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落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる  作者: 杜野秋人
【第六章】人の奇縁がつなぐもの
186/189

6-29.完成試射会

【お詫び】

更新止まったまま約3ヶ月も経ってしまい申し訳ありません。

拙作『公女が死んだ、その後のこと』が無事に発売されて気が抜けたというか出し尽くしたというか、しばらく創作意欲がすっかり枯渇しておりました(汗)。

そんでもって2月の半ばからは酷い風邪に罹りまして。先週まで倦怠感やらなんやらで半分死んでました。ていうか現在でもまだ喉が死んでて発声がほぼできない状況ですが(爆)。


それでもまあ、何とか書き上がりましたのでお届けします。

一応、あんまり締まらない形ですが、この回で六章を終えたいと思います。




 荒涼とした風吹きすさぶ、一面の黄色い大地。

 吹き渡る灼熱の風が砂塵を巻き起こし、まともに目も開けていられない。


「なんにも無いわね、ここ」


 容赦なく叩きつける砂塵に顔をしかめたレギーナが、不機嫌そうに呟いた。


「ここは我が国の魔術師団が野外演習に使う場所でしてね。ここでなら思う存分、暴れてもらって構わない」


 ここまで同行してきているロスタムが、そう言って不敵な笑みをレギーナに向けた。


 彼らが来ているのは、王都アスパード・ダナから脚竜車で半日ほど北に移動した場所にある砂漠地帯である。周囲に集落や都市は存在せず、街道からも離れていて人の気配は全くない。人どころか野生動物も、植物の姿さえも一見して見当たらない場所だ。

 逆に言えばそういう場所だからこそ、魔術師団が演習場としているのだろう。不必要かつ余計な被害を出さないという意味では、これほど相応しい場所もないと言える。


こげん(こんなに)広か土地ば、使いもせんで放置しとったい(してるんだ)()……」

「我が国では、このような土地は各所にあるのですよ。川もオアシスも付近にないため、人も生物も定住できなくてね」


 言ってしまえば土地の無駄ではないか。そう言いたげなミカエラの言葉にロスタムが返した言葉は、事実そう見えるだけに反論の余地などなさそうである。

 リ・カルン公国は、その広大な国土の実に六割近くをこうした砂漠地帯が占めている。人々が生活できる土地は川やオアシスのそば、森や海の近く、その上で街道や交易路のルート上に重なる場所に集中しているのだ。

 だから国土面積の割には人口は多くなく、耕作面積も広くはない。人口を支える食料の過半、特に穀物や農作物、果物などは主に交易で調達しているのだという。


 だが、ひとまずその話は()いておくべきだろう。レギーナたちがわざわざその砂漠までやって来ているのは、遊休地や食料問題を解決するためではないからだ。


「うん、ここなら、全力でいけると思う」

「まあ試射(・・)にはおあつらえ向きやね」


 吹きすさぶ風にいつもの黒い三角帽子を飛ばされないよう押さえながらクレアが呟いて、ミカエラも首肯した。

 この地にやって来ているのはレギーナたち蒼薔薇騎士団とアルベルト、朧華(ロウファ)銀麗(インリー)、軍の演習という名目のために同行したロスタムと、サポートや記録を担当する宮廷魔術師(マグーシュ)書記官(ダビール)たちが数人、それに念のために王宮騎士団のうち一隊百名ほどが同行してきている。

 なおナーンやナンディーモは同行してもやる事がないし無駄だからとついてこなかった。ライはライで自分の仕事は屋外にはないと言わんばかりで、出発するレギーナたちをアルターフらと見送っていた。侍女たちの中では、サポートパーティの暫定メンバーにもならされているアルミタが同行している。まあ本人は「勇者様や皆様方の身の回りのお世話のためです!」と強弁していたが。


