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落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる  作者: 杜野秋人
【第七章】変わりゆくもの、変わらないもの
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7-3.園遊会に向けて

更新止まって本当に申し訳ありません

七章は各エピソードの順番がなかなか決まらなくて。あと今考えてるプロットが確実に賛否を呼びそうで、どう表現したものか迷ってまして。

まあ迷ってても多分そのまま書くんですけど(爆)。


今後もしばらくは不定期連載っぽくなるかも知れません。できるだけ更新ペースを守れるよう頑張ります。




 ミールが伝えた、リ・カルン王アルドシール1世が主催する夏の園遊会の開催までには、まだ1ヶ月ほど猶予があるという。招待客の選定は終わっているにしても招待状の送付、会場や催し物や(きょう)される酒食の準備などもあるため、これは妥当なところだろう。それに、レギーナたちを含めた招待される側の準備期間も必要だ。


「それにしても、ヴェルサッチが支店を出してるなんて思わなかったわ!」


 ということで今、レギーナたちは夏の園遊会で着用するドレスを新調すべく、王都アスパード・ダナの大常設市(ボゾルグ・バーザール)にやって来ている。彼女たちの目的はレギーナの故郷メディオラでも五大服飾工房(ブランド)のひとつに数えられるヴェルサッチの、東方リ・カルン王都支店であった。


「イトロなら東方(こっち)にお店出してても違和感ないんだけど、ヴェルサッチが来てるなんて意外だわ」

「東方の服飾(ラ・モーダ)を是非とも当工房のデザインに取り入れたいと思いましてね。それにイトロさんも支店を出されてございますよ。こちらでの隊商や遊牧民たちの民族衣装とそのデザインを熱心に収集、研究されてあるそうで」


 ヴェルサッチの東方支店長が恭しくレギーナの下問に応えている。あらかじめ来店を伝えさせておいたので、母国の王女にして勇者であるレギーナを歓待するために、準備万端で待っていたわけだ。

 というのも、せっかくの園遊会に既存のドレスで出るわけにもいかないと宮殿秘書(ダビーレ・サラーイ)のジャワドに相談したところ、西方の有名な服飾工房が支店を出しているというではないか。それで調べさせたら、出店していたのはなんとレギーナの故郷メディオラに本拠を置くヴェルサッチだったのだ。

 ヴェルサッチは比較的新興のブランドだが、華美で豪奢なデザインがエトルリアを中心に貴族など上流階級の社交界で持て囃されている。つまり今回の園遊会でのドレスを任せるのに、ヴェルサッチは最良の選択肢と言えるだろう。

 ちなみにイトロは民族衣装やその意匠デザインに強みのあるブランドで、メディオラでも老舗のひとつになる。


 なお五大ブランドの残り3つはプレダ、アルバーニとドルバーナである。

 プレダは元からエトルリア社交界で王侯貴族御用達の老舗ブランドで、服飾もそうだがアクセサリー類に強みがある。アルバーニは質実剛健さがウリで、騎士服や軍服をはじめとした紳士服に強い。創業者ふたりの姓を並べて縮めたドルバーナはエトルリアの気候風土や、エトルリア国内に本拠地を持つ神教や聖典教など世界的宗教の影響を受けて荘厳なデザインの作品が多く、宗教関係者に重宝されている。


「それで、今回のご用命は」

「今度、アルドシール陛下ご主催の園遊会があるのよ。だからそれに着用するドレスを仕立ててもらうわ」

「聞き及んでございます。姫に召して頂けますれば、当方にはこの上ない宣伝となることでしょう。全霊を持って仕立てさせて頂きますのでお任せ下さいませ」

「私だけじゃなくて、蒼薔薇騎士団(わたしたち)全員分お願いするわ」

「畏まりました。他に何かご要望などはございますか」

「そうね、私たちも一応こちらでの社交用にドレスは持ち込んでいるのだけれど、こちらの気候に対応できてないの。さすがにこんなに暑いと思ってなかったのよね」

「なるほど、それで夏に着る(・・・・)お召し物を新しくお仕立てになりたいと。承りましてございます」


 花季の終わりにアプローズ号がラグを出発して、リ・カルン公国の王都アスパード・ダナにたどり着くまでがおよそ1ヶ月半。それから約半月をかけて文献調査などを経て蛇王に挑み、敗れて戻り、リハビリを兼ねた鍛え直しと気の修行に取り組み始めてから、そろそろ1ヶ月が経とうかとしている。

