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#04

最終話です



「タクト、ルルカ君から手紙を預かっている」



父上は、俺を呼び出しそう告げると、ルルカからの手紙を手渡し、話を続けた。



「彼女の生い立ちはお前も聞いていよう。今回第一王子が失脚した事で彼女に降りかかる困難は去ったと思っていたのだがな。お前の元を去る決心は硬いとの事だったので、止めなんだ」



俺は、手紙を受け取ると、ノロノロと自分の部屋に下がり、手紙を読み始めた。



「タクト様、あなた様の元を去るわたくしをお許し下さい。今回事は成り、目の前の危機は去りましたが、これも一時の凪の様に思われます。私の記録は隣国に残っており、またいつの日か、その私の能力を巡って争いが起きる事は必定。

 タクト様をずっとその渦中に置き続ける事は、私の望むところではありません。年上のお姉さん好きのあなた様が、実は一番大事にしている方とお幸せになって下さいますように。

 自分の心に素直になって下さい。いつまでもお幸せに。ルルカ」





最初は、何で?と放心気味に自問自答していた俺だったが、手紙を何回も何回も読み直すうちに、これまで気にも止めなかった違和感が輪郭を帯びてはっきりしてくるのを感じた。



おかしい。

いや、今までずっとおかしかった気がする。




なぜ、都合良く、ルルカは俺の元に来た?


なぜ、都合良く、第二王子が交換留学で来た?


なぜ、都合良く、第一王子派は襲撃して来た?




考えなおしてみれば、思えば疑問だらけだ。

俺は、国家間の謀略の中で言えば、最弱どころか、取るに足らない駒で、

主導権を握るチャンスなど何もない。それなのに端役としては異例な程、事の節目に絡んでいる。




誰が、ルルカを俺の元によこした?


誰が、ルルカを守りたいだけの少年の俺に計画を諭した?


誰が、第一王子派の襲撃を押さえた?




どこまでが本当で、どこまでが仕組まれた嘘なんだ?

俺は誰に、何のために、動かさせられたんだ?









俺は、再度父上の書斎に出向き、父上にこう告げた。



「もう、ルルカも居なくなってしまった事ですし。父上、真相を教えて下さい。俺も五年間を費やしました。知る権利はあると思います」




父上は、俺の表情を興味深そうに見た後に言った。




「ふむ。ギリギリ合格だ。ルルカ君が居なくなったショックで数日は掛かると思っておったし、もし気づかぬならば、それまでだと思っておったが、さすが我が息子よ。


陛下とレナード殿下が気に掛けられるだけの事はあるという事か」




どうやら、俺は試されていたらしい。



「だが、儂からすれば、まだまだ甘すぎるな。事前予告無しでいきなり実践に投入とはいえ、長い学園生活の中で違和感は豊富にあったはず。それを見て見ぬふりでそのままにしておいたのはお前自身だ」



