36話
室内が静かになるほど声をあげたのは、他でもないシャーロットだった。
彼女は大声をあげて立ち上がると、ふるふると肩を震わせている。
下を向いているので、どのような顔をしているかレイナには分からなかったが、もしかしたら泣いているのかもしれない。
「シャーロット‥‥…。」
「知っているんです、私が聖女になれば……。
治癒魔法は貴重だから、戦争に巻き込まれるって事くらい。」
治癒魔法はどの魔法よりも強力だ。
それに神の代弁者なら尚更である、無限に治癒魔法が使えるという事は、その分戦場で活躍できる。
もちろん、彼女はそれを望んでいないだろう。
でも国が、王や他国が望まないとは限らない。
それ位シャーロットにもわかっていたのだ、それなのに彼女は聖女になろうとしている。
「どうしてなの?
教えて下さらない?」
レイナは優しく彼女に歩み寄り、彼女の綺麗な桃色の髪をなでてあげた。
まるで母親が子供を諭すように、優しく。
「神様が言っていたんです。
言う通りに動くべきだって。私にはその素質があるからって。」
「戦争をしろって言っているの?」
「いいえ……」
顔をあげたシャーロットの瞳がまっすぐレイナを見詰めていた。
「彼を救うには、私が聖女になるしかないんです。」
その言葉で、いつかジョシュアの言葉がレイナの頭をかすめる。
彼女は、自分が聖女になりたい訳ではないのだと……。
「それは‥‥…エディ様の事かしら?」
思わずつぶやくと、シャーロットの顔が一気に赤くなる。
……あ、かわいい。
この場では場違いな事を思いながら、思わず微笑みたくなってしまう。
恋をする乙女ってこんなに可愛いのだろうと。
でもそれと同時にレイナには謎があった。
「エディ様がどうして関係あるの?」
「彼の頭痛が酷いんです。
幼少期から持っているって言ってました、でも最近は特に。
それで神様に聞いてみたんです、そしたら私の力を使えれば直せるって。
その為に、聖女になって力を開放しなきゃいけないって。」
それはまるで脅しのようなセリフだった。
聖女になれば、彼女は必然的にこの国の王妃となるであろう。
それは時期ジョシュアの嫁という事なのだ。
大好きな人の為に、望まぬ結婚をしろとシャーロットに言っているのである。
……このまま、ジョシュアエンドに行くには、ここで応援??
悔しくて唇をかみしめたレイナの頭にそんな言葉が降ってきた。
……エンドってどういう事なのだろう?
でもこの流れはレイナは知っていた、何度も夢で見たシーンに近い。
あの時自分は車いすに乗って、電話の向こうでこう言っていたのだ。
「凄いじゃない、頑張ってきて」って。
聖女になってくるというシャーロットの、その背中を押すセリフを。
車いすのまま、本当は自分も着いていきたかった、そういう気持ちを持ちながら彼女は応援していたのだ。
そしてそのまま、データベースは屋敷に侵入してきた聖女の反対派によって、殺害されてしまう。
それは何度もみた光景‥‥…。
苦しくなってレイナは思わず唇をかんで、声を出さないようにした。
口を開いたら勝手にセリフが出てしまいそうだったから。
なにが頑張ってきてよ、それじゃあ誰も報われない。
ジョシュアもシャーロットも、エディも‥‥…そして何一つ関係なかった「データベース」も。