 つまり、ちょうど今が夏の真っ盛りである。ただでさえ西方世界より南に寄っている地理的条件もあって、西方しか知らないレギーナたちにとっては灼熱の世界と言っていい。湿度がなくカラッと乾燥しているため、暑さの割に不快感がそこまでないのがせめてもの救いだろうか。


「そう言えば、こちらでは“暑季(しょき)”って呼ばないのね」

「左様でございます。西方のような“雨季(うき)”というものがありませんで、季節自体も“四季”と呼ぶのだそうでございます」


 西方世界で季節と言えば、花季(かき)、雨季、暑季、稔季(ねんき)寒季(かんき)の五つで、総称して“五季(ごき)”という。だがリ・カルンでは一年を四つの季節に分けて、(バハール)(タべスタン)(パーイーズ)(ゼメスタン)と呼ぶ。雨は一年を通してほとんど降ることはなく、降るとしても日暮れの少し前に瞬間的にザッと降ることがあるほか、冬から春先にかけて散発的に降雨がある程度だ。

 それだけに大地は乾燥し、数少ない河川と湧き水を中心としたオアシスが貴重な水源となっている。


「そんな土地なのに、よくこんな歴史ある大国がこの地に根付いてきたものよね」

「我ら西方人には奇異に映りますが、それだけ大河の恩恵が深かったということでございましょう」


 文明というものは、常に水場から生まれるもの。人が水なくしては生きられないだけに、その営みは常に水のあるところに興るのだ。水を求めて人が住み着き、歳月とともに増えた人口がやがて水の少ない砂漠地帯にも居を求め、そうして出来上がったのが今のこの国の姿なのだろう。


「ま、いいわ。早速採寸をお願い」

「姫ちゃあん、そこはまーちぃと(もうちょっと)歴史に思いば馳せるとこやろ」

「そういうのはミカエラ(あなた)に任せるわ」


 必要な知識以上のものを求めないドライ女子。それがレギーナという娘である。


「ええと、それで、なんで俺まで一緒に来てるのかな……?」


 別室に案内するために従業員たちが集まってくる中、遠慮がちにそう問いを発したのはもちろんアルベルト。

 ちなみに今この場にいるのは蒼薔薇騎士団の4人とアルベルトだけである。銀麗(インリー)は彼の個人奴隷なので園遊会への招待がなく、朧華(ロウファ)は招待があったが社交の場を得意としておらず、辞退したとのこと。ナーンやライ、ナンディーモなどの面々も今回の招待客には含まれていなかった。

 だからアルベルトも、自分も参加しないものだと思っていた。事実、これまでだってイリュリアでもアナトリアでも、彼は従者扱いで公式の場にはほとんど顔を出していなかった。


「何言ってるのよ。あなただって出席する(でる)んだから当然でしょ」

「いや、俺は離宮で留守番しておくから…………ってレギーナさんもミカエラさんも、なんでそんなに驚くのかなあ?」


 なんでも何も、彼女たちは彼女たちで当然彼にエスコートしてもらえるものと思っていたのだから無理もない。


「いやタンマ(待った)姫ちゃん、そういやアルさんて貴族社会のことなんも知らん人やったばい」

「……あ、そっか。じゃあ今から特訓(・・)になるわね」

「え、特訓?」

「そうよ。だって礼儀作法もテーブルマナーも、アルは何も身についてないわけでしょう?」

「ええと、まあ、そうだね」

「だから園遊会までに、私が手取り足取り教えてあげる!」

「えええええ!?」


 ただでさえ若く見目麗しい姫騎士勇者さまで、目のやり場に困る相手なのに一方的に想いまで寄せられてどう対応していいものかさえ分かっていないのに、その上さらに物理的接触(手取り足取り)までもとなると、もうどうしていいものやら。