そう前置きして、父上は種明かしをしてくれた。


今回の俺のルルカの物語には2つの柱があった。



1つ目は、俺の適正試験。

父上曰く、父上は少年期から、陛下の影として仕えているそうだ。というか我が家は古来、その役目を持って王国に仕えており、それを知るのは、王族と限られた者のみ。



その重責に耐えられるかどうか、学園を卒業するまでに教育され、適正を測られる。不合格の場合には、同じ役割を負う他家から長が出て、俺はその下に付く事になる。




2つ目は、隣国の王位継承に発する安全保障・外交問題の解決。

隣国の王は、第一王子とそれを取り巻く有力貴族台頭への対応に苦慮しており、我が陛下と水面化で協議していた。取り持っていたのが、父上をはじめとする情報部だ。

その情報部が隣国と共に立案した第一王子派の排除案が、国を跨いだ今回の作戦だった訳だ。



学園を舞台に、俺の成長促進と適正試験も兼ねて、この物語は成就した。




「なるほど。違和感はほぼ解消されました。最後にひとつ教えて下さい。ルルカは、彼女は、どこまでが本当で、今どこにいるのですか?」




「それを知ってどうする?」




「もう追いかけたり、連れ戻したりする気はありません。今の種明かしを聞いて、彼女が我が国の工作員であろうと予想は付いています。


ですが、1つだけ。彼女が転生者である事。それが釈然としないのです」




「確かに。それは、お前も転生者だから気になるところだな」




「っ!俺が転生者だと父上はご存じだったのですか?」




「儂を誰だと思っている。お前の父親だぞ。そして私も転生者だ。我が家はほぼ確実に転生者が生まれて来る。そういう家なのだ。

そして、転生者であれば陛下の影となるべく適正を測られ、稀に転生者でなければ影には選ばれん。

そうなると、ルルカ君の出自も想像がつくであろう?」




「そういう事ですか。まだ私が学ぶべき事は多いでしょうね」




「うむ。これからは儂の後継者として、そしてレナード殿下即位後には、新陛下の影として仕えて行かねばならんからな。学園を出たら王城入りだぞ」



俺にそう告げると、父上は俺を下がらせた。









俺の生活からはポッカリとルルカが抜けたが、それ以外はそれほど変わらない。メイドは変わらず奉仕してくれるし、学園でも生徒会長として変わらず君臨している。


メイドたちも、学園の女生徒たちも、事が済んだら俺から離れられる様に、少しづつ支配を弱めている。何とか卒業には間に合いそうだ。本人たちも気づいているんじゃないかな。



レナード殿下の役者っぷりも、曇らない目で見れば、確かに気付けない程では無い。が、殿下は最初から全部承知していた訳で。さすが王族となると大したものだと思う。

俺がこれから生涯仕えるには申し分無いな。



隣国のクラウス殿下は、騒動の後すぐ帰国されてしまったが、友誼はしっかり結べたので、今後役に立つ事もあるだろう。いつか隣国にも行ってみたい。





「さてと」


俺は、大切な用件を済ませるために、生徒会室に向かう。

今日は顧問の先生との打合せ、と称してソフィアを呼び出してある。





「タクト君、今日の打合せの内容は何でしょうか?」



俺が生徒会室に入ると、ソフィアが俺にそう問いかけてくる。




懐かしいな。

五年前に俺がこの扉を開けた時の事が急に思い出される。



そう、ルルカの言う通り、自分の気持ちに素直になりに来た。




「ソフィア先生。今日は折り入ってお願いがあり、来て頂きました」



「何?急にかしこまって?どうしたの?」





一呼吸置き、俺はソフィアの目を見つめて告白した。


「もうすぐ学園も卒業です。大分お待たしましたが、貴女のこれからの生涯、私と共に歩んで頂けませんか?幸せにします」




俺の言葉を聞き、少しの間キョトンとしたソフィアは、顔を歪め、大泣きし始めてしまった。




「ヒック・・・・ダグドぐん、、おぞいよ、、、、ずっと、、、、まだぜるんだも・・・・。ヒック。。。うぇーーーーん。。」



顔はぐしゃぐしゃだし、泣き過ぎてちょっと何を言っているか分からないが、とても可愛い。



俺は、ソフィアを優しく抱き寄せると、額に優しくキスを落とした。









ここまでの事を全て承知の両家もどうかと思うが、俺とソフィアは挨拶を済ませ、婚約を果たした。結婚式は来年行うの予定だ。



良く考えれば、ここでも違和感があったはずだったんだよな。

貴族の家で娘が二十歳過ぎても放置しておく訳ないのに、ソフィアに浮いた話が一つも無かった理由。


俺待ちだったって事だ。



思っていた以上に俺の考えの浅さが深刻な気がして来た。

これからは更に責任重大な場面が増える事は間違い無いのだから、思慮深くあらねばならないな。




二人の婚約について、家の内外から祝福の言葉を沢山頂いたが、メイドたちに“おめでとうございます”と共に、「隠れて唇を吸い合っていたのを知らないふりが大変でした」としみじみ言われた時は、ちょっと赤面してしまったのは内緒だ。







こうして、俺は十七歳になり、学園を卒業した。

これからまだまだ学び、成長し、苦難を乗り越え、そしてソフィアと楽しい生活を過ごすのだが、それはまたのお話。



(完)




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続編を書いてみました。宜しければこちらも


「未亡人は業が深い」

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