3話
「じゃあ、軽く問診をしてみようかの。
お名前と年齢をお願いするかの。」
お医者様は、ポプリの用意した果実水を手渡しながら聞いている。
「えっと…。レイナ・コストレイス
コストレイス家の長女で、年齢は14。」
「そうじゃな、レイナお嬢様じゃな。
では彼女は分かるか?」
「私の侍女でメイドのポプリです。」
ポプリは、安心したようにお辞儀をする。忘れる訳ないじゃない。
「完璧じゃな。ではレイナお嬢様、今が何年か分かるかな?」
「何年って……」
そこで、初めて私は周りの変化に気づいた。
いつも部屋から見えていた景色に変化があるのだ。
いやそれより、自分の髪が伸びてるのもだが。
体が丸みがある気がする。
その…胸とか……。
「ちなみに、こちらが今のお嬢様の姿じゃ」
スっと差し出さされた鏡に、見慣れない女性がいた。
アッシュ色の髪に、翡翠の瞳。
見慣れないは嘘になるかもしれない。
見慣れてる、だけど少し大人びた顔をした人物。
「え……私?」
「レイナお嬢様は、約2年間意識不明だったのじゃ。
あの事故から意識が戻ったのも奇跡に等しい。
今のお嬢様は、16歳になっておられる。」
「2年?!」
嘘でしょ?!思わずポプリを見たが、確かに彼女も大人びた姿になっていたし、2年というと既に20近いという事。
令嬢なら結婚している年齢なのだ。
記憶では、まだ17歳のポプリしか知らない。
嘘ならもっとマシな嘘がいい、でも真面目な顔の2人を見たら、冗談なんて言っていられなかった。
✩
お医者様いわく、私は2年間意識不明で眠ったままだったらしい。
あの日、川で溺れた女の子を助ける為に私は勢いで、川に飛び込んだ。
まだ小さな少女を抱え、岸に上げた後から記憶がない。
その時に足を怪我したのか、うまく泳げず溺れてしまったのを、一緒にいたスレッドが大人を呼んでくれたお陰で直ぐに救出されたらしい。
しかし、溺れてからか、足の怪我が原因か定かではないが、私は原因不明の高熱で意識不明になってしまったようだった。
幸い、熱は直ぐに下がったが、かれこれ2年間ずっと寝たままだったらしい。
ちなみに救った少女は無傷だったようで、元気にしているとポプリに言われたから、安心だ。
「まぁ、お嬢様は人の心配より自分の心配を。」
プクッと頬を膨らますポプリは、相変わらず幼く見えるから、ついつい笑ってしまう。
「とにかく、歩けるようになったのは奇跡ですよ!」
これもお医者様を驚かせた1つだった。