9話
翌朝、馬車は多くの人が行きかう王都にあるコストレイス家に到着していた。
母を早くになくした父は、王都で教授をしており中々この屋敷に帰ってくることが少なかった。
領地に移動するまで、母が生きていた時は家族4人でこの屋敷に生活していたがあまり記憶がない。
レイナの馬車が到着すると、入り口にはすでに屋敷の執事長とポプリの母であるメイド長の二人が待っていた。
優雅に淑女のようにお辞儀をするレイナに、二人も深々とお辞儀をする。
しかし、隣のポプリが顔をしかめているのが面白い。
お昼はスレッドと、久しぶりにあう父と昼食を供にする約束をしており、すでに二人が入り口で待っているのが目に入り、レイナも少し恥ずかしさがあった。
……そんな子供扱いしなくてもいいのに。
親ばかというか、シスコンというか二人とも過保護ではないかとレイナ自身思うが、自分がやんちゃで2年も眠っていたとなれば、いまは口を閉じておくことにした。
☆
コストレイス家は、王宮の近くに屋敷を設けている。
元々父の兄である、叔父上が王宮で補佐をしており、その縁もあり父もこの近くに屋敷を設けられたと聞いていた。
「久しぶりだな、レイナ。体は大丈夫か?」
「問題ありませんわ、お父様にはご心配お掛けしました。
この通り元気になりました!」
ニコッと微笑むと、父も笑いかえしてくれた。
レイナの記憶にある父よりも、少し老けたように見えるのは、やはり中々会ってなかったせいか。
「本当は目が覚めたと聞いた時に直ぐに行きたかったんだが、リチャードに止められてしまって…。」
「旦那様、あの時は大事な会合だったでしょうに。
お嬢様に会いたいのは分かりますが、仕事をしてからにしてくれなくては。」
執事長こと、リチャードがフゥとため息を吐きながら窘める。
リチャードは、父の小さいころからの専属執事で、レイナも知っていた。
父を止められる、唯一の人であり、屋敷についてはかなり詳しい。
「お父様。
仕事はキチンとして下さらなくては、リチャードも使用人の皆も困りますよ。」
食卓を挟んで真向かいで、スレッドが父を窘める。
彼も父の助手をしていた為か、父に強気になれていた。
……スレッドが成長したわ。
昔は怒られると、ビクビクしていたのに。まるで母親の気分というのかもしれない。
無意識に笑ってしまうレイナに、スレッドは何さ。と照れたように、スープを口に運ぶ。
(スレッド、今欲しいもの時計)
スレッドを見つめていると、頭に文字が浮かんでくる。
……時計がほしいのかしら?
そういえば、レイナはいつも時計を愛用していたがスレッドが持っているのを見た事がない。
学園が始まるなら、時計も必要になってくるだろう。
データベースを利用したくはないが、弟なら良いだろう。と思いながら、後でポプリに相談しようと、レイナは内心思った。