25話
この国の国王であり、ジョシュアの父はシャーロットを気に入っていた。
見た目はおとなしく、静かなたたずまいの彼女は人知れず強い回復魔法である白魔法の上位魔法を使える。
そして何より「神」の声が聞こえるらしく、まさしく「聖女」というにふさわしい器なのだ。
その為国王は、いままで居なかった爵位の聖伯をつくりシャーロットを王都に呼び寄せた。目指すは息子の嫁という名の王妃である。
そして、その婚約さえすめば、シャーロットは事実上王都の「聖女」になるのだ。
国王のウキウキ気分を他所に、そこに呼ばれて説明をうけたシャーロットは顔を真っ青にしていた。
「陛下、私では身が重すぎます‥‥…。」
「何をいうか、大丈夫だろう。」
聖女という役目は、実質王都の守護神ということなのだ。詳しくは分からないが、田舎でゆっくり育ってきたシャーロットはいきなり王妃になり守護の女神になれと言われて、頭が付いていけない。
「父上、シャーロットはレノマの村から出てきたばかりです。まずは魔法学園で基礎を学ばせておいては?」
あまりに固まったシャーロットに、表面上夫になるジョシュアが助け舟を出してくれた。
ジョシュアとも、この時あったばかりであまり話したことはなかった。
「それもそうだな、では1年通い魔法の基礎を学んでからでどうだ。」
「父上……何もそんなに。」
「口出しするでない、せっかくの聖女なのだぞ。」
王の一言でそれが決まってしまい、シャーロットの意見は通らなかった。
そして、その約束からもうすぐ1年が経過しようとしていたのだ。
先ほど呼ばれた内容が頭をかすめる、聖女になってしまえば陛下と結婚は確実だし、この力を国の為に使うことになる。
それは、つまり戦場でも活躍するということなのだ。
バルコニーに出たシャーロットは、後ろにいる騎士のエディを見て泣きそうな顔を隠すように笑う。
「シャーロット様。」
「私、エディが回復魔法を使わないでっていう意味が今わかったよ。」
そっと歩むと、寂しそうに笑った。その彼女の表情にエディは唇をかみしめる。
「私、聖女になるわ。国王様に伝えて。」
☆
「馬鹿ね。」
「馬鹿ですね。」
思わず重なっていう二人の声に、スレッドは苦笑するしながら紅茶をすすった。
コストレイス家の応接間、夕方姉であるレイナがスレッドに相談しようとした時、スレッドは客と対応中だった。
それが目の前にいう二人、ジョシュアとエディなのである。まさかの訪問にコストレイス家の執事長リチャードは驚きもせず、普通になれた様子でこの二人を招き入れたのだ。
その二人の表情にスレッドは、姉を呼ぼうとしたときにその姉も普通に来たのだった。
タイミング的に最悪なのか、どうなのかしかし何食わぬ顔で、レイナは淑女の挨拶をすると、スレッドの横に席に着いた。
そして、エディから語られたのが、昨夜のシャーロットの言葉と行動だったのである。
レイナは顔をしかめながら「馬鹿ね」といい、ジョシュアは苦笑しながら「馬鹿ですね」といったのである。
「姉さま、殿下、そういっても始まらないでしょう。」
「まぁそうね、それで私たちに何の相談があってきたの?」
天才的な才を持つスレッドならともかく、ジョシュアは帰ろうとしたレイナを呼び止めたのだ。レイナ自身も訳がわからない。自分は一応一般人ではある。
「まぁ、眠り姫の意見も聞こうとおもってな。」
「そのあだ名はやめてください。」
「失礼。」
そういうと、クスクスわらっていたジョシュアはまっすぐレイナを見詰めた。
赤い瞳には困惑しているレイナの表情がある、スレッドが助け舟をだそうとしたが、すぐにジョシュアの手で遮られる。
「うすうす変な感じはあったんだが、隠し事そろそろやめないか?」
「・・・・・・。」
何分時間がたったのか、数秒だったかもしれないし数十分だったかもしれない。レイナには長い時間に思えた、話して良いのか弟ならまだしも一番かかわりのある男に。それが悩みだった。
しかし、この瞳と声に自分が弱いのを知っていた、見つめられると頭かくらくらするのだ。
彼がそれを知っているのか。内心苦笑しながらポーカーフェイスをするしかない。
動いたのはレイナだった、ため息をつくと目をそっと閉じてまたジョシュアを見詰めた。
……もういいや、逃げれないし。
「ジョシュア様、今からいう事は決して驚かないでくださいね。」
「姉さま!」
おもわず止めに入るスレッドに「大丈夫」というと、またジョシュアを見た。
見詰めると入っていくワードを頭に収める。