 彼らがなぜこんな所まで来ているのかと言えば。


「じゃ、加減しなくていいわけね?」

「そやね、やっぱ試射()うたら最大火力て相場の決まっとるけんね」

「ひめも、きっと気に入るよ。“雷の剣”」


 レギーナがミカエラに確認し、ミカエラが薄めの胸を張って肯定し、クレアが両拳をグッと握る。

 そう。つまり、クレアとミカエラがかねてより組んでいたレギーナ用の(・・・・・・)必殺技(・・・)が完成して、その試し撃ちをするためである。


「でも、こんなに広い土地が必要なのかい?」

「正確な有効範囲や威力は使用者の霊力によって変わるはずっちゃん。やけん離宮の鍛錬場より広か土地のほうが良かろうて思うてね」

「ふむ。レギーナどのが全力を出すのなら、山ひとつくらいふっ飛ばしてしまうかもね」

「……さすがに、そこまでやるつもりはありませんよ朧華さま」


 試射の威力規模はあらかじめ使用者であるレギーナと、術式組成者であるクレア・ミカエラとの間で調整が済んでいる。消費霊力はレギーナの霊炉1本分、つまり通常の魔術5回分である。

 本当の意味での最大火力であればレギーナの場合は霊炉5本分だが、そこまで込めてしまうとレギーナの霊力が枯渇することになり、さすがに非実用的である。戦闘中に放つことを考えても、最大で1本分というのが現実的な線だろう。

 ただし、それでどれほどの威力が放てるものかは実際に撃ってみなければ分からない。この試射のあと、実戦使用に向けて威力や霊力量の調整を入れる手はずになっている。


 レギーナ、クレア、ミカエラの三者で詠唱文言と発動手順の最終確認がなされる。その間にアルベルトやロスタムらは巻き込まれないよう後方に下がって距離を取り、代わりに宮廷魔術師たちが前に出る。


「じゃ、始めるわ」


 レギーナのその声を合図に、クレアとミカエラが宮廷魔術師たちの位置まで下がった。それを確認してから、彼女は腰に刷いたドゥリンダナを抜き放つ。

 彼女の視線の先、やや離れた位置にはあらかじめ木偶(デク)人形が一体据えてある。ミカエラがレベル7の[魔術防御(バリア)]を付与しておいたもので、半端な威力の術式では傷ひとつ付かないはずだ。


 いつものように、呟くようなレギーナの詠唱が始まる。距離を取っているアルベルト以下には全く聞こえず、ミカエラたちの位置でも何か呟いているのが分かる程度だ。

 魔術の詠唱とは人に聞かれただけで使用する術式がバレてしまうため、余人に聞き取れないよう小声で唱えるのがセオリーである。今から使うのはオリジナル魔術であるため聞かれたところで術式がバレる恐れはないが、それはそれで未知の魔術行使だと露呈するため、敵に警戒と防護の猶予を与えてしまう。ゆえに未知の魔術であっても聞かれないようにしなくてはならないのだ。


 詠唱が進み、レギーナの身を[魔術防御]の黄色い光が包む。あの時、蛇王にアッサリ打ち砕かれたものと変わらないが、そこの強化はまだこれからの課題である。

 レギーナが手に持つ抜き身のドゥリンダナを頭上に振り上げる。[魔術防御]の外側に、霊力で形作られた本人よりも3倍ほどの大きさの、レギーナの上半身が現れる。本人と同じように振り上げたその手には、やはり霊力で形作った巨大なドゥリンダナが握られている。


「雷」


 レギーナが詠唱を終え、発動文言の発声に入る。それと同時に霊力で作られたドゥリンダナに電光がまとわりつく。それはたちまち周囲の魔力(マナ)を取り込んで、濃密な電撃の塊になってゆく。


「迅」


 レギーナが大きく一歩踏み出した。電撃の塊はそれ自体が巨大な刃のようになり、剣身が本来の5倍ほどにも伸びてゆく。霊力で形作ったドゥリンダナのさらに5倍なので、天高く振り上げたそれはまさしく天を衝くかの如き巨大さだ。

 魔力(マナ)の渦が風を巻き起こし、影響範囲のギリギリ外にいるミカエラたちは踏ん張って耐える。クレアには周囲のミカエラや魔術師たちが手を差し伸べて、彼女が飛ばされないようひと固まりになった。


「剣————!」


 裂帛の気合とともにレギーナが、ドゥリンダナを振り下ろす。袈裟斬りに斬り下ろしたその動きに合わせて、巨大な雷剣も弧を描く。その切っ先から迸った稲光が、轟音とともに標的、前方離れた場所に設置してある木偶人形に向かって落ちた。


