苦しそうにしてますけど」
「あ、すみません。イザベラ様のお茶会にお誘いを受けたのですがレオナ様は元々体調がよろしくなく、途中までは何とか持ちこたえられていたのですが、ここまで来て体調が悪化してしまい、今引き返そうとしていたところです。レオナ様は、今日のお茶会をずっと楽しみになさっていたのですが……仕方ありません」
――レオナ、レオナって……もしかして、レオナ・サトリーゼ!
「あ、あの。もしかしてサトリーゼ家の方々ですか?」
「は、はい、サトリーゼ家でメイドを務めさせていただいております。このお方は、サトリーゼ家長女、レオナ・サトリーゼ様です」
――レオナさんと言うことは……もしかしたら。
「あの、少し見せてもらえませんか?」
「え! あ、あの、いったい何を」
私はもぞもぞとレオナさん宅の馬車に入り込み、苦しそうにしているその顔に触れる。
「大丈夫です! 心配しないでください!」
私はレオナさんを覗き込む。
「あ……あなたは……誰、ですか……」
「ちょっとおでこを失礼しますよ」
私は手のひらをレオナさんのおでこに当て、溜まっている魔力を吸い出す。
すると顔色がだんだん普通の人間らしい暖色に戻ってきた。
「あ、あれ、何か体が軽くなったような、凄くスッキリしましたわ。って貴方は誰……私にいったい何をなさったんですの?」
「私の家に伝わるちょっとしたおまじないですよ! よく効いてくれてよかったです! 私、フォルビア・ナーベスと言います。丁度イザベラさんのお茶会に向っていたところに、偶然居合わせまして」
――全くの嘘だ。私の家にそんなおまじないがある訳ない。
「そうだったんですの。私、イザベラ様のお茶会に行くのがずっと楽しみだったんです。今、までずっと我慢していたのですがここまで来て我慢できなくなってしまい断念しようとしてたところでしたの。助けていただきどうもありがとうございますわ。必ず何かお礼をいたしますので」
レオナさんは相当うれしいのか、ブロンドの眼を輝かせ、私に迫ってくる。
「い、いえ、大丈夫ですよ。そんな大層なことをしてませんし」
「いえ! 助けていただいたのですから、恩を返すのは当たり前です。それこそ、サトリーゼ家の沽券にかかわることですわ!」
「そ……そうですか。それじゃあ、美味しいお菓子でも、ご馳走していただければ」
「そんなことでよろしいのですの?」
「はい。私、お菓子が大好きなので」
「では、後日、フォルビア様のお宅へと参りたいと思いますわ」
私は馬車から降り、元の馬車に再度乗り込む。
「では! イザベラ様のお宅で!」
レオナさんは先にイザベラ宅に向っていった。
私も乗ってきた馬車に戻る。
「フォルビア様、何をなさっていたのですか?」
「ちょっとね……」
レオナさんの幼少期は凄く病弱だったという設定があるのだけれど、実際は魔力を溜めすぎてしまう体質だったらしい。
その所為で体が魔力によって傷つけられていたのだと後のストーリーで分かるのだけど……。
苦しがっている人がいたら助けてあげたくなるよね。
本来なら魔力は、故意的に溜めようと思わない限り、体内に溜まることはなく汗などと一緒に体外へと放出されていると魔導書に書かれていた。
その為か魔力のせいだと気づくのが遅れてしまったみたい。
「では、イザベラ宅まで再度お願いいたします」
「かしこまりました」
私たちの馬車も動き出し、残りの半分を何事もなく移動した。
イザベラ宅にとうとう到着。
私はあまりの大きさに言葉が出ない。
王様のお城も驚いたけど、これはこれで凄すぎる。
何かのテーマパークかな……。
「お待ちしておりましたわ。フォルビア様、今日はようこそお越しくださいました。是非こちらへ」
私はイザベラさんに連れられて大きな屋敷の中に入った。
――うわ~私のお家よりもずっと広~い、窓から見える庭がこんなに広いなんて。しかも見たことない花もいっぱい咲いてる。
「今日はフォルビア様を含めて、5名の方がお越しになられているのですよ。ご紹介いたしますわ」
今、私はとんでもなく大きなお屋敷の中を歩いている。
天井が高すぎて首がもげそう。
――あの花瓶、いったい、いくらするんだろう。あの絵も、額縁からして高そうだもんな。
「何を見ていらっしゃるのですか?」
「い……いや、凄くいい絵だなと思って……」
「あら! フォルビア様、お分かりになりますの! そうですわよね、この絵は素晴らしいですよね」
「は……はい素敵です」
「やはり、フォルビア様はとても良い感性を持っていらっしゃるのですね」
「そ……そうですかね」
――ヤバイ、特に何も感じてないし、お金のことしか考えてなかったよ
私は、結構歩いた先に周りとは全く違う可愛らしい扉が1枚あるのに気が付いた。
「ここが私のお部屋ですわ。どうです、可愛らしいでしょ」
「は、はいとても」
「もう、そんなに硬くならなくてもよろしくてよ。もっと楽にしてくださいまし」
――そんなこと言われても、ほんとに気を抜いたら昔みたいな言葉遣いを使っちゃうかもしれないし。
「そうですね、分かりました。肩の力を少し抜こうと思います」
「ええ! その方がよろしいですわ。ささ、既に4名の方は揃っておいでですわよ」
イザベラさんは扉を開けた。
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