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落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる  作者: 杜野秋人
【第六章】人の奇縁がつなぐもの
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6-28.サポートパーティ

「インリー、あなた、蒼薔薇騎士団(うち)に入らない!?」

「…………は?」


 目を輝かせて歩み寄ったレギーナに両手を握られて、銀麗(インリー)が目を(しばたた)かせる。


「ほら、蒼薔薇騎士団(うち)って前衛私しかいないじゃない?」

「ええと……まあ、そうなのか?」

「だからずっと探してたのよ!前衛を任せられる白加護を!」


 蒼薔薇騎士団は黄加護のレギーナ、青加護のミカエラ、赤加護のクレア、黒加護のヴィオレの四人パーティである。

 前衛職は勇者でもあるレギーナのみで、それが強敵と対峙した際に明確な弱点となっているのは、アナトリアの血鬼戦や蛇王戦で浮き彫りになった通りだ。蛇王との再戦に臨むためには、個々のレベルアップももちろんだが、前衛職を増やしてレギーナの負担を軽減することが必要だろう。

 それと同時に、蒼薔薇騎士団に欠けている白加護も必要だ。冒険者のパーティにおいて五人組が推奨されるのは、全ての魔力(マナ)の加護を揃えて魔術的な死角を無くす意味がある。だからパーティにいない白加護を加えることも急務だと言える。


「あなたが加入してくれれば、蒼薔薇騎士団(うち)の問題は全部解決するのよ!」


 白加護はともかく、勇者パーティで前衛を任せられる人材となるとそう簡単には見つからない。しかも蒼薔薇騎士団の場合、加入させるのは見目麗しい女性に限っているため、尚更だ。白加護の前衛職という条件を満たしているアルベルトに加入しろと言い出さないのも、それが原因なのである。

 だが、銀麗であれば性別もクリアできる。実力も申し分ないし、そもそももう1ヶ月以上も行動を共にして、ある程度気心も知れているし問題は何もない。


「賛成」

「まあ、銀麗やったらウチも文句はないたい」

「条件的にはバッチリよね」


 レギーナの独断ではあったが、クレアもミカエラもヴィオレも異論はなさそうだ。というか、普段は感情の起伏が少ないクレアに至っては頬を上気させるほど喜んでいる。まあ彼女の場合は条件云々ではなく、モフモフが正式に仲間になる喜びのほうが大きそうだが。


「いやぁ……それは、ちょっと……」


 だが、意外にも朧華(ロウファ)が難色を示した。


「朧華さま、何か問題でも?」

「うん、確かにこの子は特定のパーティに所属しているわけではないし、もう加冠もしたから、親の(われ)が口を差し挟むことではないと承知しているんだけどね。ただ……」

「……ただ?」

「親が我であることが、問題なんだよ」



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



『いやーレギーナ氏、それはちょっと許可できないっす』

「なんでよマリー!」


 勢い込んで通信鏡で勇者選定会議本部に連絡したところ、担当受付嬢のマリーから即答で却下されてしまった。


(モン) 閃月(シャンユェ)氏は銀月(インユェ)氏の娘、つまり東方の“崑崙(クンルン)”の支配下にあるんすよ?それなのに選定会議が勇者パーティへの加入を認めてしまったら、崑崙(アッチ)が絶対黙ってないっすよ』


 普段は(あざな)でしか呼ばないが、『閃月』とは銀麗の本名で、『銀月』は朧華の本名である。

 朧華の懸念は、東方の英傑の娘であり自らも将来の英傑候補である銀麗が、果たして西方の勇者のパーティに加入が認められるのか、その一点であった。

 そしてその懸念は、正しかったわけである。


 “崑崙(クンルン)”。

 西方世界には勇者の支援組織として、また勇者の国際的中立性を担保する存在として、勇者選定会議が存在する。同様に、東方世界にも勇者に相当する英傑の存在があり、英傑を物心両面で支える組織がある。それが崑崙だ。