 凄まじい轟音と、目も開けていられない雷光と、直後に巻き起こった暴風と。

 一瞬ののちにそれらは収まり、吹きすさぶ魔力(マナ)の嵐もすぐに落ち着く。収まってからようやく目を開けたアルベルトの視界に飛び込んできたのは、レギーナの眼前に大きく穿たれたクレーターであった。木偶人形など欠片も見当たらない。


「えぇ〜……」

「っはは、これは予想以上の威力ですな」


 唖然と呟いたアルベルトの耳に、思わず失笑するロスタムの声が届いた。

 彼らの眼前にはレギーナに駆け寄るミカエラとクレアの姿があった。


「ひめ、どう?」


 最初にレギーナに声をかけたのはクレアだ。


「そうね、却下だわ」

「なんで!?」


 だが、ドゥリンダナを鞘に収めて振り返ったレギーナにダメ出しされて、クレアは思わず声を上げた。


「こんなに威力要らないもの。それに連発できるくらいコンパクトじゃないと、実戦では使えないわ」


 確かにカッコよかったけどね、と付け加えるあたり、クレアに一定の配慮を見せるレギーナである。


「まあそこは、これから調整すっけんが」

「通常の霊力量での威力も試したいわね。あと、文言のうちいくつかは代用できそうなんだけど」

どこらへん(どのあたり)?」

「ここと、ここを削って、こう置き換えたら内容を変えずに文言減らせるんじゃない?」

「えー、それだと威力が…」

「少しくらい減ってもいいわよ。これだけ威力があるんだから」


 歩み寄るアルベルトたちの目の前で、レギーナたちが早速改良を始めている。


「レギーナさん、お疲れさま」

「あっ、アル見てくれた?」

「もちろん。物凄い威力だったね」

「まあ、封印の洞窟では使えそうにないですな」

「そこは改良しますわロスタム卿」


 この威力のままでは、まず間違いなく封印の洞窟を壊してしまうだろう。そうなってしまえば封印そのものも瓦解するし、蛇王が世に解き放たれてしまうことになる。

 なのでクレアがどれほど不服であろうとも、ダウンサイジングは必須と言える。


「こんなにカッコいいのに…」

「これはこれで、こういう開けた場所での魔物暴走(スタンピード)討伐なんかには使えると思うから、残してても構わないわ。でも私は普段遣いできる技が欲しいのよ」


 要するに、時と場所で使う威力や規模を分けられればそれでいいのである。言ってみれば今の技は、[雷迅剣“強”]といったところだろうか。


「おし、ほんならそれで組んでみろう(みよう)か」

「…わかった」

「あとね、これ[風刃]でも組めない?」

「あー、そら組めると思うばい」

「じゃ、そっちもよろしく」

「…ハッ!?雷迅(らいじん)だけじゃなく、風迅(ふうじん)まで…!?」


 どうやらレギーナの必殺剣は、雷だけでなく風も加わりそうである。どちらも黄加護の魔術なので、レギーナとの相性もいいはずだ。


「……なあ少年」

「え、なんですか朧華さん」

「今さらだけど君、よくこの人に勝てたな」

「それは俺が一番腑に落ちてない点ですよ……」


 そしてそんな彼女たちを少し離れて見やりつつ、師匠に慰められているアルベルトであった。

 いや、慰められているのかは微妙かも知れないが。

 言わずもがなではあるが、アルベルトがレギーナに模擬試合で勝てているのは魔術使用禁止(・・・・・・)だからである。魔術まで含めた総合的な技比べであれば、さすがに勇者に軍配が上がることだろう。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「よし、突入するぞ」