「というか、俺も招待客に含まれてるの!?」

「大丈夫よ。招待客のパートナー(・・・・・)は招待なしでも入れるもの」

「そ、そうなんだ……。で、でも、手取り足取りまでは必要ないんじゃないかなあ……」

「あら、何言ってるのよ。ダンスの練習もしなきゃなんだから当然でしょう?」

「…………はい?」

「最低でもスタンダードの“ワルツ”と“クイックステップ”は覚えてもらうわ。“タンゴ”やラテンの“パソドブレ”は……、まだ少し難しいでしょうけど」

「まあそのへんは、おいおいやね」

「いやまだやるって言ってな」

「私が付きっきりで教えるから、一緒に頑張りましょ!」


 満面のキラッキラの笑顔でそう言われて、何も言い返せなくなってしまったアルベルトである。


「アルさんアルさん」

「……分かってるよ。言い出したら(・・・・・・)聞かない(・・・・)、でしょ」

「よう分かっとうやん。まあどっちにしろ、アルさんが覚えないかんことやけん、諦めりー(なさい)ね」


 アルベルトがイレデンタ、つまり失われたゲルツ伯爵家の生き残りである以上、蛇王の再封印が終わって西方に戻ればエトルリア王宮に上がってヴィスコット3世に帰還報告をせねばならない。おそらくはその場でゲルツ伯爵位の再叙爵が行われ、その後は彼は貴族として生きていかねばならなくなるはずである。

 これまで平民の冒険者として生きてきたことに配慮して、領地の授与や王宮役職の任命などまではないだろうし、勇者を続けるであろうレギーナと同様に冒険者生活を許容されるかも知れないが、それでも貴族としての礼儀作法やマナー、ダンスなどの教養は身につけておくべきなのだ。


「ということはレギーナ様、こちらの方のお召し物もお仕立てに?」

「ええ。私のパートナーとして飾り立ててもらえるかしら?」

「は。我らヴェルサッチ工房、紳士服はさほど得意ではありませんが、総力を挙げて最高の礼服をお仕立て致しましょう!」


「アルベルトさんは体格も良いし、礼服を纏えばきっと映えるでしょうね」

「おとうさんがカッコよくなるの、楽しみ…!」

「えええええ……」


 こうして逃げ場を失ったアルベルトは、それぞれ個別に案内されてゆくレギーナたちとは別に、男性従業員たちに連れられてやはり別室に案内されて行ったのであった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「もうそろそろ、鎧もどうにかした方がいいと思うのよね」


 ヴェルサッチ工房東方支店から北離宮に戻る馬車の中、窓の外を眺めながらレギーナが呟いた。


「一応、今ゴルドニクのおいちゃんに依頼しちゃおるばってんが」

「それはメインで長く使うやつでしょ。私が言ってるのは、そこまでのつなぎ(・・・)にするやつよ」


 レギーナがこれまで使っていた鎧は真銀(ミスリル)製の特注品で、[魔術防御(バリア)]や[物理障壁(シールド)]などの防御魔術も付与されていた一点物だった。だがそれはあの蛇王との戦いで無残に砕かれて、再生はまず不可能だろう。

 そのため西方のドワーフ王、“岩窟の隠者”ゴルドニクに新たに製作を依頼してはいるが、それがいつ出来上がるのかなんとも分からない。以前の鎧もゴルドニクの製作で、頑固な職人気質の彼のことだから、以前の鎧を上回る出来のものでなければ納得しないだろう。

 だがさすがに、新たな鎧が仕上がるまでの間ずっと実戦に出ずに過ごすというのも、勇者としてはなかなか難しいだろう。


「ばってんが、姫ちゃんの鎧やけんね。下手なもんは着せられんけんが」

「そこは、多少は妥協するわよ」


 妥協といえば、真銀の鎧を得る前の、賢者の学院を卒塔した直後の冒険を始めた頃に使っていた鎧も一応持ってきてはいたりする。ただ16〜17歳当時に使っていたものであり、当時よりも経験を積み、筋肉量を含めた身体数値が向上している今となっては、レギーナのポテンシャルに合わなくなっている可能性が高い。

 だがポテンシャルに合わせるという意味では、新規に鎧を仕立てるにしても同じこと。相応のレベルが求められるため、単に身体に合った既製品で済ますというわけにもいかないだろう。


「まあそこも、ジャワドに相談すべきやろうね」

「鍛冶師繋がりで、景季(カゲスエ)さんにツテがないかな?」

「あー、聞いてみるともいいかも知れんね」

「じゃ、行ってみましょ」


 というわけで、レギーナたちは王宮の馭者に命じて、景季の工房のある大常設市に馬車を向かわせることにした。






いつもお読み頂きありがとうございます。

てなわけで次回更新は一応、未定ということでm(_ _)m


書き上げられれば、その次の日曜に更新します。

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