 そして崑崙は、勇者選定会議とは組織の成り立ちも、在りようも違う。英傑を支援するというよりは、支配下に置いて管理し統制するのが崑崙という組織なのだという。


「だから言ったじゃないか、多分ダメだろうって。仮に西方の勇者選定会議とやらが加入を認めたところで、崑崙の方は支配下にある貴重な戦力を放出したりしないよ」

「そ、そんな……!」

「他の誰かならいざ知らず、この我の子だからね。崑崙もこの子が生まれた時から注目していたし、行方不明になった時点で大々的に捜索隊も組織されたらしいよ」


 東方世界は、西方世界と比べても広大であり、国の数も民族の種類も無数と言ってよいほど存在する。銀麗が行方不明になったのは華国の西側に広がる中央高原地帯であり、そこは数多の少数遊牧民族がひしめき合う地域だった。

 そこに住む遊牧民族は拠点となる土地を持たず、季節や天候に合わせて民族単位で旅をしながら暮らす人々だ。天幕(ゲル)と呼ばれる組み立て式の簡易家屋を携え家畜たちを追いながら、風の吹くまま気の向くままに、彼らは流浪の生活を続けている。

 そんな生活を送る彼らは、中央高原地帯に広がる高山帯や砂漠地帯を越えて東西の交易を担う隊商(カールヴァーン)を組んで生計を立てる者も多い。家畜と同様の貴重な労働力として、華国やリ・カルンなど大国では禁止されている奴隷を売買することも厭わない。


 銀麗が売られたのも、そうした少数民族出身の奴隷商人のひとりだった。華国で尊崇を集める虎人族の価値と危険性をよく知っていたその奴隷商人は、銀麗を買い取ったあと一目散に華国から離れた。そしてリ・カルンの北に位置する巨大な内陸湖である“央海(おうかい)”や大河の沿岸地域で、彼女を別の奴隷商人に売り飛ばしたのだ。

 高原地帯に無数に存在する少数遊牧民族の奴隷商人に売られたことで、崑崙は銀麗の足取りを一時的に見失った。捜索隊を組織し、ようやく見つけた時には、彼女は奴隷商人に連れられて大河を越えたあとだった。その後、アナトリアでブニャミン・カラスに買われ、しばらく監禁されたあと勇者レギーナを襲撃したことで、ようやくその所在が知れたわけである。


「…………でも、その崑崙(クンルン)とやらは、ここまで私たちに一度も接触してきてないわ」

『勇者との交渉権は選定会議が独占してるっすからね。それに閃月氏——銀麗氏は、あくまでも蒼薔薇騎士団が案内人として雇っているアルベルト氏の(・・・・・・・)()()的な奴隷(・・・・)っすから』

「……つまり、アルが蒼薔薇騎士団(わたしたち)と無関係だったなら、とっくに接触されているはず……ってことね」

『そっす。けどアルベルト氏自身が蒼薔薇騎士団の雇われの身っすからね。アルベルト氏と交渉しようとしたら、どうしたってレギーナ氏に接触しなきゃダメなんすよね』

「それに加えて、我が合流してからは崑崙にも報告して、この子に関しては一任してもらっているんだ」


 朧華に一任した以上、崑崙が直接的に接触してくることは今後もないはずである。そしてその朧華は現状、銀麗がアルベルトの個人奴隷のままであることを容認している。


「ええと、つまり……?」


 銀麗が個人所有の奴隷であることも、西方の勇者パーティと関わっている現状も、朧華が監督し把握していることを前提に崑崙は認めているということになる。だがそれでも、さすがに蒼薔薇騎士団への加入となると話が変わってくる。


「銀麗が選定会議さい()移籍する……っちゅうとも(むつか)しかろうねえ」

『そりゃあ蒼薔薇騎士団に加入するのと同じことっすからね。ムリっすね!』

「ではやはり、諦めるほかはないかしらね」

「えぇ…ヤダ…」


 クレアさん、ワガママ言っちゃいけません。


『ところでレギーナ氏』

「…………なによ」


 どうにも抜け道がなさそうだと悄然とするレギーナに、通信鏡越しにマリーが声をかけ、それに渋々返事したレギーナだったが。


『蒼薔薇騎士団のサポートパーティを結成する気はないっすか?』

「……ん?」

『だからっすね、レギーナ氏は一度蛇王に敗けたじゃないっすか』

「うるさいわね。分かってるわよ」

『そういった場合、任務(ミッション)の確実な遂行のために、勇者パーティを直接的に支援するサポートパーティを組むことが認められてるんすよね』


「…………あっ!勇者条約第34条ね!」

『そっす!』


 勇者条約第34条とは、勇者とそのパーティが単独で遂行困難なほど難易度の高い任務に臨む際に、そのサポートをどうするのか取り決めた条項である。第1項はサポートパーティの結成と運用、第2項は支援を表明した特定の国家との連携、第3項は複数の国家との国際契約による広範な暫定的同盟の締結について、それぞれ定められている。