「はっ」


 同日、同時刻。

 王都アスパード・ダナからやや北西のとある山中でのこと。巧妙に隠された洞窟の入り口に張り付く騎士たちの一団があった。

 魔術も操る騎士のひとりが素早く詠唱して入り口の隠蔽を[解除]し、次々と騎士たちが洞窟内に侵入してゆく。

 そして数刻後。


「大人しく降伏しろ。そして洗いざらい吐いてもらおうか」


 散発的な戦闘のあと捕虜にした黒づくめの男に騎士剣を突きつけて、北方面クシュティ・アバラグ・元帥(スパーフベド)のラフシャーンが冷徹にそう宣告した。


 ナーンからの情報提供を受けた副王(ビダクシャー)メフルナーズの命により、ラフシャーン率いる北方面軍は秘密裏に“蛇神教”の捜索と情報収集を進めていた。そうして王都アスパード・ダナの北西、エルボルズ山脈の西部にあるという蛇神教の拠点を特定し、少数の制圧部隊をラフシャーン自らが指揮して乗り込んだのだ。

 だが、いざ突入してみるとそこはすでにほぼ無人の有り様であった。拠点維持のための少数の留守居部隊がいただけで難なく制圧に成功し、そして部隊長と思しき男にラフシャーンが自ら尋問に当たっている。


「命が惜しくば蛇神教の新たな拠点、それに首領ニザール・デ・ゴザール25世の居場所を吐いてもらおうか!」

「クカカカカ!(うぬ)らの動向なぞ我らが指導者様には全てお見通しよ!今頃はとっくに新拠点で活動しておられるであろうよ!」


 だが、捕虜の男は高笑いしたのみ。そして次の瞬間、「グッ!」と呻いて喉を詰まらせたかと思えば、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

 慌てて側近たちが男を検分するが、すでに男は事切れた後であった。


「……チッ。自害したか」

「報告!捕らえた蛇神教徒たちが次々と毒を飲んで自害を……!」


 生かして捕らえた他の蛇神教徒も全て自害したと聞いたラフシャーンは、天を仰いで悔しがる。拝炎教の炎官たちも連れてきてはいたが、拝炎教には蘇生させる術がなく、死んでしまった捕虜からは情報を聞き出すことができないのだ。


「……まあいい、撤収するぞ」


 もはやこの拠点に用はない。制圧部隊は拠点内を徹底的に捜索したあと、火をかけて完全に破却してから帰路についたのだった。


「このままで逃げ切れると思うなよ、絶対に見つけ出して潰してやるからな!」


 ラフシャーンの怒りに満ちた決意は、黄色く(けぶ)るリ・カルンの空へと吸い込まれ消えてゆくのであった。






いつもお読み頂きありがとうございます。

これにて、第六章【人の奇縁がつなぐもの】を完結としたいと思います。当初のプロットからは大幅に変更が加わって(特に朧華の関連で)だいぶ迷走した感もありますが、ひとまず収めていただければ有り難いです。



【お知らせとお詫び】

で、七章なんですが、六章と同じくプロットが大幅に変更になってるので迷走が続きます(爆)。そもそも章タイトルすらきちんと決まってないっていう(汗)。

まあ一応、現時点では【変わりゆくもの、変わらないもの】としますが、もしかしたら後々変更するかも知れません。


で、次回更新は未定とさせて頂きます。


またかよとお思いのことでしょうが、しばらくは六章と同様に「書けたらアップする」形になるので、毎週必ず、とはお約束できない感じです。内容も六章とあんまり変わらなくて、基本的に決まっているのはレギーナさんの“覚醒”習得関連と、蒼薔薇騎士団+アルベルトの心身の移ろい……とまあ、ヒューマンドラマちっくな感じになります。

あと、多分ですけど、賛否両論的な展開にもなるはず……あんまり明確な描写はしないつもりですが、もしかしたら閲覧推奨年齢上がっちゃうかも……?(爆)


そんなわけで、作者的には生みの苦しみを存分に味わうマゾな章となる予定です(爆)。ですが読者の皆様にはそんなの知ったこっちゃないので、「更新おせえぞ」「まだかよあくしろよ」などとガンガンクレーム付けていただければ、作者のSUN値がいい具合に鍛えられるかも知れません(爆)。



それでは、七章開始しましたらまたお付き合い頂ければ幸いです。

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体調不良の時はゆっくり休んで下さい 更新は出来る時で大丈夫です、いつまでも待ってます でも1年後なんて事はしないで欲しいですが出来ない時は仕方ないです お身体お大事に
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