17話
夏の暑さにだらけていると、目の前で本を読んでいたスレッドにジトっとみられた。
「姉様、静かに。」
「う…すみません。」
まさか弟に注意されるとは思わず、飼い主に叱られた犬のようにしゅんと項垂れながら、レイナは書類に目を配る。
春を表す風の月、夏を表す火の月、秋を表す金の月、冬を表す白の月。
この世界には4つの月があり、春風、夏火、秋金、冬白と呼ばれる。
今は、夏火で1番暑い季節でありレイナが苦手とする季節になる。
毎年のことながら、だるさにヤラれるレイナにポプリも呆れているのだが、学園はそれでも休みなどはない。
むしろ、レイナには学園の期末テストが待っているのである。
学年1位のスレッドは、余裕でテストをクリアしたのだが、レイナは悲しい事にクリア出来ず今この状態である。
スレッドがレイナの魔法の筆記に青筋をたて、見事図書館でお勉強コースになってしまった。
「姉様は、仮にもコストレイス家を代表する者でさす。何故実技は出来て筆記はダメなんですか?」
「実技は力技じゃない、覚えるのは……」
「姉様、手を動かしてください。」
「うー、悪魔ー。」
自分の弟ながら容赦ないと、頭を抱えながら文句をいう。撫で回してやろうか。スレッドが嫌がるのは子供扱いされることである。
しかし、この2ヶ月でさらに身長が伸びたスレッドは、等にレイナの身長を超えてしまっており、レイナ的には寂しさがあった。
ふと、レイナはスレッドを見つめながら考えてしまう。
……シャーロットに興味はないのだろうか?
レイナがデータベースの自覚をしてから、何回かスレッドの情報が流れてくる事はあった。
しかしシャーロット自身が直接、攻略対象である3人の話をレイナに聞いてきた事はない。
レイナがみた映像では、シャーロットが自分らしき人に情報を聞いてくるのだ。
それをアドバイスし、2人は幸せになっていた。
多分神様が考える、ストーリーなのだろう。
……でも、映像では私はあの領地の屋敷にいた。
シャーロットは毎回、移転を使ってスレッドと遊びに来てたんだわ。
出来れば、映像じゃなく本とかなら読み返せるのに。
チラッとスレッドをみると、先程とは違い少し顔色が悪く見えた。
………悩み、頭痛?スレッドどうしたの?
基本情報は、見つめないと流れてこないので気づかなかったが、今日のスレッドは調子が悪いようだった。
黙り始めたレイナに、スレッドは心配そうに目を配ろうとして、ふとレイナの後ろにいた人影に気づいた。
「あっ。」
「え?」
驚いた様子で声を上げるスレッドに反応し、レイナも書類から目を上げた。
向かいにいる彼は、レイナの後ろを見つめておりそれに伴いレイナも振り返ると、見覚えのある二人組がいたのだ。
二人はまるで絵に書いたように、漆黒の髪と甘いお菓子の様な桃色の髪の二人は、仲良さそうに図書館から見えるベンチに座っていた。
ここからは二人の後ろ姿しか見えないが、この国の王子である、ジョシュアと神に愛されし少女であるシャーロットに違いない。
その二人の近くには騎士のサイトがいないので、本当にプライベートな雰囲気がある。
何を話しているかは、図書館からは聞こえないが仲の良さはレイナから見ても感じられた。
……シャーロットと殿下?
少し息がしづらいと感じた時に、いきなり向かい側からガタンと何かが倒れる音がした。
音の方へ視線を戻すと、先程とは打って代わりスレッドの表情が険しい物にかわっているではないか。
「スレッド…?」
普段姉の前では、年相応の幼さのある翡翠色の瞳が怒りに満ちた表情をしている。
そして、先程の音はスレッドが立ち上がった際に椅子を倒した音であった。
怒りがあるのか、レイナの声が聞こえてないのか刹那、スレッドは弾かれたように立ち上がり、図書館の玄関に向かって走り出した。
バタバタという激しい足音が鳴り響く、呆然としていたレイナだったが、やっと意識が戻ったようで、絞りあげたような声を漏らした。
「まさか……。」
目線を向けた先には、いつの間にか追いついたらしいスレッドが、ジョシュアの首元を掴んでいる場面ではないか。
流石にやばい、本能で感じたレイナは野次馬を押しのけて自分も現場へ向かった。
よろしくお願いいたします