『そんで、今そこに、もうすでにサポートパーティのメンツが一通り揃ってる(・・・・・・・)っすよね?』


 マリーにそう言われて、レギーナは思わずアルベルトを見た。彼は最初の蛇王戦では戦うことが認められていなかったから、レギーナがピンチに陥るまでは後方で戦況を眺めていただけだった。彼は前衛で、白加護である。

 次いでレギーナは、銀麗を見た。白加護の前衛でアルベルトと丸被りするが、もしも彼女がサポートパーティに加入できるのであれば、蛇王戦限定ではあるがレギーナの望みはほぼ叶う。


「前衛は揃ってるわねえ」

「後衛も()るやん、そこ」

「…………は?オレか!?」


 ヴィオレの言葉を受けたミカエラが指差して、ナーンが素っ頓狂な声を上げた。


「ねえアルミタ」

「えっ、はい……?」

「蛇王戦の間だけでいいから、よろしくね?」

「えっ…………えええええ!?」

「よっしゃ回復役も確保やね」


 前衛二枚に探索者、そして法術師(兼魔術師)。これだけ揃えばパーティとして、最低限の体裁は整っている。


「まだ私、お受けするなんて申しておりませんけれど!?」

「まあまあ良かやん」

「よくありませんよ!」

「あとでメフルナーズ殿下にもお許しもらっとくけんが」

「無理ですってば!」


 侍女アルミタが涙目で抗議しているが、多分おそらく却下である。なにしろレギーナは言い出したら聞かないのだから。


「いやいや待て待て!そらアカンて!」

「そうですよ!横暴反対!」


「うん、反対意見は無さそうね」

『じゃあそれで登録しとくっすね!』

「うわぁ……有無を言わせないなあ……」

「感心してないで止めてくれんか主!」

「言って止まるようなら止めてるんだけどね」

「そんな!」


 とか言いつつ、そのアルベルト自身はサポートパーティの結成も加入も望むところだったので、実のところ止める気など全くなかったりする。


「よし、じゃああとはこちらの問題だけだね」

「朧華さま、お願いしても?」

「任せてくれていいよレギーナどの。どのみち、君と少年は銀麗の修行にも付き合ってもらう予定だったからね。見返りにそのくらいはお安い御用さ」


 というわけで、蒼薔薇騎士団のサポートパーティ結成プロジェクトが唐突に発足したのであった。

 ちなみに、アルミタは再三の固辞の結果、暫定メンバーとしての登録である。他に適当な回復役が捕獲……もとい、見つかれば、彼女は晴れてお役御免となる。


拝火院(アータシュカデ)の神官から、誰か生贄に出してもいいわよ?」

「いや姫ちゃん、言い方」

「さ、さすがに身代わりを差し出すのは……」

「まあ、それはさすがに冗談だけど。でも拝炎教にコネクションを作っておきたいのは本当よ」

「そういうことでしたら……」


 正式メンバーにアルミタがなるのか、それとも他の誰かがなるのかはさておくとしても、回復役となる法術師は必須である。なにしろ前衛だけでなく、回復役もミカエラしかいないのだ。

 それも蒼薔薇騎士団の弱点のひとつであり、蛇王戦でミカエラが前線に出てレギーナを救えなかった要因のひとつでもあったのだから、その補完も必須と言えよう。


『ちなみに回復役が決まらないと、サポートパーティの正式発足とは認められないんで、よろしくっす!』

「ううう、私、責任重大じゃないですか……!」


「ところでミカエラ、こないだ話してたアレはどうなったわけ?」

「アレ?……あー、アレね。今クレアと術式ば組みよるけん、もうちょい待っとって」


 アレとは、クレア発案のレギーナの“必殺技”のことである。

 新たな攻撃力と、頼れる仲間たち。レギーナ自身の訓練の進捗とも相まって、蒼薔薇騎士団の戦力増強は今のところ順調と言えようか。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は22日の予定です。

書けたら更新します(弱気)。

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