16話
こんこんとノックがされる音で、シャーロットは持っていた本を置き声をかけた。
「どうぞ~。」
「シャーロット様、エディです。」
聞きなれた声は、最近聖伯になってから護衛にあたってくれる騎士であるエディだ。
少し高めの彼の声に疲れがみえ、シャーロットは席を立ち自室のドアを開けた。
そこには、少し疲れた顔をしたエディが立っていた。彼はもともと頭痛持ちのようで、今日のような日はよく起きるとしゃべっていたのを思い出す。
「シャーロット様、一緒にケーキたべませんか?」
「良いですけど…エディ様、無理してますよね?」
お菓子につられないぞ、と腰に手をあてプンっとおこると、彼もバレたかと苦笑する。
いつも何か隠し事をするときにエディはシャーロットの好みを持ってくる、これが誰から教えられたのか簡単に騙せたら大違いです!とよくシャーロットは怒っていた。
「じゃあ、ケーキはいりませんね。」
「あ…ケーキに罪はありません!」
「じゃあ、お茶にしましょう!そっからお説教ききますから。」
グイグイと腕をひっぱられ、シャーロットはため息をつきながら自室から出てきた。
この聖伯の爵位を父がもらってから、引っ越してきた家は昔の男爵家に違い広く彼女には居心地がよく感じなかった。
自分は好きで「聖女」というものになった訳ではないし、気が付いたら「主」の声が聞こえる存在になっていた。
それが悪いわけだと思わないし、困っている人を助けるために光魔法で治癒をしていたらいつの間にか「神に愛された少女」と祭り上げられていたのだ。
好きでこんな聖女になりたくないと、学園に行くときに父に言った。父は男爵家の3男で王都に行けず田舎でひっそり生きていく事にしていたらしい。
そんなある日娘がそんなすごい人だとしり「主に尽くしなさい」と毎回言われていたのだ。
今では聖伯という特別な役職をもらい、父と一緒に王都で済むことになったがそれが正しいのかシャーロットにはわからなかった。
「エディ様は、今日もお顔がよくないですね…。」
彼女の護衛をすることになったというエディとは、出会って1年になる。
当時は「聖女」になる気もなく、よく膨れていたシャーロットにエディは根気よく友人として接してくれたのが救いだ。
彼は頭痛持ちのようで、いつも具合を悪くすることがある。
騎士としてはそれで昇進できないと、彼も嘆いており「主」に祈ったことも何回もあった。
「言い方悪いですよ、確かに顔はジョシュアに比べてかっこよくないですけど。」
「そういう意味じゃなくて、顔色です。今日も頭痛ですか?」
「そうですね、最近多くて。」
メサイア家の中庭で、お茶とケーキを出しながらエディが申し訳なさそうに笑った。
そんなエディを隣に座らせながら、シャーロットは手をエディの前にかざす。
ぽうっと淡い光が出て、その光がエディの周りを包む暖かいお湯につかっているような感覚がし、先ほどまでエディが感じていた痛みが少し和らいでいく。
「主よ、いまだけ力を下さい。」
鈴のような声がし、思わずエディはシャーロットのかざしている手をつかんだ。
「え?!」
「ダメです。」
突然の行動に驚いたのか瞳を大きくするシャーロットは、エディが真剣な眼差しでシャーロットを見詰めるから彼の瞳から逃げれなかった。今まで、治癒魔法をして拒否した人物はいなかったので、その拒否に戸惑いと不安が頭によぎる。
「どうしてですか…?私は力があります。」
「ダメですよ、それを使っちゃうと、シャーロット様の嫌だといっていた聖女になっちゃいますよ。」
「聖女……」
「さ、ケーキ食べましょう。紅茶さめちゃいますよ。」
そっと握っていた手を放して、エディが何事もなかったようにつぶやくので。シャーロットは視線をしたに向け唇をかみしめるのだった。
誰かを救いたくて治癒を使っていたが、それが嫌な人もいる。でもそれがないと彼を救えない。
自分は無力なのかと、彼に聞こえないように小さくため息を吐いた。
「主よ……私はどうすれば、いいんでしょうか。」
その言葉は、彼には聞こえていなかったのが唯一の救いだった。
☆
季節は夏、入道雲が空へ上り空が高くなり、太陽が照り付ける時間が長くなる。
そしてなんといっても、この暑さ。レイナは暑さにやられていた。
領地にいた頃も暑さがひどかったが、あそこは川や海が近く、ポプリを連れてよく水遊びに行かせてもらえていたが、ここは王都近くには海がなく川はあるが流石に入る人もいない。
なにより、川でおぼれた経験上あの親馬鹿シスコンの二人から口酸っぱく言われていたのだ。
「水浴びしたい・・・・。」




